NOT WONKやSEVENTEEN AGAiNら同じくKiliKiliVillaに籍を置くバンドはもちろん、GEZANやTHE GUAYSといったハードコアな音楽性と活動で人気を博すパンク/オルタナ勢、さらにシャムキャッツやHomecomings、Helsinki Lambda Clubらインディー・ロック界隈まで、多くのミュージシャンが愛してやまないパンク・トリオが、栃木・足利を拠点に活動するCAR10だ。メンバーは20代半ばながら、キャリアは10年近く、高校生の頃より国内のアンダーグラウンド・パンク・カルチャーを基盤に活動しており、これまでに『Everything Starts From This Town』(2014年)、『RUSH TO THE FUNSPOT』(2015年)の2作を発表。ここ1、2年は、群馬・桐生のフェス〈MACHIKADO FES(以下、マチフェス)〉や東京・下北沢のライヴハウス、THREEが主催する入場無料のパーティー〈BLOCK PARTY〉でも顔的な存在となるなど、ゆっくりと、だが着実に支持を深めてきた。

そんなCAR10が6月7日にサード・アルバム『CAR10』を発表した。英語詞から日本語詞へという前作以降の変化をさらに推し進めた同作は、音楽面においてもいわゆるパンク・サウンドから逸脱し、オールディーズやガール・ポップ、レゲエなどからの影響が窺える軽やかなリズム感を披露。バンドのトレードマークであったリヴァーブ・サウンドをさらに鮮やかなタッチで使いこなしつつ、〈マチフェス〉や〈BLOCK PARTY〉など自分たちの周辺の出来事や人々をまっすぐに歌った『CAR10』には、〈彼らの時間〉への眩いばかりの肯定感が溢れている。真実さえも正当性が疑われる時代において、CAR10の描く半径1メートルのリアルは、なぜこんなにも輝いているのか。フロントマン兼ベーシストの川田晋也に、活動初期からの足取りを振り返ってもらいつつ、その謎に迫った。

CAR10 CAR10 KiliKiliVilla(2017)

 

このまま終わりそうだなと思っていた矢先に、安孫子さんと出会えた

――CAR10の結成は2008年で、当時川田くんたちメンバーはまだ高校生だったそうですね。北関東の男の子たちが、どのようにアンダーグラウンドなパンク・シーンと繋がっていったのでしょう?

「最初にそういう音楽に触れたのは、 YELLOW GANGとROCKIN'WRECKER がI HATE SMOKE RECORDS(以下、IHSR)から出したスプリットEP(2008年)のリリパ的な栃木・足利で開催されたイヴェントだったと思います。それから、今はHMVにいる竹肉AxSxAさん主催の〈ピンポンパンク〉というイヴェントで、でぶコーネリアスとかを観て〈おもしろいものがあるんだな〉と。最初期の自分たちは、そのあたりにかなり憧れていましたね。それまではずっとメロコアとかを聴いていたんですけど、でぶコーネリアスを観たときにいままで感じたことがないくらい興奮したんです」

でぶコーネリアスの2007年のライヴ映像
 

――それからIHSRのバンドなどと、実際に共演するようになったいきさつは?

「IHSRのバンドとか周りのバンドがまとめて足利に来るイヴェントがあって、そこに俺らも出させてもらったんですけど、そのときに(レーベル主催の)大澤(啓己)さんからIHSRが毎年出しているレーベル・サンプラー※に提供してくれないかと誘われたんです。それに収録されたことがきっかけで、東京でもその界隈の人たちと一緒にやるようになった。17~18歳くらいの頃で、そのコンピ以降、特にA PAGE OF PUNKは2か月に1回くらいの割合で呼んでくれていたんですよ。そんなこともあり、ここから拡がっていくかなと思ったんですけど、それからまた数年間は潜ったままといった感じでしたね(笑)」

