天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週はまず、心躍るニュースをお伝えしましょう。BLACKPINKのドキュメンタリー映画『BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~』が、Netflixオリジナル作品として配信されます! プレス・リリースによると〈ジス、ジェニー、ロゼ、リサの独占インタビューや未公開映像を織り交ぜ、デビュー前の練習生時代から、世界にセンセーションを巻き起こす舞台裏に迫ります〉とのこと。これはめちゃくちゃ楽しみ!」

田中亮太「BTSの新曲“Dynamite”は米ビルボードのシングル・チャートで2週連続の首位を獲得していますし、K-Popの勢いが止まらないですね。天野くんは最近口癖のように〈“Dynamite”をちゃんとこの連載で取り上げておくべきでしたねー〉と言ってますもんね(汗)」

天野「聴いた当初はピンとこなかったので、マジで後悔しています……。自分の感覚を信じちゃダメですね。さて。訃報もお伝えしなければいけません。シルヴァー・アップルズのシメオン・コックスが9月8日に逝去。82歳でした。コックスはサイケデリックな電子音楽の始祖と言っていいでしょう。Corneliusの小山田圭吾さん、坂本慎太郎さんなどなど、影響を受けた音楽家は数知れず。ここ日本でもさまざまな方が追悼の意を表明していました」

田中「ele-kingで野田務さんが書かれた追悼コラムがとてもよかったです。今週末は『Silver Appples』(68年)など、彼のレガシーを聴いて過ごしたいと思います。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. SZA feat. Ty Dolla $ign “Hit Different”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、SZAがタイ・ダラー・サインをフィーチャーした新曲“Hit Different”です! SZAといえば、〈TDE〉ことトップ・ドッグ・エンターテインメントに所属するミズーリ州セントルイス出身のシンガー。デビュー・アルバム『Ctrl』(2017年)は大絶賛を受けて、2010年代の名盤のひとつと言われていますね」

田中「その才能は認められていますが、かなり寡作家ですよね。その後も『Black Panther: The Album』(2018年)や『ゲーム・オブ・スローンズ』の企画アルバム『For The Throne: Music Inspired By The HBO Series Game Of Thrones』(2019年)への参加などはあったものの、ソロの新曲を発表していません。今年2月にリリースされたジャスティン・ティンバーレイクとの“The Other Side”も、映画『トロールズ ミュージック☆パワー(Trolls World Tour)』のための企画モノでした」

天野「『Ctrl』をリリースするまでにも時間がかかりましたからね……。SZAは大量に録った楽曲からアルバムに収録するものを決められなくて、TDEがハードディスクを没収した、というひどい逸話も残っています。空白期間について彼女自身は、祖母やマック・ミラーの死の影響で、メンタル面でとても辛い時期にあったことを告白しています。ただ現在はようやく創作に向き合えているようで、セカンド・アルバムの制作に取り掛かっているそうです。この“Hit Different”は、おそらく次作からのシングルでしょう。ただ、度重なる制作の遅れから、SZAとTDEはいまもトラブルになっているらしく、〈#FreeSZA〉というムーヴメントもありました。そのフラストレーションもこの曲に込められている、と思われます」

田中「SZAとタイ・ダラ・サインの艶めかしい歌の絡み合いが、ものすごくセンシュアルな曲ですよね。プロデュースは、なんとあのファレル・ウィリアムズ&チャド・ヒューゴのネプチューンズ。ドリーミーな音像や独特のビートの感覚が素晴らしい。とにかく、復活したSZAの今後の活動に期待したいですね! シーアやティンバランドと曲を作った、というニュースも気になります」

 

2. Yellow Days feat. Mac Demarco “The Curse”

田中「2位はイエロー・デイズの新曲“The Curse”。なんとマック・デマルコをフィーチャーしています! UKベッドルーム・ソウルの新星 × USインディー/ローファイの顔役!! これはかなり意外な組み合わせで驚きましたね!!!」

天野「そんなに騒ぎ立てるほどのことですか……? まずイエロー・デイズについて紹介すると、シンガー/マルチ・インストゥルメンタリストのジョージ・ヴァン・デン・ブルーク(George Van Den Broek)によるソロ・プロジェクトです。マンチェスター生まれで、現在はロンドンを拠点に活動。2017年のアルバム『Is Everything Okay In Your World?』が高く評価され、昨年初の来日公演を行いました。ブルージーな歌声とジャズ~ソウル調のサウンドから、よく〈キング・クルール以降〉なんていうふうに語られていますね。TOWER DOORSの小峯崇嗣くんが好きなラインというか(笑)」

