深いリヴァーヴを効かせたギター・ポップやチルウェイヴ、ヴェイパーウェイヴを経由して、一貫したサイケデリック感覚がR&Bやダンス・ミュージックと融合しつつある音楽シーン。その潮流と共に浮上を果たした5人組バンドがPAELLASだ。昨年末のアルバム『Pressure』制作時には、フランク・オーシャンとテイム・インパラに大いに触発されたという彼らだが、早くも完成したミニ・アルバム『D.R.E.A.M.』は、さらなる飛躍の作品となった。

PAELLAS D.R.E.A.M. SPACE SHOWER(2017)

 「世界の音楽、主にインディー・シーンに素直に呼応していった結果、僕らの音楽性もギター・バンドから現在の主流であるR&Bをはじめとするブラック・ミュージックへ移り変わっていって、今に至るという。そして、前作『Pressure』から(Satoshi)Ananをメインのソングライターに据えて、試行錯誤の末にサウンドが固まって。そのうえで、今回は、前作で重用していたシンセサイザーからギターに主軸を戻し、歌のメロディーに強く広がりを持たせて、楽曲のポップさを際立たせました」(MATTON)。

 初の日本語詞曲“Together”“Shooting Star”を含む全6曲は、インディーR&Bやダンス・ミュージックを消化した先鋭的にしてメランコリックな楽曲と、シンガーのMATTONによる艶やかなファルセット・ヴォイスが、今まで以上に開かれた普遍的な表現世界を描き出している。

 「前作あたりから歌に対する意識が変わって、意識や音楽性の変化に伴って、声の出し方も変わりました。僕の好みとしては、オーティス・レディングよりカーティス・メイフィールドなんですよ。どちらもエモーショナルな表現ですけど、自分はサザン・ソウルの泥臭さより、シカゴ・ソウルの洗練されたエモさを指向するようになったし、この先も自分のスタイルを保ったまま、歌はシンプルに上手くなりたいんですよね」(MATTON)。

 歌やメロディーを磨き上げる一方で、彼らは安易なリズムのループや4つ打ちには目もくれず、生音、打ち込み、サンプラーを交えた緻密なリズム・トラックも、洗練に洗練を重ねている。

 「今、音楽がイケてるかどうかは、リズムがポイントになっていると思うんですよ。そういう意味で、リズムはストイックにこだわってますね」(Ryosuke Takahashi)。

 「“MOTN”では自分で入れたベース以外、ほとんどPCで作ったので、現段階ではライヴでできるのかまだわからないんですけど(笑)、前作あたりから好きになったハウスを昇華しながら、スクエアな4つ打ちではなく、スウィングのリズムを用いているところが自分なりのこだわりですね」(bisshi)。

 「この曲では声ネタのサンプルを持ち寄ったり、クラップの音色を提案したんですけど、サンプラー奏者としては、Ananの曲のアイデアをエディットしたり、引き延ばしたりしながら、曲がより伝わりやすくなるような、そんな役割を果たしていますね」(msd.)。

 バンド形態にこだわらないクールなサウンドに蒼い炎のような情熱を注ぎ込む彼らは、古典的なロックのマナーから失われたスリルを求めて、夢のその先へと進んでゆく。

 「普通、バンドはライヴを意識して曲を作ると思うんですけど、僕はそれによって作りたい音楽を制限されるのはイヤなので、まずは作品でやりたいことを自由に、最大限やって、その後でライヴのことを考えるようにしていますね。日本では、バンドの音楽性や形態にまつわる定義が狭いと思うんですよ。だから、僕らがR&Bやハウスを咀嚼したバンド・サウンドを提示することで、〈こういう音楽があるんだ!〉って感じてくれるリスナーを増やしたいと思ってます」(Anan)。

 


PAELLAS
MATTON(ヴォーカル)、Satoshi Anan(ギター)、bisshi(ベース)、msd.(サンプラー)、Ryosuke Takahashi(ドラムス)から成る5人組。大阪にて結成し、現在は東京を拠点に活動中。2012年7月にAno(t)raksより初のEP『Following EP』を、同年11月にはDead Funnyよりファースト・アルバム『Long Night Is Gone』をリリース。あいだにUNITED ARROWSなどファッション界隈への楽曲提供を挟みつつ、昨年は元日のEP『Remember』、11月のYOUR ROMANCEとのスプリット盤『lute』、12月のセカンド・アルバム『Pressure』と3作品を発表。このたびニュー・ミニ・アルバム『D.R.E.A.M.』(SPACE SHOWER)を9月6日にリリースした。