生音とエレクトロニクスのクロスポイントにたゆたう、このバンドの個性とも言える平熱感。その危うくも艶やかな音世界の構築を可能にした、最良の回答とは?

最良の回答を選べるように

 一聴すると、熱が低いように聴こえるかもしれない。しかし、制御され、反復するビートやフレーズの奥底には情熱が秘められている。その青く燃えるような感情がリスナーの身を焦がし、静かに、そして確かに支持を拡大してきた4人組バンド、PAELLAS。かつてはニューウェイヴやサイケデリックなUSインディーの影響下にあった彼らは、インディーR&Bやハウス、アンビエントに触発された2016年のファースト・アルバム『Pressure』を皮切りに、2017年と2018年のEP『D.R.E.A.M』『Yours』、2曲の配信シングル“Orange”“Weight”をリリースしながら、短期間で独自の進化を繰り返してきた。

「PAELLASの何が変容したかというと、演奏、曲作り、音楽全体の捉え方、そのすべてにおいての理解力が深まったところ。以前は一つしかなかった正解が、今はさまざまな角度から導き出したいろんな選択肢から、最良の解答を選べるようになりました」(Satoshi Anan、ギター)。

 never young beachのギタリストでもあるAnanがメイン・コンポーザーを務めた時期を経て、バンドが一丸となってスタジオワークのアプローチを模索しながらのセッションによる曲作りへ。そこからさらに変化を遂げた今作では、Ryosuke Takahashi(ドラムス)とAnanのコンビと、ベースのbisshiがそれぞれの存在感を発揮するようになった現体制下でアナログ・レコーディングを敢行。そして、完成した2年7か月ぶりとなる新作アルバム『sequential souls』はこれまでの試行錯誤を総括し、美しく研ぎ澄ませた作品となった。

PAELLAS sequential souls ユニバーサル(2019)

「アナログで録音した今回の作品は、一つ一つの音が太く、存在感があって、たくさんの音を詰め込まなくても曲が成立するので、それによってポップさが際立ったアルバムになりましたね」(Takahashi)。

 抑制されたミニマムなバンド・アンサンブルから生み出されるマキシマムなポップセンス。宙をはためくようなアンビエントなテクスチャーを纏いながら、本作の楽曲が力強くヴィヴィッドに響くのは、これまで避けていたギター・サウンドに立ち返ったことが大きな要因でもある。

「つい1年前はギターをあまり弾きたくなかったんですけど、インターネットのスティーヴ・レイシーが参加したヴァンパイア・ウィークエンド然り、音楽シーンにギター・サウンドが戻ってきているようにも感じるし、自分のなかでもギター回帰があって、このアルバムでもギターの比重が一気に高まってますね」(Anan)。

 バンドのフォーマットやライヴの再現性にこだわらず、エレクトロニックなトラックメイクの手法を平然と持ち込み、コンテンポラリーなR&Bやハウス・ミュージックからソウルやファンク、AORまで、その豊かな音楽的背景をストイックかつ洗練されたタッチで楽曲に注ぎ込んできた彼ら。今回に関しては、アルバムの流れを逆から辿るように制作が進められたという。シングル曲“Weight”“Orange”がグッと盛り上げる後半の曲を起点に、打ち込みによる曲作りを得意とするベースのbisshiが手掛けた中盤の“just like”では打ち込みに生のハイハットを加え、“searchlight”はトラックを生楽器に差し替えることで、トラック構築の手法とバンド・サウンドの融合を実践。そして、演奏の繊細さが活かされたオープニングの“in your eyes”から始まる前半は、PAELLASの最新モードである完全体のバンド・サウンドを際立たせている。

「自分一人でトラックを作り込んだ“Crystal”のアレンジはどうにも動かしようがなかったんですけど、打ち込みと生楽器のハイブリッドを意図した“just like”や“searchlight”を経て、一番最近の曲が並んでいるアルバムの前半は生音に振り切っているんです。こうして振り返ると、アルバム制作期間だけでも変遷があるというか、やりたいようにやっているだけというか、アルバムの全体像を考えてないことがよくわかりますね(笑)」(bisshi)。

