清水エイスケ、加藤修平
 

地方から突然変異のようなパンクやエモ、ポスト・ハードコアが聴こえてきたのは2010年代半ばのことだ。安孫子真哉(ex銀杏BOYZ)の牽引するオルタナ・レーベル、KilikiliVillaから飛び出してきた苫小牧のNOT WONK。そして五味岳久(LOSTAGE)のプロデュースによってアルバム『LOVE』(2016年)を発表し、急速な勢いで全国に浸透していった奈良のAge Factory。90年代パンクをリアルに知る先輩バンドマンが口を揃えて〈若きバケモノ〉と絶賛する彼らだが、同じく94年生まれのフロントマンたちは、過去のオルタナ・リヴァイヴァルを目論んでいるわけではない。NOT WONKは独立独歩にこだわりながらもいまやスイートなソウルを咀嚼する進化を見せているし、Age Factoryは全国の大型フェスを席巻しながら昨年リリースした最新作『GOLD』でよりスケールの大きなロックに近づいた。音楽性は違うが、売れ線の常識におもねらず、自分たちの意思を貫かんとする姿勢はとても似ているように思う。

そんな2バンドがこの度、ツーマン・イヴェント〈MY TRIBUTE〉を共催する。だが、進む道の違いがはっきりしてきたいま、なぜこのタイミングなのだろうか。そして、「同世代のバンドに張り合いがない」と言い続けてきた彼らが、未来の世代に対して思うこととは? 清水エイスケ(Age Factory)と加藤修平(NOT WONK)、シンクロしあう若き才能たちの対談をお届けする。

 

筋が通ってないバンドとは一緒にやりたくもない

――今回の共催企画〈MY TRIBUTE〉に寄せて、加藤さんは「どうしても成功させたい。なんとか変えたい」とツイートしていました。あとエイスケさんは「下の世代よ全員来るべきだ。感化されろ。追いかけるバンド間違えんな」と。お互い、そんなふうに思える同世代バンドは珍しいんじゃないですか?

清水エイスケ(Age Factory)「いや、唯一やと思いますよ」

加藤修平(NOT WONK)「そう。もちろん、ただ年が一緒なだけでそう思えるわけじゃなくて。たとえば、Age Factoryに近いところなのかどうかわからないけど、yonigeのヴォーカルの牛丸(ありさ)さんとかも、たしかタメだけど、僕からしたらあんまり……関係なさそうだなって思うんですね。悪い意味じゃなくて。ただ僕の感想として、今後何かを一緒にやったり、共演したりする機会とかは正直なさそうだなと思う。あと、もうちょっとアンダーグラウンドにも同い年はいますけど、それも逆の意味でタッグを組める気がしなくて。だからエイスケだけだと思いますね」

――出会いは4年前に遡るそうですね。

加藤「最初は苫小牧で、2014年にAge Factoryとピアノガールのツアーにブッキングされたバンドとして僕らが出たんですよね。でもそのときは一言も口きいてなくて(笑)」

清水「19……ハタチくらい? 全然覚えてねえ(笑)」

加藤「Age Factoryについては歌モノみたいな記憶だけがあったのかな。でも、2016年に一緒にやったとき、急にヘヴィーになってて驚いた。全然違う!って」

清水「俺もNOT WONKをちゃんと意識したのは、(加藤たちの)アルバムが出てから。最初に聴いたときはびっくりした。でも、ちゃんと話したのは最近。自分らの企画を大阪でやったとき(2017年8月、Age Factoryのアルバム『RIVER』のリリース・ライヴ)に出てもらったとき、初めて〈どんな感じで自分たちのバンドを広げていこうと思ってんの?〉っていう話をして」

Age Factoryの2017年作『RIVER』収録曲“RIVER” 
 

――それってバンドのスタンスに関する話ですよね。そのあたりの時期からAge Factoryは楽曲がストレートになり、外に向かっていく姿勢を示しはじめていました。

加藤「そう。だからお互いいるところも違えば、バンドの規模も違うんだけど、エイスケはかなり端的に言うと〈売れたい〉と。〈ゆくゆくはZeppとかでツアーできるようになりたい〉って言ってたの、すごく覚えてる」

清水「うん。そう言った」

加藤「たとえば(Age Factoryにとって)奈良の先輩のLOSTAGEはそれができなかった……。できなかったのか、やらなかったのか、どっちもあると思いますけど。それを見たうえでAge Factoryはそういうところでできるバンドになると言ってて。僕のなかにそういう意識はなかったんですよ。いまは考え方も違うけど、当時は特に〈日本の大きなフェスに出てるバンドなんて2人とも好きじゃないんだし、そんなの別に気にしなくてよくない?〉っていうスタンス。

