満艦飾のパーティー・アルバム

 それはまあさておき、デーモンはレミ・カバカ(ラッセルの声を担当し、ゴリラズの分派であるゴリラズ・サウンド・システムでDJも務める人物)とアンソニー・カーン(シカゴを拠点にコモンやカニエ・ウェストらとコラボしているサウンドメイカー)を共同プロデューサーに迎え、クレジットを眺めているだけでもクラクラする数のコラボレーターを集めている。ゲスト・シンガーとMCは20組以上で、グレアム・コクソン(ブラー)やマリ人の鍵盤奏者であるシェイク・ティジャヌ・セックほか、プレイヤー陣にも見過ごせない名前をラインナップ。キャッチーなポップソングを作ることよりも実験に勤しんで、ウワ音とビートをぶつけ合い、ヒップホップ、トラップ、ディスコ、ハウス、テクノ、ポスト・パンク、ダンスホール、R&B、ゴスペル……と果てしなく可動域を広げて、異質な要素へ対話を促すようにしながら満艦飾のパーティー・アルバムを編み上げた。

 4つ打ち系はこれまでのゴリラズ作品にはなかったスタイルだが、ペヴン・エヴェレットやジェイミー・プリンシプルのようなシカゴ・ハウスの大物を起用してオーセンティシティーを醸し、MC勢にしても、常連のデ・ラ・ソウルを除けばヴィンス・ステイプルズやダニー・ブラウンら活きの良い連中をフックアップ。人選のセンスは今回も非の打ちどころがなく、全般的に女性シンガーを多数フィーチャーしているのも本作の特徴かもしれない。グレイス・ジョーンズとメイヴィス・ステイプルズとカーリー・サイモンという大御所3人の、それぞれ威厳に満ちた歌声を1枚のアルバムで聴かせるなんて、ゴリラズ以外に到底考えられないことだ。

 そんな賑やかでファンキー極まりない作品でありながら、あるいは、本作のカオスが如実に物語っていることなのかもしれないが、アルバムのインスピレーションは目下の世界情勢にあり、出発点でデーモンが提示した問いかけは穏やかならぬものだったという。そう、想像し得る限りもっともクレイジーなことが起きたら、どう感じ、どう行動するのか? 例えばドナルド・トランプがアメリカ大統領になるとか?

 最終的に彼は作品の解釈が狭まることを避けるため、トランプに直接言及する表現を取り除いたというが、曲の端々でいまの世の中にまつわるトピックを読み取ることができる。本作からの先行曲として大統領就任式の前日に暗喩的なプロテスト・ソング“Hallelujah Money”をお披露目したことも、あきらかな意思表示だ。そしてアルバム本編は、ゴリラズはおろかデーモンの全キャリアを振り返っても前例のない、直球のメッセージを込めたアンセム“We Got The Power”で締め括られている。ジェニー・ベス(サヴェージズ)に加えて、かつての宿敵ノエル・ギャラガーと一緒にデーモンが愛と団結を訴えることになるとは、誰が想像しただろう。〈なんでもあり〉とはまさに、こういうことを言うのである。

 

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