緊急速報! 異種交配を進めてきたゴリラたちがいよいよヒューマンへ!? 首謀者デーモン・アルバーンが導き出した進化論の答えを、さっそく確認してみよう!
何でもあり
いまの音楽シーンにおいて、ゴリラズ以上に真の意味で〈何でもあり〉なアーティストはいない。コラボレーションを基本とし、メンバーはアニメのキャラという時代を先読みしたコンセプトを掲げて生まれた彼らは、ぶっちゃけリアリティーにさえも縛られず、創造欲と想像力に任せてどこへでも旅することができるのだから、これは紛れもない事実である。そしてデビューから最初の10年だけで、30組以上のコラボレーターを交えて4枚のアルバムを発表。ヴィジュアル表現においても画期的な試みを行い、1,500万枚に及ぶセールスを記録するという、目を見張るべき軌跡を描いてきたわけだが、ニュー・アルバム『Humanz』はそんなゴリラズの基準に照らしても、かなり壮大なマイルストーンになった気がする。

実はこのアルバム、一時は聴けないものと断念していた人も多かったはず。というのも、2010年作『Plastic Beach』のリリースから間もなく、首謀者のデーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットの仲が決裂。以来、2人は各々の活動に取り組み、ジェイミーは絵画制作に打ち込んでキャリア初の展覧会を成功させている。他方のデーモンはご存知の通り、ブラーの一員としてツアーを続行しつつ12年ぶりのアルバム『The Magic Whip』(2015年)を送り出し、初のソロ作『Everyday Robots』(2014年)を発表するのみならず、オペラ作品「Dr Dee」とミュージカル作品「Wonder.land」を上演。トニー・アレンらと組んだロケット・ジュース・アンド・ザ・ムーンでの初作『Rocket Juice And The Moon』(2012年)も忘れてはいけないし、アフリカ・エクスプレス名義では3枚のアルバムを完成させるなど、切れ目なく新しい音楽を作り続けてきた。
そうこうしているうちに関係を修復した2人は、ロンドン、NY、パリ、シカゴ、ジャマイカでレコーディングを敢行。本編20曲、デラックス・ヴァージョンでは計26曲という大作がここに届けられ、我々は〈4人のメンバー〉と再会するに至った。しかもMVはVR仕立て、生のインタヴューにも応じるという具合に、よりリアルな形で。長い空白を説明する物語も伝えられている。『Plastic Beach』の舞台だった太平洋上の島が海賊の襲撃に遭い、ヌードルは故郷の日本、2Dはグアダルーペ島、ラッセルは北朝鮮へと散り散りになり、潜水艦で脱出したマードックはレーベルが所有する船に拿捕され、アビー・ロード・スタジオの地下に幽閉されていたが、ゴリラズのアルバム作りに着手することを条件に釈放されてバンドが再始動した……というものだ。
満艦飾のパーティー・アルバム
それはまあさておき、デーモンはレミ・カバカ(ラッセルの声を担当し、ゴリラズの分派であるゴリラズ・サウンド・システムでDJも務める人物)とアンソニー・カーン(シカゴを拠点にコモンやカニエ・ウェストらとコラボしているサウンドメイカー)を共同プロデューサーに迎え、クレジットを眺めているだけでもクラクラする数のコラボレーターを集めている。ゲスト・シンガーとMCは20組以上で、グレアム・コクソン(ブラー)やマリ人の鍵盤奏者であるシェイク・ティジャヌ・セックほか、プレイヤー陣にも見過ごせない名前をラインナップ。キャッチーなポップソングを作ることよりも実験に勤しんで、ウワ音とビートをぶつけ合い、ヒップホップ、トラップ、ディスコ、ハウス、テクノ、ポスト・パンク、ダンスホール、R&B、ゴスペル……と果てしなく可動域を広げて、異質な要素へ対話を促すようにしながら満艦飾のパーティー・アルバムを編み上げた。
4つ打ち系はこれまでのゴリラズ作品にはなかったスタイルだが、ペヴン・エヴェレットやジェイミー・プリンシプルのようなシカゴ・ハウスの大物を起用してオーセンティシティーを醸し、MC勢にしても、常連のデ・ラ・ソウルを除けばヴィンス・ステイプルズやダニー・ブラウンら活きの良い連中をフックアップ。人選のセンスは今回も非の打ちどころがなく、全般的に女性シンガーを多数フィーチャーしているのも本作の特徴かもしれない。グレイス・ジョーンズとメイヴィス・ステイプルズとカーリー・サイモンという大御所3人の、それぞれ威厳に満ちた歌声を1枚のアルバムで聴かせるなんて、ゴリラズ以外に到底考えられないことだ。
そんな賑やかでファンキー極まりない作品でありながら、あるいは、本作のカオスが如実に物語っていることなのかもしれないが、アルバムのインスピレーションは目下の世界情勢にあり、出発点でデーモンが提示した問いかけは穏やかならぬものだったという。そう、想像し得る限りもっともクレイジーなことが起きたら、どう感じ、どう行動するのか? 例えばドナルド・トランプがアメリカ大統領になるとか?
最終的に彼は作品の解釈が狭まることを避けるため、トランプに直接言及する表現を取り除いたというが、曲の端々でいまの世の中にまつわるトピックを読み取ることができる。本作からの先行曲として大統領就任式の前日に暗喩的なプロテスト・ソング“Hallelujah Money”をお披露目したことも、あきらかな意思表示だ。そしてアルバム本編は、ゴリラズはおろかデーモンの全キャリアを振り返っても前例のない、直球のメッセージを込めたアンセム“We Got The Power”で締め括られている。ジェニー・ベス(サヴェージズ)に加えて、かつての宿敵ノエル・ギャラガーと一緒にデーモンが愛と団結を訴えることになるとは、誰が想像しただろう。〈なんでもあり〉とはまさに、こういうことを言うのである。
関連盤を紹介。