 

自然と醸し出される平熱感

 制作アプローチの大きな変化に伴い、メロディーメイクもコンポーザーが担った本作にあって、一歩引いて、作詞と歌に徹したというヴォーカルのMATTON。甘さや切なさ、孤独感を内包した彼の艶やかなファルセット・ヴォイスがシルキーな耳触りと共に描き出すのは、繋がったり離れたり、刹那と永遠の狭間を行き来する恋愛を含めた人間関係や心模様だ。そのあやふやさや危うさが楽曲の浮遊感と相まって、聴く者を掴んで離さない。

「シングル2曲では日本的なメロディーと言葉を意識していたんですけど、アルバムでは日本語をはっきり発音することは殊更に考えず、音や響きを活かす歌い方になっていて。歌詞においては、例えば、恋愛だったり、個人の生き方や死生観であったり、どっち付かずであっても許されることや自分の内面で抱えた矛盾を描いています。そういうものって身の回りにいっぱいあると思うし、自分は何かを断定的に言い切れる人間ではなかったりする。そして、サウンドにも表れていると思うんですけど、めっちゃ明るくもなければダークでもない、僕らの人間性も大きく影響しているとは思います」(MATTON)。

 ジャンルをしなやかに横断する生音とエレクトロニクスのクロスポイントで、マージナルな感情やその温度を伝える彼らの音と言葉。それは、記号的な音楽が瞬く間に消費されてしまう現代にあって、その流れに抗うオルタナティヴな表現と言えそうだ。

「PAELLASは〈クール〉と形容されることが多いんですけど、そういう音楽をめざしているわけではなく、そういうテンションの4人が集まってるので、自然と醸し出されるものなんですよ。だから、もっとアッパーにアレンジすることもできるであろう“Horizon”や“Orange”といった曲も、それをやったら自分たちにとっては不自然になってしまう。だから、そういう自分と付き合っていくしかないなって(笑)」(MATTON)。

「でも、パーティー野郎じゃないというだけであって、その2曲は自分たちなりのテンションのアゲ方が形になったものであって、自分たちでは最高だと思っているんです。もっともこの作品のテンションはインディー時代の作品と地続きであるのは確かだし、派手さを求められることもあるメジャー作品らしからぬ、平熱の曲が並んでいるとは思います。そういう作品を後押ししてくれたスタッフに感謝しつつ、今後もこの調子でやっていきますよ」(Takahashi)。

 

関連盤を紹介。

 

PAELLASの近作を紹介。

 

PAELLASの音楽性を構成する、メンバー4人のルーツ/フェイヴァリット盤たち

MATTON


 MATTONが愛聴盤としてピックアップしたのは、PAELLASとはバンドの在り方が大きく異なるローリング・ストーンズのライヴ盤と、〈ミニマルなサウンド〉という意味ではPAELLASとも通じそうなミツメの最新作『Ghosts』。「ストーンズは年代問わず幅広く聴いているんですけど、あえて1枚挙げるなら、ドラッグが抜けたぐらい、『Some Girls』(78年)のすぐあとぐらいのライヴ盤かな。原曲通りにまったく演奏してなくて滅茶苦茶というか、こんなに自由にやっていいんだと衝撃ですね。ミツメの新作は今年出たスタジオ・アルバムで一番リピートして聴いてます。2019年の東京でこのアルバムが誕生した意義は自分のなかでかなり大きいですね」。

 そして、ルーツ盤はPAELLASにも影響を与えたという XXの名作ファースト『XX』。「リリース当時に聴いていたマッシヴ・アタックやトリッキー、ブリアルに通じるものがありつつ、それらのに足りないものをすべて補完していて。暗いけど、仄かな光が差していて、冷ややかではあるんだけど、親密な距離感で鳴っている。いまだに特別なアルバムですね」。