※2009年の『THE CHOICE OF NEW GENERATION』

――そういう話を聞くと、川田くんたちは早熟だったんだなと思います。

「同年代のバンドはほぼいなかったと思うし、だからこそ自分たちが最初にリリースとかもできると思っていたんだけど、そういうのには全然結びつかないまま4、5年が経っていきました(笑)」

2012年のライヴ映像
 

――ハハハ(笑)。でも、A PAGE OF PUNKの久保勉さんやIHSRの大澤さんには可愛がってもらっていたんですね。

「そうですね。特に勉さんはあの時期お世話になっていましたね」

――そして、プロフィールでは、〈2012年にUNDERGROUND GOVERNMENTからリリースされたPSYKICK UNDERAGEとのスプリットCDで現在のスタイルに覚醒〉となっています。

「リスナーとしてしばらくは、 IHSR周辺で止まっていたんですけど、その頃から海外のバンドを聴くようになり、いまでも好きなリセス(Recess)というレーベルと出会ったんです。そこで自分のフォーマットみたいなものができた。だから、リセスを知る以前/以後というのが、自分のなかではデカいと思う。一言で言うとポンコツなパンクのレーベルなんですけど、すごくポップでキャッチーなんです。特にバナナス(The Bananas)というバンドが好きで、ずっと影響を受けています。あとはオーダシティ(Audacity)もかな」

バナナスの2003年作『Nautical Rock 'N' Roll』収録曲“American Eyes”
 

――CAR10の特徴であるリヴァーブ・パンクと言うべきスタイルもリセスのバンドからの影響なんですか?

「そうですね。リセスの作品は、アナログで録音しているからなのか、音がどれもおもしろくて、それにどうやって似せられるかを考えたときに、リヴァーブをかければいいとか、ギターに変な空間系をかければいいとか、試行錯誤しながら見つけていきましたね」

――そして、2014年4月にインディー・ポップ系のレーベル、Sauna Coolからファースト・アルバム『Everything Starts From This Town』を、それからわずか9か月後の2015年1月にはKiliKiliVillaからセカンド・アルバム『RUSH TO THE FUNSPOT』をリリースしました。

「今どっちが好きかというとファーストのほうかなって気がします。作っていたときは、いろいろな人の言葉にすごく迷ってて、このアルバム大丈夫かなと思っていたし、出来上がったときも全然良くないなと思っていたんだけど、最近あらためて聴いて、〈これ、良いアルバムだな〉と思えた。(ファーストは)すごく気持ち悪い音をしているし、気持ち悪い曲が多いんですよ。それが、すごく良かったな。今俺らが似ていると言われるような(インディー系の)バンドとも全然違っているし、やっぱり俺らのほうが全然ちゃんとしてないなって(笑)。そのちゃんとしてなさがあって良かったなって感じ」

『Everything Starts From This Town』収録曲“海物語”
 

――いまのインディー・ポップは良く出来ているものが多いですしね。

「優等生じゃなくていいのになってところはありますね。人間的な話じゃなくて、音的にもっと適当でラフでいいのになと思います」

――ファーストをリリースしたあたりの出来事で、記憶に残っているのは?

「そうですね……。いちばん良かったのはシャムキャッツの夏目(知幸)さんに渡して、何かの連載で紹介してくれたんですよ。その流れで、2014年の〈EASY〉に誘われたことかな」

――実際、その頃からパンク以外のシーンへの認知度も高まっていった印象でした。活動自体に変化はありましたか?

