2013年7月のこと。アークティック・モンキーズのマット・ヘルダーが〈グラストンベリー〉のステージに、とある新人バンドのTシャツを着て登場し、世界中のロック・ファンをざわつかせた。その〈とある新人バンド〉こそ、本稿の主役であるブライトン出身のロイヤル・ブラッドだ。もしマットの粋な計らいがなかったとしたら、彼らの人生はどうなっていただろう? いや、それでもロイヤル・ブラッドは大きな成功を手にしたに違いない。オルタナ/グランジ・リヴァイヴァルの流れと絶妙にリンクしつつ、レッド・ツェッペリンやブラック・サバスへのオマージュで溢れた2014年のファースト・アルバム『Royal Blood』を聴き返し、ふとそんなことを考えている。

 全英アルバム・チャートでいきなりの初登場1位となった同作は、他にも全世界20か国でTOP20入りするヒットを記録。そのグルーヴィーでラウドな分厚いサウンドが、ベース&ヴォーカル担当のマイク・カーとドラマーのベン・サッチャーというデュオ編成によって鳴らされている点もおもしろい。とりわけ、アンプとエフェクター・ペダルを駆使しながらベースでギターの音色を奏でるマイクのプレイ・スタイルに、度肝を抜かれたリスナーは少なくないはずだ。そこからバンドの快進撃が始まり、その年の賞レースを総ナメ。なかでも〈ブリット・アワード〉のベスト・ブリティッシュ・バンド部門にコールドプレイを押さえて選ばれたことは、ある種の〈事件〉として大々的に報じられたのだった(ちなみに、授賞式のプレゼンテーターは憧れのジミー・ペイジ!)。

ROYAL BLOOD How Did We Get So Dark? Warner UK/ワーナー(2017)

 以降、ヴァントやハイリー・サスペクトなど〈ポスト・ロイヤル・ブラッド〉なる宣伝文句を謳ったニューカマーがひっきりなしに登場するなか、〈ロック界の寵児〉と言うべき存在になった2人が、3年ぶり2枚目のニュー・アルバム『How Did We Get So Dark?』を完成した。厳戒態勢のなか幸運にも筆者は音源を聴く機会に恵まれたものの、リリース直前の現時点でプロデューサーなどのクレジットは明かされておらず、そんなレーベル・サイドの慎重な対応からも今作の注目度の高さが窺える。

 以前マイクは、キーボードと同時に足鍵盤でベースを操ったツェッペリン時代のジョン・ポール・ジョーンズを例に挙げ、将来的にベースとドラムス以外の楽器を導入する可能性も示唆していたが、今回のアルバムでは従来通りのミニマムな編成で〈どこまでやれるか〉ということを、まだまだ模索している模様。その意味で、新作は『Royal Blood』の地続きにある一枚と言えよう。しかし、ベース・パートと歌メロには着実な成長の跡が見られ、リフはよりキャッチーに、主旋律はよりメロディアスになったことで楽曲それぞれが粒立ち、全体の印象はフレンドリーとも言えるほど開けたものだ。そうした緩やかな変化について、2人はドレイクやアッシャー、ケリー・ローランドらヒップホップ/R&B作品がインスピレーション源になっていると公言している。実際、“She's Creeping”や“Don't Tell”のヴォーカリゼーションにはそれっぽいフィーリングが感じられるし、センシティヴなファルセットも飛び出すあたりは、なるほど、昨今のアーバン・ポップ的とも解釈できそうだ。

 ベース&ドラムス・デュオというラインナップの珍しさや、物凄い音圧の轟音が話題になるのはデビュー作まで――恐らくはそれも念頭に入れ、曲そのものの質を上げることで踏み出された理想的なセカンド・ステップ。そして、控えめに言ってもUKロック・シーンで年間ベスト級な仕上がりの『How Did We Get So Dark?』を引っ提げ、8月には〈サマソニ〉のメイン・ステージに立つロイヤル・ブラッド。ここ日本でもいよいよ本格的に大ブレイクする時が来た。

 


ロイヤル・ブラッド

マイク・カー(ヴォーカル/ベース)とベン・サッチャー(ドラムス)から成る2人組。2013年初頭にブライトンで結成。同年11月にファースト・シングル“Out Of The Black”を自主リリース。2014年5月に行われたアークティック・モンキーズのフィンズベリー・パーク公演で前座を務め、8月に発表したファースト・アルバム『Royal Blood』でUKチャート1位を獲得。〈ブリット・アワード〉や〈マーキュリー・プライズ〉も受賞して大きな話題を集める。その後、フー・ファイターズとの北米ツアーや〈グラストンベリー〉出演など、ライヴ活動を精力的に展開。このたびセカンド・アルバム『How Did We Get So Dark?』(Warner UK/ワーナー)をリリースしたばかり。