2015年の活動開始以来、LEARNERSは4年半で約180本のライブをこなしてきた。紗羅マリー(ヴォーカル)の華やかなパフォーマンスと堀口知江(ギター)のブライアン・セッツァーばりのプレイを2大看板に、古今東西の名曲をスタイリッシュにカヴァーしてきた彼らは、パーティーバンドであることを自身のアイデンティティーとしてきたともいえる。
だが、今回リリースされたアルバム『HELLO STRANGER』のなかには、今までのアルバムにはなかった風が吹いている。その最大の要因は、紗羅マリーがソングライティングに初めて関わったということだ。これまでも松田“CHABE”岳二(ギター)作詞作曲のオリジナル曲がLEARNERSの魅力ともなってきたが、ヴォーカリストである紗羅自身の言葉が歌詞となったことはバンドに大きな変化をもたらした。以下のインタヴューで明らかになるように、本作によって明確な意志を持つ現在進行形のバンドとして生まれ変わったといってもいいだろう。
また、近年のLEARNERSは共演バンドから多くの刺激を受けてきた。ウェブ上のセルフライナーノーツで松田が「OLEDICKFOGGYから受けた影響を何も隠さず愛へ変換してできたような曲」と説明しているアイリッシュ調の“つきかけ”には、今までのLEARNERSになかった荒々しさと生々しさが息づく。クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル“LOOKIN’ OUT MY BACK DOOR”やシェリル・クロウ“STRONG ENOUGH”などのカヴァー曲にもこれまでの持ち味は十分発揮されているが、“つきかけ”“シャンブルの恋”“WIPER BLUES”という3曲のオリジナルには、明らかに新しいLEARNERSの姿が刻み込まれているのだ。彼らのディスコグラフィーのなかでも重要な位置を占めることになるであろう新作『HELLO STRANGER』について、紗羅と松田の2人に話を聞いた。

NOT WONKとGEZANの衝撃
――2019年の1月、NOT WONKとGEZANと北海道でライブをやりましたよね。そのときの体験がLEARNERSの活動に影響を与えたという話を小耳に挟んだのですが。
松田“CHABE”岳二(ギター)「他のメンバーは違うかもしれないけど、僕はブン殴られたような感覚があったんですよ。NOT WONKにしてもGEZANにしてもヒリヒリしたところで戦っているバンドなので、僕らとはメンタリティーがまったく違う。あのときの体験が〈俺らも次のことを考えなきゃいけないな〉と考えるきっかけのひとつになったのは確かですね」
紗羅マリー(ヴォーカル)「LEARNERSって私よりも年上のバンドと対バンすることがほとんどで、同年代でもガールズバンドとの共演が多かったんですけど、そのとき初めて同年代の人たちとやったんですよ。音楽に100パーセント向かい合ってる同世代と一緒にやって、マジでボディブロウを喰らった感じ。NOT WONKもGEZANも(ライブハウスの)2階から観てたんですけど、そのまま飛び降りたくなったもん(笑)」
――チャーベさん、そのときのことをnoteに書いてますよね。「なんというかそもそもの質量が違う。エモさの質量というか、鳴らす音への命の掛け方というか。ラーナーズは命をかけてない。いや、命かけて楽しもうとしてる」と。
チャーベ「でも、まあ……そういうことかも。去年1年考えていたのは、今までのLEARNERSの歌詞が紗羅ちゃんに似合わなくなりつつあるな、ということ。紗羅ちゃんが他に歌いたいものが出てきて、しっくりこなくなっちゃったんですよ。そこは本人も考えていたはずで、どちらにせよバンドとして変わらないといけない時期だったんだと思う」
紗羅「LEARNERSの活動で私は、フランス・ギャルやブリジット・バルドーみたいに〈与えられた曲をどう歌うのか〉という点に重点を置いてきたんですね。どれだけ華やかなステージをやれるのか、どれだけみんなを笑顔にできるのか、という。それがいろんなバンドと対バンし、それぞれの考えに触れていくなかで〈また私はマネキンになってる?〉と思うようになってきちゃったんです」
――マネキン?
紗羅「そう。LEARNERSはカヴァー曲を中心にしてきたわけで、人様の曲を歌っているのに自分の思想をライブで発信するのは違うだろうと思って、MCでも何も話せなかった。でも、ライブの場でも徐々に〈言葉で伝えたい〉という想いが出てきたんです」
――今そういう想いの延長線上でLEARNERSでも歌詞を書くようになったんですか?
紗羅「そうですね。今までは歌詞を書くことに恐怖心があったんです。歌詞を書くって自分にとっては遺書を書くのと一緒で、すごく怖い作業だし、逃げてきた部分もあった。LEARNERSの前に作詞したこともあるんですけど、そのときは本当にマネキンだったので、いま初めて自分のなかのものをアウトプットしはじめた状態なんです」

