LEARNERSのギタリスト、堀口チエ/CHIE HORIGUCHIがソロデビューアルバム『OUTSIDER』をリリースした。10代の頃からロカビリーシーンでテクニックとパッションを持つギタリストとして頭角を現してきた彼女はさまざまなバンドでの活動を経て、2015年にCHIEとしてソロキャリアをスタートさせると、直後にLEARNERSに参加した。以来、LEARNERSの活動と並行しながら、精力的にソロ活動を続けてきた。
トリオ編成で作った2017年の『CHIE & THE WOLF BAITS』以来のリリースとなる今回のアルバム『OUTSIDER』は、まさに待望の1枚。今、アメリカで最も熱い音楽の1つであるアメリカーナをテーマに掲げ、彼女が血とし、肉としてきたものが全13曲に結実したという意味では集大成とも言えるが、ミュージシャンとしての自身のアイデンティティーを今一度打ち出したことにこそ、『OUTSIDER』を作った意義があると思う。
『OUTSIDER』で彼女をバックアップするのは、PHONO TONESの宮下広輔(ペダルスティール)、THE NEATBEATSの中村“MR. MONDO”匠(ドラムス)、THE RODEOSの北島紘行(ベース)の3人。彼らとレコーディングした13曲は、ロカビリーやカントリーだけに留まらない、ブルージーだったり、ファンキーだったり、ヒルビリーだったりする多彩なアレンジもさることながら、巧みなストーリーテリングに自身の心情を落とし込んだソングライティングも聴きどころだ。
ギタリストとして紹介されることが多い彼女だが、ぜひシンガーソングライターとしても注目を! 歌詞に持ち前の反骨精神が滲むところが頼もしい。アウトサイダーであることを誇りに持つ彼女の活動がここからどんなふうに広がっていくのかが楽しみだ。
音楽の本質をやりたかった
――このインタビューは先にCDで発表された『OUTSIDER』のアナログ盤のリリースに合わせて掲載されるんですけど、明らかにアナログ盤の世代ではない堀口さんがCDに加え、アナログ盤もリリースすることにはレコードへの思い入れもありつつ、ミュージシャンとしてメッセージやステートメントが込められているんじゃないかと想像したのですが。
「実は、それほど思い入れはないんです(笑)。でも、今はCDよりもアナログ盤を買う人が増えていると思うので、アナログ盤も出せるのはうれしいです」
――アナログ盤を買う人ってやっぱり音楽がものすごく好きな人だと思うのですが、そういう人にこそ聴いてほしいとか、そんなふうに自分の音楽を大事にしてほしいとか、そんなことも思っているんでしょうか?
「それはもちろんあります」
――〈サブスクで聴き流されちゃう音楽を作っているわけじゃない〉というプライドとかがアナログ盤のリリースには込められているんじゃないかと想像していました。
「アルバムの内容としては、そういうことが込められていると思います。消費されていくと言うか、商業的なものじゃない音楽を作りたくて、音楽のもっと本質をやりたかったんです。普段、カントリーを掘り下げていくうえで、カントリーという音楽はもっと身近にあるというか、生活のなかにあるものだと思っていて。そういうことを自分でもやりたかったんです」
OUTSIDER=自分の道を貫く人
――なるほど。そんな思いとともに作り上げた『OUTSIDER』、とても聴きごたえのある作品でした。ミュージシャンとしての堀口さんの、とりあえずの集大成と言える作品だと思うのですが、ご自身ではどんな作品になったという手応えがありますか?
「やっと自分の思うとおりにできました。今までは、お客さんとか、聴く人とか、メンバーとかのことをちょっと考えて作っちゃってたところもあったんですけど、今回はソロなので、自分のやりたいようにできたと思っています」
――自分自身を思う存分に表現できたというアルバムに『OUTSIDER』というタイトルをつけたのは、どんなところから?
