美空ひばり生誕80年に再び想う、日本語の響きの美しさ
美空ひばりの生誕80周年となる5月29日、一枚のトリビュート・アルバムが発表された。それが伊藤君子による『Kimiko Sings HIBARI~伊藤君子、美空ひばりを歌う』。ジャズ・シンガーとして長年活動を展開する一方、2015年には津軽弁によるジャズ・アルバムを発表するなどユニークな活動でも知られる彼女が歌手をめざすきっかけとなったのが、4歳のとき耳にしたひばりの“越後獅子の唄”(昭和25年)だった。
「ひばりさんは9歳年上なんですけど、笠置シヅ子さんなど当時の歌手に比べたら比較的歳が近かったんです。それもあって感情移入しやすかったんでしょうね。子供ながらに〈ひばりさんみたいになりたい〉と思ったことは覚えてます」
それゆえに今回のトリビュート・アルバムは念願の企画かと思いきや、伊藤は「正直、自分がひばりさんのトリビュート・アルバムを作るなんて大それたこと、思ってもいなかった(笑)」と笑う。
「ひばりさんの歌をカヴァーする際、どうしたってフレーズや声の出し方などの影響は残ると思うんですね。でも、物真似にはしたくなかった。ひばりさんみたいに歌える人はどこにもいないわけですから、できるだけシンプルかつ素直に歌おうと心がけました。なるべく気張らず、重たくならないように」
アルバムの前半を飾るのは、“東京キッド”“愛燦燦”“川の流れのように”“一本のふるさと”など、ひばりの代表曲。狩野泰一の篠笛としっとりと奏でられる“津軽のふるさと”や小曽根真との“リンゴ追分”も独特の味わいを醸し出す。後半を占めるのは“スターダスト”や“魅惑のワルツ”など、かつてひばりも取り組んだスタンダード。ここではひばりの歌を念頭に置きつつ「フェイクを混ぜたジャズっぽい歌い方ではなく、シンプルに歌おうと」心がけたという。ラストを飾るのは、アストル・ピアソラのインスト曲に英語詩をつけたひばりへのトリビュート曲“スカイラーク”。繰り返し歌い続けてきた伊藤の代表曲である。
「今回あらためてひばりさんの凄さを実感しましたね。リズム感や声のピッチ、それと母音の発音の素晴らしさ。日本人は〈あ〉という音の響きが弱い人が多いんですけど、ひばりさんは楽器としての身体の鳴らし方がすごい。“あ”という音ひとつの表現の幅がとても広いんです。だからこそ、ひばりさんの日本語は響いてくるんです」
伊藤君子と美空ひばりという素晴らしい歌い手2人の姿が重なり合う本作『Kimiko Sings HIBARI~伊藤君子、美空ひばりを歌う』。天国のひばりさんもきっと微笑んでいるに違いない。
LIVE INFORMATION
美空ひばりトリビュートCD発売記念ライヴ
○6/20(火) 東京・神田/Lidian(リディアン)
○6/23(金) 東京・南青山/ボディ&ソウル
○7/2(日) 東京・亀有/Jazz38(ジャズサンパチ)
○7/15(土)東京・大塚/GRECO(グレコ)
○7/19(水)ビルボードライブ大阪
○7/20(木)東京・大田区/大田区民プラザ小ホール
○7/29(土)東京・南青山/ボディ&ソウル
○7/30(日)東京・吉祥寺/サムタイム
www.kimikoitoh.com