アクセル・ローズスラッシュダフ・マッケンガイの3人が再結集したガンズ・アンド・ローゼズのジャパン・ツアーも記憶に新しいが、ブラック・サバスがシュプリームとコラボするなどファッション界でも注目されていたりと、ここ最近はHR/HM(ハード・ロック/ヘヴィー・メタル)が一周回ってクールな存在として若いリスナーの心を惹きつけているようだ。

そんな時代にジャストなタイミングで飛び出してきたのが、イタリアはトリノ出身のスリーピース、ビー・ザ・ウルフである。彼らが爆音で叩きつけるサウンドは、ダークネスウルフマザーダットサンズといった2000年代初頭のハード・ロック・リヴァイヴァルを彷彿とさせるパワフルでド直球のロックなのだが、どこかイタリアらしい豪快さ(テキトーさとも言う?)と、ポップスもジャズもカントリーもヒップホップも呑み込んだ雑食性がおもしろいほどツボを突いてくるのだ。

昨年にセカンド・アルバム『Rouge』をリリースし、同作を引っ提げて2月24日(金)には東京で一夜限りの来日公演も控えるビー・ザ・ウルフ。HR/HM畑ではすでに絶大な人気を博すバンドだが、より広く彼らの音楽に触れてほしい!――ということで、本稿ではメンバーの取れたてコメントも挿みつつ、その知られざる魅力に迫ってみよう。

 

強烈なギター・リフと揺るぎない美学

フェデリコ・モンデッリ(ヴォーカル/ギター)、マルコ・ヴェルドネ(ベース)、ポール・カネッティ(ドラムス)の3人から成るビー・ザ・ウルフの結成は、2011年9月。当初はギタリストのフランチェスコ・プリオーリを含む4人編成だったが、2015年に彼が脱退してからは後任を加えず現在のトリオで活動している。

王道のハード・ロックを下敷きとしながら、一発で記憶に刻まれる強烈なギター・リフ、タイトかつ緊迫感に満ちたバンド・アンサンブル、そしてフェデリコの情熱的なハイトーン・ヴォーカル。何もかもが規格外だった彼らの楽曲やステージングはすぐさま評判を呼び、そのグッド・ルッキングなヴィジュアルも相まって国内外のレーベルが争奪戦を繰り広げる事態となった。

結局、ロイヤル・ハントダーク・ムーアで知られるミラノのスカーレットと契約を交わしたビー・ザ・ウルフは、2015年10月にデビュー・アルバム『Imago』をリリース。作詞・作曲・アートワークはすべてフェデリコ自身によるもので、タイトルは生物学的な見地で〈蝶等の成虫(成体)〉という意味を持つほか、心理学者ユングが提唱した〈幼児期に形成されたままの愛する人物(=親)の理想化された概念〉を表す精神分析用語でもあるらしく、時折り文学的な知性すら感じさせる彼の歌詞/世界観は初期から完成されていたことになる。

『Imago』収録曲“24”
 

ここでチェックしてほしいのが、同作のリード・シングル“The Fall”のビデオ。儚げなコーラスと極太のリズム隊のコントラストがクセになるナンバーだが、フェデリコが監督/編集も手掛けたこの映像は、バンドが4人編成だった頃の貴重なドキュメントであるのと同時に、ロールシャッハ・テストを模したと思しきジャケットとも共鳴する〈シンメトリー(左右対称)〉への偏執狂的なこだわり、つまりは揺るぎない〈美学〉が伝わってこないだろうか?

 

ロック不毛の地、トリノで孤軍奮闘

ビー・ザ・ウルフの出身地であるトリノは、イタリア第二の都市。しかし、われわれ日本人にとっては荒川静香が金メダルを獲得したトリノ・オリンピックや、セリエAに所属するサッカー・クラブのユヴェントスといったスポーツ関連でしか馴染みがない場所だ。事実、〈バンド・シーン〉と呼べるものは皆無のようで、フェデリコもこの地でロックをやり続けることの苦労を打ち明けている。

※以降、文中の発言はすべてフェデリコによるもの

「クラシックなロックにインスパイアされたギター・バンドは、イタリアではだいぶ少なくなったね。ロックやメタルをプレイしていたアーティストたちは、トレンドを追うようにヒップホップ/トラップのプロジェクトを始めている。これこそ、僕らがイタリアで活動するにあたって葛藤している理由なんだよ。いわゆる〈ロック・シーン〉が存在しないから、若いロック・バンドにプレイさせるライヴハウスはほとんどないし、その状況を打開してくれるような大物のバンドなんて育ちっこないんだ」

冒頭でも書いたが、ビー・ザ・ウルフは日本が誇るヘヴィー・メタル/ハードロック専門誌・BURRN!の2015年度読者人気投票で新人部門のチャンピオンに輝いたこともあり、HR/HM畑ではデビュー当時から高い評価を受けていた(しかも、フェデリコはBURRN!で〈THE YOUNG WOLF FROM WEST〉という連載コラムまで書いている)。そうした追い風もあって、昨年6月には早くも初来日公演が実現。東京・TSUTAYA O-WESTでのヘッドライン・ショウを含むこのツアーでは、なんとお笑い芸人のやついいちろうエレキコミック)が主催するフェス〈YATSUI FESTIVAL!〉に史上初の海外アーティストとして出演し、超アウェイな環境をものともせず、一見さんのオーディエンスを次々とノックアウトする凄まじいパフォーマンスを披露した。もしかすると、彼らは逆境でこそ燃えるタイプなのかもしれない。