田中「イエロー・デイズもマック・デマルコもサイケデリックでメロウなサウンドを得意とするミュージシャンなので、この曲は予想どおりの相性のよさを聴かせていますね。シンセサイザーの音色が心地良くて、レイドバックした雰囲気が夏の終わりを感じさせます」

天野「フレッドペリーのサイトに掲載されているインタビューを読むと、〈あなたの10代を定義する曲は?〉という質問に〈マック・デマルコの“Freaking Out The Neighbourhood”〉と答えていました。彼にとっては思い入れの深いアーティストなのでしょうね。なので、このコラボレーションはうれしかったのだろうなと思います。ベッドルーム・ポップについての記事にも書いたとおり、マック・デマルコはこのシーンに影響力を持っていますし」

田中「イエロー・デイズは、9月18日(金)にこの曲を含むセカンド・アルバム『A Day In A Yellow Beat』をリリースする予定。アルバムには、ビショップ・ネルーやジョン・キャロル・カービー、ネイト・フォックスらも参加しているみたい。レジー・スノウなど、UKのアーティストの参加が目立った前作と比較して、今回はUSのミュージシャンを多く起用していますね。はたしてどんなサウンドになっているのでしょうか?」

 

3. Seth Bogart “Dawn’s Lips”

田中「3位はセス・ボガートの新曲“Dawn’s Lips”。彼が9月25日(金)にリリースするアルバム『Seth Bogart Presents... Men On The Verge Of Nothing』からのリード・シングルです」

天野「LAを拠点に活動する彼は、もともとクィアなパンク・バンド、ハンクス・アンド・ヒズ・パンクス(Hunx And His Punx)の〈ハンクス〉として知られていました。オールディーズ風の甘いメロディーとジャンクなガレージ・サウンドが魅力で、日本でもインディー・ロックやパンクの好事家から愛されていましたよね」

田中「僕も大好きでした! この“Dawn’s Lips”はトッド・ソロンズ監督の映画『ウェルカム・ドールハウス』(95年)の、新たなサントラ用に書かれた曲みたい。2017年、映画の上映にボガートが生で伴奏を付けるというイベントが開催されたそうで、そこでパフォーマンスされた楽曲ではないかと思います。今回の録音には、ビキニ・キルのトビ・ヴェイルがドラムで、ヴェロニカ・フォールズ/ペイシェンスのロクサーヌ・クリフォードがヴォーカルで参加。さらにハンクス・アンド・ヒズ・パンクスのメンバーでもあるアラナ・アムラムがギターを演奏。溌溂としたガレージ・ポップです!」

天野「僕としては、いい曲だけど、めちゃくちゃ普通だなあと思いました(笑)。なお、シングルのB面の“Lavender Heights”にも注目。ボガートはこの曲を〈父親の自死などを引き金に深刻なうつ状態に苦しんでいた20~30代前半の頃のことを歌った〉と説明しています。〈アルコールやドラッグに溺れて、目の前にある人種間の不平等や世の中の問題に気付かなかった時期〉とも書いていて、ボガートにとっては、良くも悪くもイノセントだった時期のことを歌った楽曲なんでしょうね。ちなみにタイトルの〈Lavender Heights〉とは、LGBTQの仲間たちがよく集まっていた場所だそうです。いいエピソードですね。とはいえ、今週亮太さんがこの曲を1位に選んできたので、〈えっ、なんで?〉って思っちゃいましたよ。亮太さんらしいですが……(笑)」

田中「今回のシングルの前に発表した楽曲“Boys Who Don’t Wanna Be Boys(男の子になりたくない男の子たち)”では抑圧的なジェンダー規範を揶揄していたし、彼の表現はよりアクチュアルなものとして研ぎ澄まされている印象なんですよ。そんなことも加味して、〈このタイミングで紹介したい!〉と思いプッシュさせてもらいました!!」

 