ダン・ジ・オートメイターが共同プロデュースした、ヒップホップとダブを柱とするデビュー作。ヴァーチャル・バンドという仕掛けはもちろん、羽鳥美保からイブラヒム・フェレールに至る多彩なゲストと打ち出した、ブラーとはまったく異なる音楽性で世界を驚かせた。

当初、日本だけでリリースされた本作は、『Gorillaz』からの最初の3枚のシングル・カップリング曲やリミックス、MVなどをコンパイルしたもの。ここで聴ける“19-2000”のソウルチャイルドによるリミックスは、オリジナル音源よりも広く知られているヴァージョンだ。

さらに豪華なゲストを迎え、共同プロデューサーには時の人デンジャー・マウスを抜擢、USでも大ヒットを博した2作目だ。世界中で起きていた紛争やヴァイオレンスにしばしば言及。そんな歌詞とシンクロするように、ヒップホップ色を強めたサウンドもダークに転じている。

ゴミで出来た孤島を舞台とするこの3作目は、人工物と自然の境を曖昧にしたエコシステムが地球上に誕生しつつある……という仮説に根差す。クラウトロックからソウル/ファンクまでを包含するスタイルは、ゴリラズ流のボーダーレス・ポップの定義を一気に広げた。

『Plastic Beach』に伴う北米ツアー中、デーモンがiPadを用いて車窓から見える風景や耳に飛び込む音を記録するようにして作ったトラヴェローグ・アルバム。よってソロっぽい趣が強く、アナログなシンセとドラムマシーンというゴリラズの基本的な構成要素を洗い直す作品に。
ゴリラズの無謀な人類化計画を手助けしたのはどこのどいつだ?
VINCE STAPLES
LAの闇部分をリアルに綴った2015年作『Summertime '06』(Artium/Def Jam)で、Pitchforkなどから高く評価されたMC。ゴリラズが『Humanz』のイントロ明けすぐの“Ascension”にサイレン音と彼のラップをフィーチャーしたのは、綺麗事だけでは済まされない人間社会に馴染むための決意表明か?

PEVEN EVERETT
ロンドンの人気パーティーから派生したレーベルより2013年に最新作『King Of Hearts』(Makin' Moves)を発表しているシカゴのR&B/ハウス系シンガーは、黒光りディスコ・ファンク“Strobelite”で昼行性のゴリラたちに夜遊びの作法を伝授。『Humanz』の終盤にも彼が登場するディープ・ハウス曲あり。

POPCAAN
ダンスホールのブランニュー・ヒットをまとめたコンピ『Reggae Gold 2016』(VP)にも複数の曲が選ばれ、USではドレイク主宰のOVOと契約しているジャマイカの歌い手。ダーク・アンビエントな音にレゲエのDJイングを乗せた『Humanz』収録の“Saturnz Barz”を聴けば、ゴリラたちがここ最近の人間界の流行もキッチリ勉強している様子がわかる。
DE LA SOUL
この2MC+1DJと言えば『Demon Days』以来、ゴリラズ作品には準レギュラー的に参加している盟友のような存在。デーモンがお返し客演した2017年作『And The Anonymous Nobody』(A.O.I.)では、イラストなジャケ、多数の豪華ゲストを迎えてのヴァラエティー豊かな楽曲群……と急速にゴリ化していて興味深い。

KELELA
2013年の処女作『Cut 4 Me』(Fade To Mind)がリリースから2年後にCD化されたのと前後し、それ以来、ひっきりなしに客演をこなす未来派R&B歌手。『Humanz』内のメタリックなハウス・トラック“Submission”では、ヒューマンを飛び越えてアンドロイドみたいな雰囲気。

DANNY BROWN
そのケレラがリードを取る“Submission”に人間臭さをプラスしたのが、2016年のワープ移籍作『Atrocity Exhibition』(Warp)でもトリッキーなマイク捌きで保守派のヒップホップ・ファンを困惑させたデトロイトの異端児。曲の後半に唾を撒き散らしながら割り入ってくるハードなラップがカッコイイ!