前回の日本滞在時のドキュメンタリー。映像もフェデリコが編集
 

フェデリコは、日本での手厚いおもてなしとファンの熱気にいたく感動したらしく、〈前回の日本滞在でどんなカルチャーショックを受けたか?〉という質問にこう答えてくれた。

「もっとも衝撃的だったのは、間違いなくみんなの音楽に対するアティテュードだよ。ロックへのリスペクトがあるし、すごく興味を持って接してくれる。そして、心からライヴ・ショウを楽しんでいるよね。イタリアの状況は本当に酷いから、そういう様子を見るのはかなり目新しい体験だったな」

 

渋谷をテーマにした楽曲も! 最新作『Rouge』と多彩な音楽的バックグラウンド

そんな日本での経験や興奮をそのままパッケージングしたと言っても過言ではないのが、昨年リリースされたセカンド・アルバム『Rouge』。真っ赤なジャケットにあしらわれた、バンドのシンボルでもある狼のシルエット(これまた左右対称!)が目を引くが、フランス語で赤/真紅を表す言葉をタイトルに選んだのは、アルバムのテーマが〈火〉や〈血〉、あるいは〈信仰〉といったテーマを扱っていることと、2015年11月にパリで発生した同時多発テロ事件の犠牲者を追悼したい……という真摯な想いもあったようだ。

BE THE WOLF Rouge Scarlet/MARQUEE(2016)

オープナーの“Phenomenons”からしてブルージーなギター・リフ&ヴォーカルで血液を沸騰させるが、サウンドそのものは前作以上にヴァラエティー豊かでスリリング。乾いたアコギのイントロからスピリチュアルなコーラスに雪崩れ込む2曲目“Down To The River”の構成は映画を思わせるスケール感だし(実際、西部劇のサントラにも影響されたそう)、韻を踏んだ言葉遊びも楽しいファンク・チューン“Blah Blah Blah”は『Californication』(99年)期のレッド・ホット・チリ・ペッパーズを意識したと聞いて膝を打った。もちろん、従来のHR/HM路線を引き継いだ激重リフが牽引する“Gold Diggers”のようなナンバーもあるし、シン・リジィにインスパイアされたという“Rise Up Together”の一体感/グルーヴ感もハンパじゃない。

しかし何と言っても特筆すべきは、5曲目の“Shibuya”だろう。渋谷の街を〈女性〉として擬人化したユニークな歌詞にも注目だが、〈Should I die today I could say I knew(今日死ぬべきか/俺は知っていたと言える)〉というサビには、「夜の渋谷を味わって〈これ以上美しいものはない〉と思ったところだったのに、夜明けの渋谷はもっと美しいことに気付いたんだ」と語るフェデリコのセンチメンタルな心境が描かれており、〈Leave me here with you(永遠にこの地と結ばれたい)〉という言葉通り、嘘偽りないメッセージも込められているようだ。

ちなみに、『Rouge』の国内盤にはブルーノ・マーズのカヴァー“Locked Out Of Heaven”がボーナス・トラックとして収録。前作『Imago』でもキルスウィッチ・エンゲイジの“The End Of A Heartache”をアコースティックで再構築してみせた彼らだが、前回の来日公演においてもレッド・ツェッペリンスティーヴィー・ワンダーの楽曲をセットリストに組み込んでいたし、カヴァーのセンスには定評がある。ビー・ザ・ウルフがカヴァーに挑戦するうえで、約束事のようなものはあるのだろうか?

「僕らがカヴァー曲をやるときは、どれだけその曲やアーティストを愛しているか、そして僕らの音楽的なバックグラウンドにおいていかに重要かをリスナーにわかってもらおうと心掛けているよ。同時に、そういったレジェンドを真似しようとしたって不可能だし無意味だから、僕らは自分たちらしくプレイするか、ガラッと雰囲気を変えてしまうんだ」

間もなく実現する再来日公演は〈The Red Wolf Strikes Back〉と銘打ち、2016年のヘッドライン・ショウと同じく東京・TSUTAYA O-WESTが舞台。フェデリコも「前回よりも良いライヴになるはずさ。いま僕らは完璧なショウをするためにすごくハードなリハーサルを重ねているからね!」と語っている。カヴァー曲のチョイスにも期待が高まるが、渋谷の街で演奏される“Shibuya”は間違いなくハイライトになるだろうし、相思相愛な日本のオーディエンスの前で彼らがどんな胸熱パフォーマンスを繰り広げてくれるのか――久しぶりに拳を突き上げて楽しめそうだ。

 

BE THE WOLF〈The Red Wolf Strikes Back〉
2月24日(金)@東京・TSUTAYA O-WEST
Open 18:00/Start 19:00
前売:7,000円(税込/オール・スタンディング/ドリンク代別)
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