4. Lil Durk “The Voice”

天野「4位はリル・ダークの“The Voice”。ダークといえば、シカゴ・ドリル・シーンから頭角を現したラッパー。ビルボード・チャートで2位を獲得したアルバム『Just Cause Y’all Waited 2』はロング・ヒットになっています。リル・ベイビー&ポロ・Gとのシングル“3 Headed Goat”も話題になりましたね」

田中「8月に連載で紹介したドレイクとの“Laugh Now Cry Later”での客演も話題でしたね! そんななかでリリースされたこの“The Voice”は、きたる新作のタイトル・トラックだとか。売れっ子なので、すごく話題になっていますよね」

天野「話題になっている一因としては、ここ最近ビーフでやりあっているシックスナイン(6ix9ine)の新作発表と同日にアルバムをリリースする、なんてリル・ダークが宣言しちゃったことがあるんです。先週9月4日にシックスナインの『TattleTales』はリリースされましたけど、結局リル・ダークはアルバムを発表しませんでした。そのかわり、なんでしょうか。同日にリリースされたのが、この“The Voice”です」

田中「音楽そのものとはまったく関係ないゴシップじゃないですか! で、この曲はGeniusによれば、〈過去のストリート・ライフを悲痛なトーンで振り返った曲〉だそうです」

天野「歌い出しのラインからして、〈俺は痛みをただひとりで生き抜いていた〉ですからね。〈ストリートの声(the voice)になった、そして仲間たち(my people)は俺を信じなかった/ストリートを支えた、そしてやつら(them people)は俺を信じなかった〉と、孤独感をにじませています。トリル・ダイナスティ(Trill Dynasty)、ロウロウターンザットアップ(LowLowTurnThatUp)、アヨ・ブルー(Ayo Bleu)、ターン・ミー・アップ・ジョシュ(Turn Me Up Josh)の4人が携わったプロダクションは、哀愁漂うピアノとギターのブルージーなフレーズやベースラインが印象的で、トラップ・ビートと生演奏が溶け合ったような見事なサウンドです」

田中「ちなみに、リル・ダークの新作『The Voice』は10月にリリースされるとのこと。楽しみです。シックスナインのアルバムの売上に一喜一憂していないで、自分のラップに集中してくださいね!」

 

5. Gorillaz feat. Robert Smith “Strange Timez”

田中「今週最後に紹介するのは、ゴリラズの新曲“Strange Timez”。ゲスト・ヴォーカリストとしてキュアーのロバート・スミスをフィーチャーしています。またこの曲の発表と合わせて、10月23日(金)に新作『Song Machine: Season One - Strange Timez』をリリースすることもアナウンス。同作は〈アルバム〉ではなく、現在発表されている〈Song Machine〉シリーズの楽曲を集めた〈コレクション〉という扱いになるそうです。クレジットも公開され、ベックやエルトン・ジョン、セイント・ヴィンセントら、錚々たる面々とともに日本からCHAIが参加しています!」

天野「CHAIとジェイペグマフィアが一緒に並んでいるっていうのが、不思議ですよね。CHAIは先日、ハインズとのコラボレーション・シングル“UNITED GIRLS ROCK‘N’ROLL CLUB”を発表していましたし、ポップ・シーンにおいて国際的な存在感を発揮しています。ちなみに、ゴリラズの新作はオクタヴィアンやスロウタイ、アースギャングといったラッパーも多数フィーチャー。おもしろい作品になりそうです」

田中「話を“Strange Timez”に戻すと、この曲はサイケデリックなエレクトロ・ポップですね。艶やかさと陰りの同居したヴォーカルは、まさにロバスミ印。ヒプノティックなピアノのフレーズも耳に残ります。リニアなビートはクラウトロック的と言えるかも。イントロの、ちょっとピッチがずれているようなピアノの音色も含めて、キュアーの“The Caterpillar”(84年)あたりを意識したのかな……と思いました」

天野「考えすぎじゃないですか(笑)? “Strange Timez”を収録したEP『Song Machine Episode 6』には〈AURORA Remix〉というのも収録されているのですが、オリジナル・ヴァージョンよりベースが前に出ていたり、ビートが太かったりと、ダンサブルなサウンドです。こちらもなかなかいいですよ」

田中「そのリミックス、ちょっとLCDサウンドシステムっぽいですよね。それにしても、〈AURORA〉とはあのノルウェーの歌手のオーロラなんでしょうか? 知っている方がいたら教えてください!」