「うーん、そこらへんからはずっと同じ流れのまま活動している気がしますね。何か起こるのかなという不安は変わらなかったし、ライヴをやるにしてもインディー系とやることは少なくて、いままでどおりのパンクの人とやっていることが多かった。〈なんか、このまま終わりそうだなー〉と思っていた矢先にKiliKiliVillaを始める直前の安孫子(真哉)さんに会えて、という感じでした」

――安孫子さんとの出会いをあらためて教えてください。

「SEVENTEEN AGAiNが下北沢のSHELTERで主催したイヴェント(2014年5月)に俺らも出ていたんですけど、そこに安孫子さんも来ていて、確か大澤さんが紹介してくれたんです。でも、そのときは〈絶対俺らのことなんて好きじゃないんだろうな〉と思っていたんですよ。実際に俺がそういうニュアンスのことを言っていたみたいで、いまだに安孫子さんからそのことを言われ続けています(笑)。でも、安孫子さんと帰りが一緒になって、話しているうちに〈この人はすごく信頼できるな〉と思ったんです。単純にむちゃくちゃパンクが好きだから、話していてすごく盛り上がってくれるんですよね。〈今はそうなってるんだ、ヤバい!〉みたいな。嘘っぽくなく、そういう話をできたし、安孫子さんも〈どんどん教えて〉と訊いてくれて、こんなピュアなすごい人がいるんだと思った」

――KiliKiliVillaからのリリースはその後すぐに決まったんですか? その前にLIFE BALLのリイシューがありつつも、現在進行形のバンドとしてはCAR10のセカンドがレーベル第一弾でしたね。

「そうですね。SEVENTEEN AGAiNの企画のあと、7月に東京でやったライヴにも安孫子さんが観に来てくれて、〈レーベルやるから出さない?〉みたいな話をされて。これは何かが起きそうな気がすると思いました。その前に渋谷でやったライヴで、ライヴハウスの店長から〈もっと渋谷色に染まったほうがいいよ〉とか言われたあとだったこともあり、なんか一気に嬉しくなりましたね(笑)」

――ハハハハ(笑)。ファーストとセカンドの短期間でバンドも変化していった?

「そうですね、櫛田(ギター)と永井(ドラムス)は2人とも安孫子さんに憧れていたし、誘われたことでバンドのやる気が一気にブーストされた感はありました。それがセカンドのおもしろさに繋がったとは思うんですけど、個人的には結構無理やり曲を作った感じがあったし、そういうのをふまえて聴くとちょっと焦りすぎているなという印象もあります」

2015年作『RUSH TO THE FUNSPOT』収録曲“Bastard Blues”
 

――KiliKiliVillaからリリースしたことで起きた変化はありましたか?

「銀杏の追っかけだった人とかが観に来てくれたり、そのなかで自分たちは自分たちとして認めてくれて、それからも観てくれるようになった人たちもいましたね。単純にそれまでより多くの人が名前を目にしてくれたと思うので、そういう点でセカンドは良かったと思います」

――Homecomingsの主催でYogee New WavesとCAR10との3組で回った〈GHOST WORLD TOUR〉と同じ3組が渋谷QUATTROに揃った〈PAPER TOWN TOUR〉のファイナル公演もその頃でしたよね。

「ちょうど俺らのセカンドが出た直後かな。そのときですら俺らの認知度が圧倒的に少なかったのに、よく呼んでくれたなってホントに思いますよ(笑)」

――ハハハ。でもCAR10は、自分の周りの人間もみんな好きだったんですよね。

「それが結構おもしろいなと思っています。人気のある人たちが自分たちのことを褒めてくれるけど、それが全然自分たちの人気には結びつかないという(笑)」

 

居場所のなかった人たちが〈BLOCK PARTY〉に集まれた

――そして、いよいよサード・アルバム『CAR10』がリリースされたわけですが、ファーストからセカンドの短いスパンとは違って、アルバムとしては2年半が空いています。川田くんとしては、セカンド以降を振り返ってみて、どういう期間だったと思いますか?