GRAHAM COXON
覆面を被ってヴァーチャルな世界へ没入したデーモンと、2012年の『A+E』(Parlophone)などソロ作で内省的な曲作りを実践したグレアム。真逆の方向を歩いてきた2人が、ブラーのリユニオンを経て課外活動でもリンクしていることに、胸アツなリスナーは少なくないはず。“Submission”のどこでグレがギターを弾いているのか、正直なところ聴き取れませんでしたが、一緒に演っているという事実だけでも十分満足?

GRACE JONES
70~80年代に活躍し、2008年の『Hurricane』(Wall Of Sound/PIAS)で復活した角刈りヘアも勇ましいNYアート・ポップの女王様がマイクを取るゴリラズの“Charger”。インダストリアル・ビートとスクラッチ音が効いた重たいこのディスコ・パンク・チューンで鍵を握るのは、もちろん御大による〈チャーチャーチャー〉なフックだ。

ANTHONY HAMILTON
2016年作『What I'm Feelin'』(RCA)でますますUS南部色の強いルーツィーな曲を披露していたアンソニーだが、『Humanz』収録の“Carnival”ではEDM調に衣替え。もちろん深みのあるソウルフルな掠れ声が機械的なオケに埋もれることはなく……それどころか、生身の肉体性がより強調されていて圧倒される。

MAVIS STAPLES
ヴァレリー・ジューンやジャスティン・ヴァーノンら孫世代とコラボした最新作『Livin' On A High Note』(Anti-)も驚きだったけど、まさかその1年後にゴリラたちと共演するとは。大らかでゴスペリッシュなヴォーカル&コーラスから、ゴリラ軍団は人間の持つ慈悲の感情を学んだことだろう。

PUSHA T
トラップ系のビートが蠢くゴリラズの“Let Me Out”に、持ち前の粘着質なラップを添えたプッシャT。彼の2015年作『King Push -Darkest Before Dawn: The Prelude』(G.O.O.D./Def Jam)から2年、ようやく年内には〈King Push〉の本章が登場するらしいけど、ゴリの他にもリンキン・パーク作品(詳しくはP41へ)など相変わらず膨大な外仕事をこなしているし、G.O.O.D.の社長業もあるし、新作のリリースは本当に大丈夫か?

PUSHA T King Push -Darkest Before Dawn: The Prelude G.O.O.D./Def Jam(2015)
BENJAMIN CLEMENTINE
ホームレス生活を経て2015年に『At Least For Now』(Barclay)で華やかな表舞台へ飛び出したパリ在住の自作自演シンガー。アノーニとも比較されるビザールなチェンバー・ポップ世界は、ゴリラズ流にトランプ政権を皮肉った拝金主義曲“Hallelujah Money”でも遺憾なく開陳されている。
NOEL GALLAGHER
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの2015年作『Chasing Yesterday』(Sour Mash)で初のセルフ・プロデュースに挑むなど、弟と袂を分かった後は伸び伸びと自身の音楽道を邁進中な兄貴。かつてのライヴァルであるデーモンと共作&コーラスで声を交えた“We Got The Power”では朗々とに人類愛を唱えている。それに対するリアムの辛口なツイートも含め、ブリット・ポップ世代にはたまらない一曲。

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS Chasing Yesterday Sour Mash/ソニー(2015)
JEHNNY BETH
ノエルの話題で持ち切りな“We Got The Power”だが、この曲で得られる昂揚感はサヴェージのフロント女子による叫び交じりのリード・ヴォーカルがあってこそ。血管が浮き出るほどの力を込めて言葉を吐き出していく歌唱は、本隊の2016年作『Adore Life』(Matador)でもたっぷり確認できる。

RAG'N'BONE MAN
今年2月にファースト・アルバム『Human』(Columbia/ソニー)を発表し、6月には〈フジロック〉来日に先駆けて日本デビューも控えている英国人歌手。『Humanz』(表題がややこしい!)では、ゴリっとした見た目に違わぬ野太い声でエコーまみれのフューチャー・ソウル“The Apprentice”を歌い、ゴリラズと共にヒューマン化をめざす。

CARLY SIMON
レコードの針ノイズによる演出も粋なAOR風の子守歌“Ticker Tape”をしっとりと歌い上げるカーリー。人肌の温もりを感じさせる彼女のヴォーカルの魅力は、ベスト盤『The Best Of Carly Simon』(Elektra)などで聴ける70年代のシンガー・ソングライター・ブーム時から微塵も衰えていない。