でもエイスケは〈自分のバンドがいちばん格好いいと思ってる。だから大きなところに出ていくのは当然じゃない?〉って。そこは僕、かなり納得したんですよね。僕は僕で自分のバンドがいちばん格好いいと思ってる。だから、いまみたいなスタンスでやってるわけですけど。でもエイスケは〈いちばん格好いいと思ってるから広めたい〉と言っていた。核は一緒なんですけど、なんかイメージ的には、地球の中心みたいなところをまったく逆側からお互い攻めてる感じだなぁと思って」

清水「やり方は違うよな。たぶん加藤って俺よりもピュアに音楽好きやし、圧倒的にストイックやなって思う。そんなことを感じられる同世代のバンドマンはいない。同い年で、お金とか動員とかに圧倒的に興味がない奴。ただ自分たちがいいと思うことを、自分たちの宣伝方法だけで押し広げていこうとする人たち。LOSTAGEもそうやけど、まずはバチバチに筋通すもんね?」

加藤「そう。筋が通ってないバンドとは一緒にやりたくもない」

清水「(NOT WONKは)それで完全に頭ひとつ抜けてるバンドやから、少しの敗北感もあるな。特に、去年の名古屋でライヴ観たときは予想を遥かに超えてた。いままでの瑞々しさとは違う、絡みついてくる感じがあって。同い年くらいの同性ヴォーカルに初めてセクシーさを感じて、なんか……すごいときめいた」

NOT WONKの2018年のライヴ映像
 

加藤「あぁ、音楽的にいうと、めちゃソウルを聴いたっていうのがある。それは歌い方の変化としてもあると思う」

清水「そっか。俺、基本的にときめくこと、そんなないんで」

――珍しいですよね。普段は人のバンドを褒めることもしない。

清水「うん、悔しいっていうのもあるけど。真似したくなる、憧れを感じるバンドがいないのが現状やから」

加藤「でも、エイスケはインタヴューで〈洋楽志向のバンドとは違う、俺らは日本のバンド〉みたいな言い方をよくするじゃん。NOT WONKはどちらかと言えば洋楽志向のバンド。俺らをオッケーにできる理由って何なの?」

清水「いや、NOT WONKはNOT WONKになりつつあるバンドやからこそ好き。何かを真似して何かに近づいてるんじゃなくて、何かからいろいろ吸収したうえで、NOT WONKに還っているバンド。俺が言う洋楽志向っていうのは、外国に憧れて、外人になろうとしてるバンド。それは根本的に理解できない」

加藤「あぁ、それは確かに」

清水「NOT WONKは外国人になりたいバンドじゃないから。いまは英語で歌ってるけど、一周回って日本語で歌うような気もするし」

加藤「あぁ。まぁ〈日本語も聴いてみたいな〉ってよく言われるけど。でも僕は、音楽のなかでもメロディーが好きなんですよ。メロディーとリズムの相性っていうか。日本語は母音の〈あいうえお〉があって、あとは子音と母音の組み合わせなんで、発声していくと口のカタチがドンドンくっきりしていくんですよね。そこで失われていくノイズみたいなものを大切にしたいから、いまのところ英語で歌ってる。まぁそのうち、日本語で歌いたくなったら日本語でやるだろうな」

清水「なんか歌い出しそうな気がするな。遠回りしながら最終的に日本語に還っていくような気がする。そういうオリジナルのヒストリーがちゃんと築かれていきそうなバンドやと思うから、リスペクトできる」

 

イカれてるくらい自信があるし負ける気もしない

――自分たちは洋楽志向だと考える加藤さんが、Age Factoryにシンパシーを抱いているのが興味深いです。最新作の『GOLD』はより開かれた内容になっているし、最近のエイスケさんは「紅白に出たい」と堂々と言ってるわけで。

加藤「でも僕から見たらエイスケも筋が通ってますよ? 僕だって売れること自体を悪とは思ってないんです。音楽を作って〈なるべく聴かれないほうがいい〉と思ってる人はいないし(笑)。あと〈音楽の新しいアプローチは20~30人の前から始まる〉って言い方があるけど、だったら苫小牧の平日のイヴェントで客が10人くらいしかいないところから、毎回そんなの始まってるはずなんです。だけどそれも結局起こってない。っていうことは、いいものを、正しい方法で届かせなきゃいけない。