「アルバムこそ出してないけど、2015年にはシングルの“Best Space”、2016年にはTHE GUAYSとのスプリットEP『room share ep.』のリリースがあったし、自分たちでもびっくりしている感じですね。2年半かーって」

――確かにCAR10というバンドが止まっていた印象はまったくないです。この2年半の間では、下北沢THREEのイヴェント〈BLOCK PARTY〉が始まったことも、CAR10の活動において大きかったのかなと思っているんですよ。CAR10もよく出演されているし、今年の5月にリリースされた同イヴェントのコンピレーションに提供した、その名も“Block Party”は、今作でも最終曲として収録されているし。

「そうですね、〈BLOCK PARTY〉はかなりデカいです。ただ、どちらかと言うと自分が出た回よりも、客として行った回のほうが記憶に残っているんですよ。Jappersやすばらしかを観に行ったら、The ManRayがすごくいいライヴして〈気分良く帰れるわ〉とか、明け方の3、4時くらいのJappersのライヴでウワーとなって横を観るとsuueat.のギターのヒデしかいない、〈こんなにすごいライヴなのに、なんで俺とこいつとでしか共有してないんだろう〉と笑っちゃったこととか、そういう良い思い出が積み重なっていった。それを経て、金曜の夜に仕事終わったばかりで眠さと戦いつつ、車を走らせてTHREEにJappersを観に行くということが快感になっていたのかも。それで自然と〈このイヴェントは最高だな〉となっていきました」

Jappersの2017年作『formulas and libra』収録曲“Praise The Moon”
 

――メディア的には、〈BLOCK PARTY〉を新しいカルチャーがここから生まれている!みたいな打ち出し方をしたくもなっちゃうんですけど(笑)、川田くん的にはそういう感じでもなかったと。

「なかったですね。でも、それまでほかのところでは居場所がなかった人たちが、〈BLOCK PARTY〉では、めちゃくちゃのびのびとやっているという感覚がある。Jappersとかは絶対そうだと思います。そういう人たちを、(THREE店長のスガナミ)ユウさんが〈お前ら最高だよ〉って受け入れて、ライヴをやる場所を作ったことはすごく良かったことなんじゃないかな」

――川田くん的にもCAR10の“Block Party”は大事な曲ですか?

「あの曲は自分たちのなかでも1、2を争うくらい好きだし、大事ですね。今作のなかでも最後に作った曲だし、いまの自分たちにいちばん近い曲なんですよ」

――“Block Party”の途中でドゥワップ的なコーラスが入るじゃないですか。アルバム全体としても、オールディーズや60年代のガール・ポップを思わせるムードが強いと感じたんですが、そういう古き良き時代のポップスは、川田くんがここ数年で発見していった音楽なんですか?

「そういう要素が入っているのは、大瀧詠一からの影響だと思ういますね。“Night Town”や“Pale Blue”をライヴでやりはじめたくらいのときに、(レーベルの)与田さんから〈大瀧詠一を絶対聴いたほうがいい〉と言われて聴きはじめて。あと、ちょうどコーラスを録るタイミングでブライアン・ウィルソンの映画(『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』)を観たのも大きいと思います」

――なるほど。このアルバムで決して脱パンクという作品ではないと思うんですが、いわゆるパンク・チューンではない楽曲も多く収録されていますね。そういったサウンドになったのには、Jappersやすばらしかといった〈BLOCK PARTY〉の常連であるパンク以外のバンドとの出会いも大きかったのかなと想像したんですが。

「めちゃくちゃ関係していますね。別にそれまでも音楽と向きあってなかったわけじゃないんですけど、彼らの音楽愛を見ていると、ホントにこの人たちは音楽が好きなんだなって思ったし、彼らが好きなものを教えてもらうと、もう全部良くて、そういうものを吸収していったんです。例えば、Jappersの榊原(聖也)さんからはビッグ・スターを、すばらしかの加藤(寛之)くんからはザ・バンドを教わったり。それまでの自分が〈古くて、どうせ似たような音楽でしょ〉と思って避けてきたようなバンドほど、いまの自分のやりたいことにフィットしてくる感じがあって、おもしろかったです」

すばらしかの2017年のライヴ映像
 

――自分のやりたいことにフィットしていたというのはどんな点で?