チャーベさん、今のままじゃダメだよ
――なるほどね。紗羅さんが今回作ったオリジナル曲については後ほどじっくり聞くとして、チャーベさんがnoteに書いてたことなんですけど……。
チャーベ「noteの日記、SNSでも拡散してるわけじゃないから誰も読んでないと思ってたんだけど(笑)。でも、格好つけてないぶん、本当のことを書いちゃってるんだと思う」
紗羅「裸を見られた感じですね(笑)」
――NOT WONKとGEZANとのライブのあとの投稿で「戦ってる場所は各々持っているからラーナーズだけはそういうの無いとこにしたい」とも書いてますよね。これはどういう意味なんでしょうか。
チャーベ「メンバーそれぞれがそれぞれの形で戦ってると思うんですよ。でも、LEARNERSとして集まったときにはそういうことナシで、音楽をただ鳴らせる場所にしたいと常に考えてきたんです」
――パーティーバンドに徹するということですよね。でも、そこから〈意志〉を持つバンドに変わっていったと。
チャーベ「そうだね」
紗羅「フェアグラウンド・アトラクションの“Allelujahn”をカヴァーするようになったこともきっかけのひとつだったと思う。演奏の仕方もそうだし、私の歌い方もライブのたびに爆発的に変わっていったんです。オリジナルからどんどん離れていって、お客さんの反応も変わってきた。もはやカヴァーではなくなってきたんです。それまでは意味を持たないパーティーバンドだったはずが、ここから先は意味のあるものをやっていかないとお客さんはついてこないだろうなと感じるようになった」
――お客さんの側が〈意味のあるもの〉を求めるようになってきた?
紗羅「そうです。だから、ここからは責任をもってやっていかなきゃいけないなって」
チャーベ「戻れなくなっちゃったんですよ。一度そうなると目を閉じることはできないし、これはもう次の段階に行くしか道は残されてないなって。もともとLEARNERSはあまり考えずに始まって、いつのまにか家族のような存在になっていたんです。だからやってると楽しいんだけど、楽しさを超える何かを持たざるを得なくなってきた」

――チャーベさんは震災以降にデモに参加されたり、SNSで政治的な発信もされてきましたけど、そうした個人のスタンスはLEARNERSの活動と切り分けて考えてきたんでしょうか?
チャーベ「うん、そうですね。自分の政治的思想やイデオロギーは持ち込まないようにしようと。LEARNERSって自分にとってはアトラクションみたいなものというか、こういう物語がないと世の中おもしろくないんじゃないかと思ってたんですよ。バンドはメンバー5人のものだし、バンドを使って僕の個人的な思想を発信するのはズルいと今でも思ってます。それをやりたければ、個人の発信でやればいい。ただね、女性2人とバンドをやるっていうこと自体、俺のなかでは既にある意味政治的なんですよ」
――バンド内のジェンダーバランスという意味で?
チャーベ「そうそう。それは言わなくても伝わることだと思っています」
――そもそも〈政治的〉とは何なのかという話でもありますよね。生活を歌うこともまた政治的になりうるし、生を歌うという行為自体が政治性を帯びることもある。昨年の〈SHIBUYA全感覚祭〉に出演したとき、“Allelujah”を演奏する前に、紗羅さんがMCで「いちばん当たり前が難しいことって生きることだと思ってます。息をするって、勝手にしてくれるでしょ。それってすごくつまんなくて、もっと自分の力で息をできるような毎日をみんなで作っていければなと思ってます」と話してましたよね。あの言葉が今のLEARNERSのスタンスを表明している気がしていて。
紗羅「自分の意見をMCできちんと発したのは、あのときが初めてだったんですよ」
――えっ、そうなんですか。
紗羅「ああいうことは常に考えていることでもあるんだけど、あの場に立ち会えた人たちにはきっと響くものがあるんじゃないかと思って。あの日は自分の言葉で伝えるべきだと思って、ああいうMCをしました」
チャーベ「目の前で友達が号泣していて、演奏しながら俺ももらい泣きしそうになりました。あの日は決定的だったんですよ」
紗羅「自分で息をするということは、そこに〈生きたい〉という意志が存在しているということだと思うんですよ。どんなことがあっても人は息を吸って、吐いている。当たり前のことだけど、生き続けるっていちばん大変なことでもあると思うんですね。だから自分で死を選んじゃう人もいるわけだけど、生きるという選択をしてほしいなって。だからね、去年ぐらいから考えていることがどんどん大きくなってきちゃったんですよ。LEARNERSを変えないといけないし、〈チャーベさん、今のままじゃダメだよ〉と文句を言うんであれば、まずは自分から新しいものを提示しなきゃダメだなって思って」