なるべく人の力を借りずに、自分だけのアイデアと方法論で広めていくのがいちばん格好いいパンクのやり方だと僕は思う。それをAge Factoryはすでにやったなと思いましたね。〈ツアーでZepp回りたい〉とか〈紅白に出たい〉っていう目標に対して、『GOLD』でやった方法論は筋が通ってる。誰とタッグを組んでるかとかは正直どうでもよくて、エイスケがどういうふうに考えて立ち向かっているのか。そこに嘘がないから。だから僕は一緒にやりたいと思えるし、全然、マスに寄ってるとも思わない」

清水「マスに寄りたいんじゃないからね。寄るんじゃなくて、マスさえもが軽視できないような存在になる。1バンドがムーヴメントになるくらいのパワーを持ってないと、Zeppワンマンとかは行けへんと思うし、そこまでは着実に行きたいから。で、そこに行く道中で、自分の考え方とかバンドのポテンシャルを確認するためにも、NOT WONKみたいなバンドと一緒にやることが大事で。これをやることで自分たちの方向をさらに提示したいですね」

Age Factoryの2018年作『GOLD』収録曲“See you in my dream” 
 

――お2人とも、音楽的には90年代のオルタナティヴやポスト・ハードコアに影響されてバンドを始めたと思うんです。ただ「筋を通す」とか「ムーヴメントになる」っていうのは、ルーツが何であるかという話とは違っていて。いまの自分たちが提示したいのはどういうものになりますか?

清水「最初に〈これが格好いいな〉と思った、その感覚を辿っていけば筋は通ると思うんですよね。最初に自分の中に出てきたエネルギー源みたいなもの。それを大きく変えようとするのが俺は気に食わないし、絶対やりたくないなと思ってしまう。最初に自分たちがいいなと思ったものに、何を付け足して新しくしていくか。その提示のやり方を僕は重要視してますね」

加藤「そうですね。それこそ最初にバンドを始めたときの気持ち……とか言ったらかなりクサいことになりますけど(笑)。でも、バンドやって、楽しかったんですよ。僕らがハマった90年代や80年代の音楽を当時は誰も聴いてなくて、でも僕らはそれが好きだった。誰かと比較するでも、誰かを意識するでもなく、ただ好きでやってたんです。それはたぶんAge Factoryも僕らも一緒。で、いまや奈良のAge Factoryと苫小牧のNOT WONKが東京と大阪で共催イヴェントをやるっていう話がまとまって、こうして渋谷のド真ん中でインタヴューしてもらってますけど……それでも僕は一瞬で戻れると思う。僕の原風景にある、10人くらいしかいないライヴ。そこにいま戻ったとしてもまったく苦じゃない」

清水「あぁ、なるほどな」

加藤「それは僕なりにいまのところ筋が通ってるからで。もちろんそれとは別に欲はありますよ? もっと売れたいとも思うし。でも〈そのためにこういう要素を入れたほうがいいんじゃないか〉みたいな、変な頭を働かせはじめたら原風景には戻れないと思う。僕はそこがいちばん大事だから。将来的に音楽が評価されなくなっても〈人が減ってきたから、じゃあ次は品を変えようか〉みたいなことはできない。ほんとに最初に戻ったら嫌だけど(笑)、戻ったところで納得ができる。僕はいつでも一瞬で戻る覚悟がある。で、そこからもっかいバンドやり続けて、またいまの状態にまで行ける自信があるから」

清水「へぇ。……俺はでも、自分が正しいと思う方法で推し進められなくなった瞬間、たぶんもう辞めますね。逆にいうと、それくらいの覚悟がある。俺はもうイカれてるくらいAge Factoryに自信があるし負ける気もしないし。いまの日本では、自信過剰なくらい〈俺が正しい!〉って思ってないとバンドなんかやれない。普通の奴の普通の活動なんかに興味あるかとも思うし。そうやって推し進めていくだけ。それが砕け散ったら、死です。首吊って死にます」

――まさに対照的な意見ですね。

清水「だから、考え方は大きく違えど、根幹は同じ。自分たちのやりたいこと貫くっていうエネルギーが共通してる。で、こういうバンドが全国にまだおって、ちゃんと前向いて進んでいってんねん。そこはいろんな世代に伝えたいと思った。その第一歩が〈MY TRIBUTE〉になって」

加藤「そう。2バンドとか3バンドの共催でやるイヴェントって、似ているもので集まることが多いんけど。でも今回は違うもの同士でいられる。100%同意じゃなくても、部分的にハモれるところがあれば共存できる。それは僕としても新しい感じがするんですよね。ぶっちゃけ音楽は全然違うじゃないですか。Age Factory好きな奴がNOT WONKのことを全然好きじゃない……それどころか嫌いでもおかしくない。逆も然りで」

清水「うん。ほんまにNOT WONKのこと好きな人たちって、俺らのことそんな好きじゃないと思うんですよね。でも、めちゃくちゃ舐めた態度でライヴを観られたらブチ切れます(笑)。むしろそんな感じで行くのがいいんだろうなって」