「ビッグ・スターやザ・バンドの音楽って良いメロディーなんだけど、ちょっと気持ち悪さもある。その気持ち悪さが大事だなと思ったんです。一聴はポップスなんだけど、よく聴くとおかしいみたいな」

――わかります。でも、CAR10の出自であるパンク・シーンもハードコアなリスナーはめちゃめちゃ多いじゃないですか? 安孫子さんしかりSEVENTEEN AGAiNのヤブ(ユウタ)さんしかり。榊原さんや加藤さんは同じ音楽狂でもパンクの面々とはタイプが違ったんですか?

「だいぶ違いますね。榊原さんとかは音楽が日々じゃないですけど(笑)、音楽と共に生きているという感じ。ヤブさんとかにも、もちろんそれはあるんですけど、何て言えばいいんですかね?」

――自分が外から見た印象として、パンク・カルチャーの人たちは生活者としてもしっかりしている人が多い気がします。榊原さんがそうじゃないというわけではないんだけど、彼はなんかロック・スター感がありますね(笑)。

「そうなんですよね。音楽との触れ合い方がカッコイイじゃないですか。いい音楽が流れたら、自然と踊ったり、情熱的なところが。〈この人をこんなに踊らせる音楽って何なんだろう?〉と興味を持って訊くと、いろいろと教えてくれて」

――川田くんのライヴでの振る舞いみたいも、この1年くらいですごく変わってきた気がするんですよ。今鳴らしている音楽を心底最高だと思っていて、そこにフルスロットルで乗っていっているというか。今の話を聞いて、その変化にも彼らとの出会いが影響していたんだなと思いました。

「自分達を観てくれているお客さんは、つまんなさそうに観ている人が多くて、ふと考えてみたときに、自分から踊ってないと、そりゃ周りも踊んないよなと思ったんです。つまんなさそうに歌っているバンドのライヴでは、観ている人も絶対に踊らないなって。だから、自分がライヴを観ているときも素直に反応できるようになったし、自分もすごく素直になったのかもしれない」

 

――川田くんは“マチフェス”の〈早くこっちにおいでよ〉という歌詞じゃないけど、MCでもそういう呼びかけを躊躇なく伝えるようになりましたよね。それがあまりに胸を打つものがあるから、僕もここ1年くらいのCAR10のライヴでは、幾度となく頬を濡らしているんです。

「ハハハ。嬉しいですね」

――川田くんは、ファーストもセカンドもそうですが、自分の周りで起きていることを歌ってきたと思うんです。今作でも、“BLOCK PARTY”“マチフェス”“Night Town”あたりがわかりやすいけれど、基本的に全部の歌詞がそうだと思う。そのうえで、特に変化したのはタイトルのセンスじゃないかなと思います。まったくひねらなくなったというか。

「曲名は〈これで大丈夫かな感〉はあるんですけどね(笑)。とってつけたようにパッパッてつけちゃっています。でも、それだけ〈BLOCK PARTY〉と〈マチフェス〉は自分にとって大事なのかもれない。これらのイヴェントのことは自信を持って推し出せるから。曲きっかけで知ってくれる人がいればいいなというのもあるし」

――歌詞がほぼすべて日本語になったという大きな変化にも、特定の何かを伝えたいという意思が関係しているのかなと思いました。

「まず日本語になったのは、全然自分では似てないと思っているようなバンドに英語で歌っていると似ていると言われちゃって、すごく違和感があったんですよ。そんななか、レーベルから〈わかりやすい曲、みんながガッツポーズできる曲を1曲作ってくれ〉と言われて、“Best Space”を作ったんです。そこで〈こういうのでいいんだな〉と思えた。それから“Mr.bread”を作って、あの曲も日本語で歌ってみたら、すごく自分のなかでしっくりきて。日本語だと、歌う度に意味を反芻できる感じがあって、歌っていても気持ちがいいんですよね。これに最初から気付けていたら、ずっと日本語でやってたな(笑)」

