最強のヴァーチャル・バンドはまたしても社会の現状を照らし出す。豪華ゲストも入信(?)した快適な〈理想郷〉からゴリラズとデーモン・アルバーンはいま何を伝えようとしている?
テーマありきのアルバム
昨年の12月17日にNYのタイムズスクエアで、18日にロンドンのピカデリー・サーカスにおいて、それぞれ〈Skinny Ape Live〉なるARライヴを開催したのも記憶に新しいゴリラズ。いまや〈ヴァーチャル・バンド〉なるコンセプトの説明すら要さなくなった現代において、拡張現実のパフォーマンスという試みは実に象徴的なものだったと言えるが、そう思えば〈デーモン・アルバーンのサイド・プロジェクト〉的な見られ方をしていた頃と比べても、デーモンとジェイミー・ヒューレットが不和を乗り越えて再始動してからのゴリラズの動きは実に精力的だ。もちろんコンセプトや活動形態に時代やテクノロジーの進歩がうまくマッチしてきた側面もあるのだろうし、ラッセル・ホブス(ドラムス)役のレミ・カバカJrが実体においてもメンバーに名を連ねるようになってからのコンディションの良さもあるのだろうが、相変わらず多彩な音楽活動を並行するデーモンにとってもゴリラズこそがパーマネントな活動拠点=ホームだという意識が強くなっているのは間違いないだろう(さしずめブラーは実家か?)。
そんなゴリラズから通算8枚目のアルバム『Cracker Island』が届いた。間にはデーモンにとって久しぶりのソロ作『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』(2021年)もあり、前作にあたる2020年の『Song Machine Season One』からはおよそ3年ぶり。その前作は、コンセプトやストーリーのあるアルバムとは別軸のアイデアやコラボを身軽に楽曲化してコンパイルする〈Song Machine〉シリーズの第1弾という位置付けで、当時は第2弾の制作も伝えられていたはずだが、結果的にいまのデーモン&ジェイミー的には一話完結型のシリーズよりテーマありきのアルバムのほうが創作意欲を掻き立てたのかもしれない。
ともかく、もともと〈Song Machine〉用を想定していたというバッド・バニーとのコラボ“Tormenta”を起点に制作がスタートし、昨年のワールド・ツアー中に発表されたサンダーキャットとの妖しいファンク・ポップ“Cracker Island”をはじめ、テーム・インパラ&ブーティー・ブラウンを迎えたサイケなディスコ調の“New Gold”、夢の中に出てきたタイの王女(90年代にブラーのバンコク公演で拝謁したそうだ)について歌う幻想的な“Baby Queen”、民謡や童謡っぽい歌い口から派手にジャンプアップするダビーな“Skinny Ape”、アデレエ・オモタヨの美しいコーラスを配した内省的な“Silent Running”……とキャッチーな先行シングル群を重ねて今回のアルバム完成に至ったわけだ。