これでLEARNERSをまだ続けられるな
――紗羅さんが実際に歌詞を書き始めたのはいつごろからだったんですか。
紗羅「歌詞自体は以前からずっと書いてたんです。それをずっと溜めこんでいて。溜まってるんだけど、なかなか吐き出せない。そういう意味でずっとコンフューズしていて」
チャーベ「今回はそれを〈勇気を出して世に出してみました〉ということなんですよね。最初に送られてきたヴォイスメモがまさに〈これは勇気を振り絞って送ってきたに違いない〉というものだった」
紗羅「もうね、告白みたいな感覚(笑)。曲もないのにアルバムのリリース日が決まっている状態で、残された時間も少ないなかで〈こんなのができたんですけど……〉と恐る恐るチャーベさんに送って」
チャーベ「僕のほうはもう〈きたー!〉っていう感じでしたね。紗羅から送られてきたヴォイスメモのなかでもすぐイメージが浮かんだものをバンド内で共有したら、これまでバンドの核心にあまり触れてこなかった(古川)太一(ドラムス)が〈おお、これは!〉と盛り上がって、鍵盤ですぐにコードを拾ってくれたんです。そうやってできたものを“シャンブルの恋”にしました。これでLEARNERSをまだ続けられるなと思いました」
――終わりそうな流れだった?
松田"CHABE"岳二「僕はそう思ってました。でも、この曲ができたことによって次の扉を開けることができたんです。 太一だって何か変わらないといけないと思っていただろうし」
――“シャンブルの恋”の原型となるメロディーと言葉はどうやって紗羅さんから出てきたんですか?
紗羅「 “シャンブルの恋”のヴォイスメモは今年の1月3日に送ったんですけど、1日中換気扇の下に座りながら曲を考えていたら、ポンと出てきたんです。それまでに作り溜めていたものは自分のために書いていたものだったけど、この曲はLEARNESのことをイメージしているうちに出てきたメロディーと言葉だったので、バンドとしてもしっくりきたんでしょうね」
――この5人でこれまでカヴァー曲を散々やってきたからこそ出てきた言葉とメロディーだった?
紗羅「うん、それはあると思う」
チャーベ「イメージの共有もしやすかったしね。(制作は)本当にギリギリの進行だったんですよ」
生きることを肯定する歌、“つきかけ”
――“つきかけ”と“WIPER BLUES”という2曲の作詞作曲クレジットは紗羅さんとチャーベさん2人の連名になっていますが、こちらはどうやって作ったんでしょうか。
チャーベ「自分の歌詞を紗羅が歌うのはもう似合わないと思っていたんで、彼女にリライトしてもらおうと思ってたんです。自分が最初に歌詞を書いて、それを紗羅の言葉に置き換えてもらおうと。“つきかけ”は1行目だけ僕が書きました」
紗羅「〈月の満ち欠けに僕ら心かき乱されるけど〉という歌詞とそれ以降のメロディーの鼻歌だけが送られてきたんです。チャーベさんが仮歌を歌っているからめちゃくちゃポップに聞こえたんだけど、私の当時の精神上、ポップなものを書ける気がしなくて一度断ったんですよ。〈ごめんなさい、私には書けないかも〉って」
――なるほど。
紗羅「でも、そのあとにハマ兄(浜田将充/ベース)が鎖骨を折ったり、太一くんに2人目の子供が生まれたり、チャーベさんの息子が高校生になったり、LEARNERS男子チームにもいろんなことが起きて。それで〈これは応援歌にしたほうがいいんじゃないか〉というアイデアが浮かんできて、そうしたら一行目以降の歌詞が出てきたんですよ」