――そうそう。“Mr.bread”の歌詞はどういう人のことを綴ったものなんだろうと思っていたんですよ。

「あの曲、(A PAGE OF PUNK)の勉さんなんですよ」

――あー! 勉さんはパン屋をされていますもんね。

「“Mr.bread”を作るちょっと前に、すごくひさしぶりに同じイヴェントでA PAGE OF PUNKと共演したんです。その頃、俺は〈この人、もうあんま俺たちに興味ないんだろうな〉と思っていたんですけど、実はずっと興味を持ってくれていたみたいで、この日もいろいろなことを言ってくれた。言葉を聞いてなかったからって、思ってくれていないということじゃないんだなって」

 ――いい話ですね。“Mr.bread”や“ミルクティー”あたりは、歌詞で自分の変化や成長に言及しているけれど、それをストレートに歌えているのがすごく素敵だなと思いました。

「それを歌えるようになったのは、デカイですね。今までだったら恥ずかしくて出せなかったんですけど、ふとしたきっかけで、素直に歌ったほうがいいんだなとわかったんです」

 

田舎の工場員が、素直にやりたい音楽をやるという姿でいたい

――今作はサウンド面でも前2作とは変化があります。川田くんがセカンド以降に発見したビーチ・ボーイズや大瀧詠一は録音術の人たちでもあるし、レコーディングによって作品がどう変わるかという意識も高まっていたんじゃないですか?

「それはかなりありましたね。今回は、録りの最初の段階から、めちゃくちゃ音がいいなと思いました。NOT WONKとかも録っているカナイ(・ヒロアキ)さんがディレクションで入ってくれて、レコーディングの1か月くらい前から足利のスタジオにも来て、その度に〈この曲はこうしたほうがいいよ〉と言ってくれていたんです。“Best Space”だったらコーラスを爆発的にデカくするとか(笑)。アルバムの音に関しては、カナイさん様々ですね」

――今作の音の拡がりや残響は、ウォール・オブ・サウンドやナイアガラが参考になっているんですか?

「フィル・スペクターやブライアン・ウィルソンみたいに録りを工夫したわけじゃないんですけどね。“Best Space”をシングルで出したときのインフォで〈ウォール・オブ・サウンド〉と書かれたときには、その言葉の意味もよく知らなかったくらいですし(笑)。ちなみに、ナイアガラの流れで言えば、コーラスはすべてYMOの“君に、胸キュン。”をめざしています。ああいうふうに飛んでくるコーラスにしたいなってのはありました」

――へー! 最近のバンドで参照にしたものは特になかったんですか?

「うーん、ギターのフレーズはすごくクリブスに影響を受けていますね。今回はこれまでより曲の幅も出たけれど、それは櫛田に音楽好きの友達が増えたこともデカかったんです。“Night Town”も〈クリブスのこんな感じのギターをAメロで弾いてほしい〉と伝えたら、その次のスタジオでは〈もうそれ完璧〉というフレーズを弾いてくれて。あと“Pale Blue”は、サニーデイ(・サービス)の“夢見るようなくちびるに”なんですよ。あの曲のコード進行を使っている」

――なるほどねー。今作は川田くんのヴォーカリゼーションもすごく良いですよね。最近のライヴもそうですが、この人は自分の気持ちを数ミリのブレもない言葉で発しているんだなというのが伝わってくきます。

「それもやっぱり、無理やり曲を作らず、1曲1曲をゆっくりと作れたのが良かったのかな。どっかに行って、何かがあって、良い思い出になった、〈じゃあその瞬間の曲を作ろう〉として出来たものばかりなんです。だから、おのずと歌詞も付いてきて、全部にちゃんと思い入れがある。無理やり歌詞を付けましたという感じではなかったので、嘘じゃない感じが出ているんじゃないかな」

