ピーター・バラカンが〈売春、麻薬、戦争、犯罪組織抜きに語れない日米ジャズの裏話満載。一気に読破しました〉と推薦コメントを寄せる二階堂尚の著書「欲望という名の音楽 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ」。酒、芸能界、人種差別や民族差別、リンチ……社会の暗部は、ジャズという音楽を語るうえで切っても切り離せないものだ。そんな日米ジャズの裏面史が垣間見える興味深いエピソードに満ちた本書の刊行にあわせて、著者の二階堂にMikikiへ寄稿してもらった。「欲望という名の音楽」を読みながら聴きたい作品とは? 各章に対応した選盤とコメントをお届けしよう。 *Mikiki編集部
第一章 ジャズと戦後の原風景
横浜・伊勢崎町で行われた、日本のジャズ史に残る伝説の一夜〈モカンボ・セッション〉。ビバップを多少なりとも知っていた日本のミュージシャンが総集結したと言われるそのセッションの8か月前、1953年11月に録音された秋吉敏子の初リーダー作が『Toshiko’s Piano』である。そこにニューポート・ジャズ・フェスでのライブ音源4曲を加えて再発されたのがこの作品。ギターを加えたカルテットで演奏された『Toshiko’s Piano』は、アメリカで初めて発売された日本人によるモダンジャズのアルバムだった。
第二章 みんなクスリが好きだった──背徳のBGMとしてのジャズ
数あるモダンジャズのアルバムから1枚を選べと言われたら、とりあえずこれを選べばいいと思う(2枚組だが)。ビバップのオリジネーターのひとり、チャーリー・パーカーの代表曲をレーベルを超えて網羅した全50曲。実際のステージにおけるビバップの演奏は時に数十分に及んだが、このアルバムの収録曲は3分から5分弱のコンパクトなSP録音サイズで、テンポよくビバップの真髄を楽しめる。
世界中の数多くのミュージシャンがレコーディングしてきたトラディショナル“朝日のあたる家”。その決定的名演が収録されたライブ盤である。ニーナのフィンガースナップに合わせてギターとベースが控えめなリズムを刻み、ニーナはあえてピアノを弾かずに歌詞を一語一語噛みしめるようにして歌う。「ディランの激しいバージョンが怒りの歌であったとすれば、ニーナの『朝日のあたる家』は哀しみの歌である」(本書第二章より)。