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ゴリラズ『Humanz』 異種交配を進めてきた猿たちが人間へ!? デーモン・アルバーンが導き出した進化論の答えを確認しよう

ゴリラズ『Humanz』 異種交配を進めてきた猿たちが人間へ!? デーモン・アルバーンが導き出した進化論の答えを確認しよう

緊急速報! 異種交配を進めてきたゴリラたちがいよいよヒューマンへ!? 首謀者デーモン・アルバーンが導き出した進化論の答えを、さっそく確認してみよう!

 

何でもあり

 いまの音楽シーンにおいて、ゴリラズ以上に真の意味で〈何でもあり〉なアーティストはいない。コラボレーションを基本とし、メンバーはアニメのキャラという時代を先読みしたコンセプトを掲げて生まれた彼らは、ぶっちゃけリアリティーにさえも縛られず、創造欲と想像力に任せてどこへでも旅することができるのだから、これは紛れもない事実である。そしてデビューから最初の10年だけで、30組以上のコラボレーターを交えて4枚のアルバムを発表。ヴィジュアル表現においても画期的な試みを行い、1,500万枚に及ぶセールスを記録するという、目を見張るべき軌跡を描いてきたわけだが、ニュー・アルバム『Humanz』はそんなゴリラズの基準に照らしても、かなり壮大なマイルストーンになった気がする。

GORILLAZ Humanz Parlophone/ワーナー(2017)

 実はこのアルバム、一時は聴けないものと断念していた人も多かったはず。というのも、2010年作『Plastic Beach』のリリースから間もなく、首謀者のデーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットの仲が決裂。以来、2人は各々の活動に取り組み、ジェイミーは絵画制作に打ち込んでキャリア初の展覧会を成功させている。他方のデーモンはご存知の通り、ブラーの一員としてツアーを続行しつつ12年ぶりのアルバム『The Magic Whip』(2015年)を送り出し、初のソロ作『Everyday Robots』(2014年)を発表するのみならず、オペラ作品「Dr Dee」とミュージカル作品「Wonder.land」を上演。トニー・アレンらと組んだロケット・ジュース・アンド・ザ・ムーンでの初作『Rocket Juice And The Moon』(2012年)も忘れてはいけないし、アフリカ・エクスプレス名義では3枚のアルバムを完成させるなど、切れ目なく新しい音楽を作り続けてきた。

 そうこうしているうちに関係を修復した2人は、ロンドン、NY、パリ、シカゴ、ジャマイカでレコーディングを敢行。本編20曲、デラックス・ヴァージョンでは計26曲という大作がここに届けられ、我々は〈4人のメンバー〉と再会するに至った。しかもMVはVR仕立て、生のインタヴューにも応じるという具合に、よりリアルな形で。長い空白を説明する物語も伝えられている。『Plastic Beach』の舞台だった太平洋上の島が海賊の襲撃に遭い、ヌードルは故郷の日本、2Dはグアダルーペ島、ラッセルは北朝鮮へと散り散りになり、潜水艦で脱出したマードックはレーベルが所有する船に拿捕され、アビー・ロード・スタジオの地下に幽閉されていたが、ゴリラズのアルバム作りに着手することを条件に釈放されてバンドが再始動した……というものだ。

 

満艦飾のパーティー・アルバム

 それはまあさておき、デーモンはレミ・カバカ(ラッセルの声を担当し、ゴリラズの分派であるゴリラズ・サウンド・システムでDJも務める人物)とアンソニー・カーン(シカゴを拠点にコモンやカニエ・ウェストらとコラボしているサウンドメイカー)を共同プロデューサーに迎え、クレジットを眺めているだけでもクラクラする数のコラボレーターを集めている。ゲスト・シンガーとMCは20組以上で、グレアム・コクソン(ブラー)やマリ人の鍵盤奏者であるシェイク・ティジャヌ・セックほか、プレイヤー陣にも見過ごせない名前をラインナップ。キャッチーなポップソングを作ることよりも実験に勤しんで、ウワ音とビートをぶつけ合い、ヒップホップ、トラップ、ディスコ、ハウス、テクノ、ポスト・パンク、ダンスホール、R&B、ゴスペル……と果てしなく可動域を広げて、異質な要素へ対話を促すようにしながら満艦飾のパーティー・アルバムを編み上げた。

 4つ打ち系はこれまでのゴリラズ作品にはなかったスタイルだが、ペヴン・エヴェレットやジェイミー・プリンシプルのようなシカゴ・ハウスの大物を起用してオーセンティシティーを醸し、MC勢にしても、常連のデ・ラ・ソウルを除けばヴィンス・ステイプルズやダニー・ブラウンら活きの良い連中をフックアップ。人選のセンスは今回も非の打ちどころがなく、全般的に女性シンガーを多数フィーチャーしているのも本作の特徴かもしれない。グレイス・ジョーンズとメイヴィス・ステイプルズとカーリー・サイモンという大御所3人の、それぞれ威厳に満ちた歌声を1枚のアルバムで聴かせるなんて、ゴリラズ以外に到底考えられないことだ。

 そんな賑やかでファンキー極まりない作品でありながら、あるいは、本作のカオスが如実に物語っていることなのかもしれないが、アルバムのインスピレーションは目下の世界情勢にあり、出発点でデーモンが提示した問いかけは穏やかならぬものだったという。そう、想像し得る限りもっともクレイジーなことが起きたら、どう感じ、どう行動するのか? 例えばドナルド・トランプがアメリカ大統領になるとか?

 最終的に彼は作品の解釈が狭まることを避けるため、トランプに直接言及する表現を取り除いたというが、曲の端々でいまの世の中にまつわるトピックを読み取ることができる。本作からの先行曲として大統領就任式の前日に暗喩的なプロテスト・ソング“Hallelujah Money”をお披露目したことも、あきらかな意思表示だ。そしてアルバム本編は、ゴリラズはおろかデーモンの全キャリアを振り返っても前例のない、直球のメッセージを込めたアンセム“We Got The Power”で締め括られている。ジェニー・ベス(サヴェージズ)に加えて、かつての宿敵ノエル・ギャラガーと一緒にデーモンが愛と団結を訴えることになるとは、誰が想像しただろう。〈なんでもあり〉とはまさに、こういうことを言うのである。

 

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