――しかも川田くんの言葉はシンプルじゃないですか。聴き手として辞書が必要になるような言葉はほぼ出てこない。

「ハハハ(笑)。絶対そうだと思います。いろいろもう吹っ切れたというか。なんか文豪みたいな歌詞を書こうとしても、俺には無理だし。俺より腐るほど小説を読んでいる人はいるし、腐るほど音楽を聴いている人もいるから。自分のフォーマットとして出せるものを、いちばん美しい姿でいかに見せられるかだけなんです」

――今、〈美しく見せる〉と言ったけれど、CAR10はすごく美しいバンドだと思うんですよ。僕の思うCAR10の美しさは、言葉というか歌に奥行きがあること。その言葉を発している川田くんの気持ちには嘘がないんだけど、でも嘘がある/ないとは別で、0.0000……1ミリくらいそういうことを歌っている自分自身への自嘲や葛藤みたいなものが透けてみえる瞬間があって。例えば誰かに対して〈好きです〉と言っても、その〈好きです〉にはいろんな感情が混ざっているじゃないですか。それと同じで、言葉自体はシンプルだけど、川田くんが歌うことによってその奥行きが出る、青色に見えるけど実は青一色じゃない深みがあるというか……。

「それは、すごく嬉しいですね。今回はいままででいちばん気取ってないのかもしれない。背伸びもしてないし、スーパー・ナチュラルというか。櫛田と永井はそれがずっとできているんですよ。あいつらはずっとナチュラルでいるし、そこに俺がやっと寄り添えた、みたいな感じなのかも。だから、スタジオに入って曲を作っても、すごくいい感じに仕上がっていったのかな」

――ただ、自分や周りのことを自然に歌っている以上、最高な瞬間を収めた歌詞ばかりではないと思うんです。たぶん〈嫌になっちまうよな もう吐けないくらい 空っぽなんもねーや〉と歌っている“ゴーバック”あたりは……。

「あれはもう最悪なやつですよ(笑)」

――ハハハ(笑)。でも、その最悪な思い出も含めて自分だけの生活をしていて、自分たちだけの時代に生きているというムードが伝わってくる作品になっていると思います。そして、昔のR&Bやガールズ・ポップを含めたソウル・ミュージック的なビートを下敷きにしつつ、〈これが自分たちの生きている時間なんだ〉という圧倒的な肯定感が溢れている点で、僕が今作の隣に置きたいと思うアルバムはストーン・ローゼズのファースト・アルバムなんですよね。

「ハハハ! それ、おもしろいっすね(笑)」

――でも、“マチフェス”の間奏の頭打ちのビートは完全にローゼズの“I Am The Resurrection” にだなと。

「フフフ(笑)。あれ、ギター・ソロ前のベースは完全に意識していますね」

“I Am The Resurrection”のライヴ映像
 

――“Best Space”の〈光った時間に寄り添えたら あとは何もいらないから〉はローゼズ“This Is The One” の〈This Is The One I’M Waiting For〉というフレーズの言い換えともとれるし。

「なるほど。でも、今回のイギリス的な雰囲気は、俺と櫛田がオアシスのドキュメンタリー映画「オアシス:スーパーソニック」を観たことがいちばん関係していると思うんです」

――あー。“Block Party”のイントロは、まさにオアシスの“Rock 'N' Roll Star” ですよね。

「ハハハ(笑)。あれを観て、〈オアシスはめちゃくちゃすげえな〉となり、2人とも数か月くらいかなり毒されて」

――すごくわかります。コミュニオンズのオアシス化もあり、自分も去年の半ばくらいから急速にオアシス再評価が加速していたんですけど、あの映画が決定打になりました。

「あのなかでも、ノエルが〈俺がよくわからないときに書いた歌詞で大合唱が起きている〉とか言っていたじゃないですか。それを観て〈歌詞なんてそれでいいんだな〉というのはありました。だから余計に、下手に考えて良い言葉を使おうとするよりも、ぱっとどんどん投げていったほうがいいんだなって」