チャーベ「〈すごいのがきた!〉と思いましたね。僕は今までいろんな歌を書いてきたんで、もう自分で歌詞を書かなくてもいいんですよ。自分で自分の言葉に飽きてるし、今は人から出てくるものに興味がある。紗羅の場合はまさに今溢れ出している状態だし、そんな状態に間近で接していられるのは本当に楽しいですよね」
――“つきかけ”は本当に名曲だと思いますよ。こんな曲をライブでやったら、フロアがめちゃくちゃなことになるんじゃないですか。
紗羅「えっ、嬉しい」
――あと、応援歌というより〈生きることを肯定する歌〉という感覚があるんですよね。その意味では2020年の歌としてのリアリティーがあって、まさにGEZANやNOT WONKと同時代の歌という感じがする。
チャーベ「わー、それは嬉しい。しかもその歌詞を書いてるのが紗羅っていうのがね。だからね、こんな未来が待ってるとは思ってもいなかったんですよ。紗羅との活動はもともと行き当たりばったりで始めたところがあったんだけど、それが2人で一緒に曲を作ることになるとはまったく想定していなかった。バンドって無理して続けるものじゃないし、LEARNERSも終わっちゃうのかなと思っていたので、〈よくここまで来れたな〉という喜びがあるんですよ」

僕の言葉で歌う紗羅をもう見たくない
――もうひとつの共作曲である“WIPER BLUES”はどうやって作ったんですか。
紗羅「これはチャーベさんから送られてきた歌詞を部分的に自分の言葉に置き換えただけ」
チャーベ「今までLEARNERSでやってきた“WATER THE FLOWERS”とか“CASSIS OOLONG”の延長上で作りたかったんです。都市に生きる女の人の心情を書いたものというか。だけど、僕の歌詞だとどうしたって消せない中二病みたいなところが出てきちゃうんですよ(笑)。そんな言葉を歌う紗羅の姿をもう見たくなかったんで、言葉を置き換えてもらったんです」
――具体的にどういう風に置き換えたんですか?
チャーベ「元の歌詞を忘れちゃったなあ……」
紗羅「覚えてるよ(笑)。(歌詞コードを見ながら)たとえば〈水滴に反射するネオンが/街の静けさを色に変えた〉という歌詞だったら、もともとは〈きらめくネオンの明かりが/街の人を笑顔に変えた〉。チャーベさん節が炸裂してますね(笑)」
チャーベ「ニール&イライザみたいだね(笑)」
紗羅「私のほうがちょっとダークなのかな」
チャーベ「そうそう、そこがいいんだよ。アイドルに曲を書くのとは全然違うわけで、やっぱり歌う人の言葉で歌ったほうがいいから」
紗羅「あとね、チャーベさんの歌詞だと〈光る路面の水たまりを掻き分けて車は進む〉という一節を2回続くところがあったんだけど、2回目を〈光る路面に降る星くず掻き分けて私は進む〉にしたり」
――なるほど。そこに〈私〉という言葉が挟み込まれることによって、歌い手の〈意志〉が表現されるわけですね。
チャーベ「そうだね、おもしろいよね(笑)」

こんにちは、新しい自分
――で、今回紗羅さんが関わったオリジナル曲が3曲入ったわけですが、今も新しい曲を作り続けている?
紗羅「ううっ……(笑)」
チャーベ「僕らはそんな人間じゃないですよ(笑)。ただ、紗羅の頭のなかにたくさんのメロディーと言葉が詰まっているのは確かで、今後どうなっていくんだろう?と思ってますね。LEARNERSでは表現しきれないものもあるんだろうし、それもいつか聴いてみたい」
――最後に、『HELLO STRANGER』というタイトルにはどういう思いが込められているんでしょうか。
チャーベ「新しいことをやり、新しい人たちに聞いてもらいたいという意味でこの言葉が出てきたんだけど、最初はタイトルというよりキャッチコピーみたいな感じだった。次に向かうためのキャッチコピーというかね。でも、メンバーの新しい引き出しが次々に開いていって、自分たちの〈STRANGER〉な部分が見えてきたところもあって。そういう意味では自分自身に向けられた言葉でもあるんだろうね。結果、すごくいいタイトルだなと思ってます」

LIVE INFORMATION
LEARNERS “HELLO STRANGER” Release ONE MAN TOUR
2020年3月2日(月)愛知・名古屋QUATTRO
2020年3月3日(火)大阪・梅田QUATTRO
2020年3月10日(火)東京・渋谷QUATTRO
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