加藤「僕もそう。最近Age Factory好きになった子が、ポカーンとすりゃあいいなと思ってる(笑)」

清水「ポカーンとすりゃいいけど、でもどっかで〈……これ何なん?〉って」

加藤「そうそう。〈こんなの聴いたことないな〉って。ライヴハウスでそういうふうに思うこと、少ないと思うんですよ。偉そうに言いますけど、いまの日本のバンドで〈……観てしまった!〉みたいな感覚になることってほぼないから」

 

やりたいことを貫き通すのは難しいことじゃなくて、やりゃあいいだけの話

――この2バンドなら、そう感じさせることができる。

清水「そうですね。だからほんと下の世代に観に来て欲しいなぁ」

加藤「センター試験の日だけどね」

清水「……じゃあもう来うへんやん(笑)!」

加藤「高3は来れない(笑)。でも東京の奴は日曜だから来られる。もういちばんハジけた状態で(笑)」

清水「テスト終わりの狂ったガキどもがダイヴしまくって(笑)」

加藤「ははは。そうなったらいいのに」

――年上や同年代ではなく、「とにかく若い子たちに観てほしい」と強調するのはなぜでしょうか?

清水「自分の意思を貫き通すことはそこまで難しくない……もちろん難しいけど、不可能ではないってことを伝えたいからですね。ちゃんと自分たちで考えて、努力していけば。なかなか日本では格好よくバンド活動できないなって諦めちゃってる奴に対して〈いやいや、そうではないぞ?〉って言いたい。ガッツリ自分たちがやりたいことを押し広げていく奴らはまだおるし、そこは年下に提示していかないと。こんな気持ち以前はなかったけど、やっぱり音楽やってる奴が1人でも増えて欲しいし、1人でもガツガツした奴が増えたほうがカルチャーとして広がる。いまはなんか、いいバンドがおらなさすぎるから。ほんまに」

――つまり、ロック・バンドに夢を持っていいんだよ、流行りなんか気にせず自分を貫いていいんだよ、っていうことを伝えたい?

清水「そうです。この時代に夢とか目標を持ってもいいし、それに対して真摯に取り組むべき。いまの時代やからこそ。で、そういう気持ちを抱いた奴がガツガツ来てくれたら、今度はなんか一緒にやれるだろうし。いろんなきっかけが繋がっていくような、何かひとつの始まりになればいいなと思います」

加藤「僕もそうですね。バンドのやりたいことを貫き通すっていうのは難しいことじゃなくて、やりゃあいいだけの話。僕はそれをなるべく余裕でやっているように見せたいんですね。たとえば地方在住で〈こうやってがんばればできるんだ!〉ってレペゼンする場合もありますけど、僕は〈そんなのたいした話じゃないよ〉って言いたい。やってるのは音楽だから、どこに住んでるとか、何歳で何が好きであるとかは一切関係ないんですよ。そこから始まればいいですよね。じゃあ何ができるんだろうっていうところ。そこを見せていきたいです」

――楽しみにしています。2人とも地方在住の同世代で、もっと意気投合しているのかと思ってましたけど、考え方の違いがはっきりしたのも今日はおもしろかった。

加藤「ただ仲良しで、打ち上げでエイスケと一緒に朝まで飲んで語り合ったとか、そんな関係でもないですからね。僕、酒は好きですけど、ライヴの日は要らないんですよ。そこ(お酒)から始まるモノなんて底が浅いし、全然理解できない(笑)」

清水「そうやな。NOT WONKと仲良しこよしになりたいとか、そういうことでもまっ
たくない。なんやろうね? 俺と加藤の関係性。友達ではなくて……でも活動方法とか音楽性に対して心のどっかで嫉妬心が芽生える唯一の存在。なんか、隣町のチームにいる、なかなかいい球投げてるピッチャーみたいな感じ(笑)。〈アイツがウチに来たらめちゃめちゃいいチームになるのになぁ〉みたいなことを思ってる感じ」

加藤「確かに。アイツだけは……って感じで気になってる。〈高校で一緒のチームになったらおもしろそう〉って考えてるみたいな。まだ一緒になってなくて、中3の秋の選抜とかで密かにそう思ってる……みたいな関係です」

 


Live Information
Age Factory NOT WONK present〈MY TRIBUTE〉
2019年1月19日(土)大阪・心斎橋CONPASS
2019年1月20日(日)東京・渋谷TSUTAYA O-NEST
開場/開演:17:00/17:30
料金:前売り 2,500円(別途ドリンク代)
★詳細はこちら