――この間、マンチェスターでテロがあったじゃないですか? そして、テロへの不屈や犠牲者への追悼を込めて、マンチェスターの市民たちが“Don't Look Back In Anger”を合唱している。でも、ノエル・ギャラガーがあの曲を書いたときは絶対そんなふうになるなんて思ってないじゃないですか。作り手にとっては特にたいした意味を持っていない曲でも、期せずしてリスナーにとってはとてつもなく大きな意味を持つ曲になることがある。だから、それと同じですよね。川田くん的にはシンプルに書いた歌詞かもしれないけど、自分はそこに意味を見出してグッときているという(笑)。

「ハハハ。それは嬉しいすね」

――ローゼズもオアシスも歌詞はすごく簡単じゃないですか。だから、そういう言葉のほうがアンセム化するんでしょうね。

「たとえばのマヒト(マヒトゥ・ザ・ピーポー/GEZAN)くんや下津(光史/踊ってばかりの国)さんは圧倒的なカリスマじゃないですか。でも、無理やり彼らみたいになろうとしている人たち見ると、気持ち悪いと思うんです。アーティストぶらなくていいよなって。そこで、自分を見直したときに、俺みたいな田舎で、工場で、鉄に穴を開けているだけの工場員が、素直にやりたい音楽をやるという姿でいたいと思うんです。たぶん昔は、無理やり勝負しようとしていた部分があった。マヒトくんや下津さんのソロとかを観ると、〈こんなすごい人がいるんだったら、俺とかがバンドをやる意味はないんじゃないか〉とすごくショックを受けていたんですよ。でも、よくよく考えてみたら、別にそれで俺がやらない意味にもならないし、かといって同じことで勝負しようとしなくてもいい。のらりくらりじゃないけど、スピード対スピードじゃなく、俺らは違う角度でちゃんと突き詰めればいいんだなって」

GEZANの2016年作『NEVER END ROLL』収録曲“blue hour”
 

――このアルバムには超最高な瞬間も超最悪な瞬間も両方刻まれているんですが、通して聴いたときにリスナーに残るのは未来へのなんとなくの楽観みたいなものだと思うんですよね 。

「それはかなりあるかもしれないですね」

――川田くんがそういう雰囲気の作品を作れたということは、いま言ってくれた話と関係していますよね?

「そうすね、自分がそういう状態にいれたから、というのはかなりデカイと思いますね」

――“Block Party”でも〈どんな未来でもなんだか僕らさ 笑えてるような気がするのさ〉と歌われていますが、今後CAR10をどうしていきたい、みたいなことを考えることもありますか?

「それがホントに何もなくて。このフェスに出たい/このバンドと共演したいとかもなく、〈このアルバムを出したことで何かおもしろいことが起きればいいな〉くらいにしか3人とも思ってないんですよ。欲を言えば、〈もっとラクにバンドをがやれたらいいな〉くらいですかね。いまはライヴをたくさんやればやるほど、金銭面で自分たちが追い詰められているから、それが結構ダメージになっている部分があって」

――ライヴをやればやるほど収支の面ではマイナスになっていということですよね。

「そうですね。遠征費とか。もう少しお客さんがついてくれてれば、もっと気楽に楽しくやれそうだなとは思います。今も毎回ライヴを観に来てくれる人が1人、2人くらいはいるんですけど、毎回絶対その人たちに向けて良いライヴをしないとな、自分たちがつまんなさそうな姿を見せたらダメだなと思っています。だからいま2~3人しか来てくれないライヴが、今作で10人くらいになるといいなーって感じですね」

 


Live Information
〈アルバム発売記念CAR10ワンマン・ライヴ〉

2017年6月25日(日)東京・下北沢THREE
出演:CAR10
DJ:かたしょ
開場/開演:18:00 /18:30
料金:前売り1,500円 当日2,000円 (いずれも1D別)