「正直に言うと、自分が音楽だけで食べていけていないことにずっとコンプレックスがあって、メジャーの人と常に自分を比べながら生きてきたんです(笑)。でも、ようやく自分の生き方はメジャーというか、そっちじゃないんだろうなと悟ったんです。じゃあ、今、自分のいる位置でできる音楽って何だろうって思ったとき、メジャーの人たちとは逆をやらないと、自分がここにいる意味がないと考えた。一般的なところから外れているという意味を込めて、『OUTSIDER』とつけました。もちろん、自分はそれを誇りに思っているんですけど」
――大きな流れには与しないぞという誇りを持って、あらためて自分が作りたい音楽を追求していこう、と。
「そうです。アウトサイダーっていうと、たぶん強いイメージがあるかもしれないですけど、私にとっては不良とかそういう感じでもなくて、〈自分の道を貫く人〉というイメージですね。アウトローカントリーの精神に影響を受けたことが大きいと思います。ウェイロン・ジェニングスとかウィリー・ネルソンとかが、ナッシュビルの音楽産業のアーティストを縛るやり方に対抗していたことがすごくかっこよくて、そういうことを自分でもやりたいっていうのがあります」
――今現在のアウトローカントリーシーンはニッキー・レーン、マーゴ・プライス、ジェイミー・ワイアットら女性アーティストが先頭に立っていますが、『OUTSIDER』を聴いて、彼女たちと同じスピリットを感じました。今回、堀口さんがもともと持っていた反骨精神がこれまでよりも直接的な表現として、歌詞に表れてきたところが聴きどころだと思ったのですが。
「“Austin Texas”とか、“Buzz Flag”とかはTHE WOLF BAITSのときに作っていた曲なんですけど、“Watch Your Back”とか、“On The Road Again”とかは、コロナ禍のなかで歌詞を書いたので、そういう意識はありましたね。ミュージシャンやライブハウスが叩かれたじゃないですか。その時、ミュージシャンの存在とか、価値とかって何だろうって考えて、ムカつくと思ってました(笑)」
誰を、何を信じればいい?
――歌詞は音楽性や曲調に合わせて、ウェスタンと言うか、アメリカンな情景が浮かんでくるものになっていますが、そういうシチュエーションを借りて、堀口さん自身の気持ちが表れている。そう思いながら聴くと、音楽活動をしながら実際、こういうことを感じてきたのかなといろいろ気になる歌詞があって。たとえば、〈楽園をここに創ろう 女だけの 騒ぎを起こすのさ ルールを壊して始めましょう〉と歌う“紅い暴動”は、バンドシーンにもいまだ残っている男尊女卑を題材にしているんじゃないかと想像したのですが。
「私、それについてはめっちゃ思うことがあります。でも、この曲を書いたときは、そんなには意識してなかったです。“紅い暴動”はRUMBLE REDっていう私が好きなファッションブランドのことを歌っているんです。ワークウェアとか、ミリタリーとか、男たちが作ってきたカルチャーを女子のファッションに落とし込んでいるんです。自分が惹かれるものは、そういうものが多いんだと思います。壊して新しいものを作るみたいな」
――“君の番はくる”は、さっき言っていたコンプレックスが題材になっているんですか?
「それが大きいかもしれないです。ただ、自分のことだけにならないように誰が聴いても聴けるように『グランド・オール・オープリー』(カントリーミュージックの殿堂と謳われるラジオ番組)のステージに立てなかったシンガーを主人公にして書きました」
――コロナ禍のなかで書いたという“Watch Your Back”では〈誰を信じればいい 誰かはでっち上げる 誰かは隠し通し 誰かは騙されてる 我先と争う〉と歌っていますね。
「新型コロナウイルスの感染が蔓延しはじめた最初の頃、マスクが買い占められたり、満員電車に乗ったら感染するんじゃないかと騒がれたり、混乱があったじゃないですか。そのときに書いたんです。自分の身は自分で守るしかないと思ったというか、国が言っていることを守っているだけじゃ死ぬなと思ったんですよ(笑)」
――そんな気持ちを、西部劇を彷彿させるストーリーテリングに落とし込んだところがおもしろい。
「ジェシー・ジェイムズというアメリカの西部開拓時代のガンマンのことを、私の好きなアーティストがけっこう歌っているんですよ。それで彼を題材にした『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007年)という映画を観たんです。そしたら、仲間に裏切られて、背後から撃たれて死んじゃうという最後で。それをインスピレーションに歌詞を書きました」
――それで〈仲間にでさえも 背中は見せるな〉と歌っているんですね。
「それとか、ジム・ジャームッシュの『デッドマン』(95年)とか。みんな後ろから撃たれて死ぬんですよ(笑)。その感じを曲に落とし込みたいと思いました。裏切られるんじゃないかという主人公の疑心暗鬼が、コロナ禍の最初の頃の心理状態とリンクしたんです。誰を、何を信じればいいの?という落ち着かない心を書きたかったんです」