左から、ローリング・ストーンズのライヴ盤『Some Girls: Live In Texas '78』(Eagle Rock)、ミツメの2019年作『Ghosts』(mitsume)、XXの2009年作『XX』(Young Turks)

 

bisshi


 bisshiが現在愛聴しているのは、カナダのジャズ・ギタリスト、ジャスティス・ダーがフランク・オーシャン“Self Control”ほかを取り上げたカヴァーEP『Favorites』。「ギターだけでメロディーを奏でたり、ギターをループさせて、そこにメロディーを付けただけの曲がほとんどなんですけど、簡単なやり方で人間味を表現しているという意味で、自分たちに近いなって」。

 また、前作『Pressure』に大きな影響を与えたテーム・インパラの3作目『Currents』と共に、一生聴き続けるルーツ・ディスクとして挙げたのはソランジュ、ブラッド・オレンジ、ロビンの共同プロデュースも手掛けるロンドンの才人、カインドネス『World You Need A Change Of Mind』。「ギターが入っていたり、入っていなかったり、ドラムに聴こえないリズムが鳴っていたり。バンドなんだけどバンドじゃない録音物としてのおもしろさに溢れていて、なおかつ、鳴りが素晴らしいんですよ。自分がディレクションして1枚作るんだったら、こういうアルバムを作ってみたいですね」。

左から、ジャスティス・ダーの2018年作『Favorites』(792441)、テーム・インパラの2012年作『Currents』(Modular)、カインドネスの2012年作『World, You Need A Change Of Mind』(V2)

 

Ryosuke Takahashi


 Takahashiが現在よく聴いているのは、ドラマーらしく、アンダーソン・パークの『Ventura』とテキサス発の音楽集団、ブロックハンプトンの首謀者であるケヴィン・アブストラクトの最新作『Arizona Baby』というリズム・コンシャスな2枚。「アンダーソン・パークは、ドラムのフレーズの作り方が歌うドラマーにしかできないことをやっているんだなと思います。ケヴィン・アブストラクトはアートワークと対極にあるメロウさ、その落差にやられました」。

 そして、ルーツ・ディスクは彼がドラムを始めたきっかけになったストーン・ローゼズのファースト・アルバム。「他のメンバーと違って、PAELLAS以前にいろんなバンドで活動してきた僕の根底にあるのがストーン・ローゼズなんです。60年代音楽のリヴァイヴァル的な作品である以前にドラム・プレイだけで聴けるアルバムですし、去年まで僕のドラム・セットにタムがなかったのはドラマーのレニの影響。制約のなかで発揮されるアイデアを僕は愛していますね」。

左から、アンダーソン・パークの2019年作『Ventura』(Aftermath/12 Tone)、ケヴィン・アブストラクトの2019年作『Arizona Baby』(Question Everything/RCA)、ストーンローゼスの89年作『The Stone Roses』

(Silvertone)

 

Satoshi Anan


 Ananのフェイヴァリットは、70年代のハービー・ハンコックの影響色濃いシンセサイザー使いが光るメルボルンのプロデューサー、ハーヴィー・サザーランドと、ソランジュの最新アルバム『When I Get Home』。「ハーヴィー・サザーランドは一聴してすぐに、この人はアーティストとして信頼できるなと思いました。ソランジュの新作は、空間の使い方に関して、70年代ソウルの実験的なサイケ感が現代的に消化されていて、数多いるフランク・オーシャンのフォロワーが越えられなかった壁を越えた作品だな、と」。

 そのフランク・オーシャンの『Blonde』は彼が音楽を判断する際の基準となっているルーツ・ディスクとのこと。「今、ポップスを作っている人はみんな指標にしている作品ですよね。ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』がそうであったように、実験的な要素もメインストリームのポップスの要素もすべて含んだ間口の広さがあって、誰が聴いてもいいと感じる作品なんじゃないかな」。

左から、ハーヴィー・サザーランドの日本企画盤『Harvey Sutherland』(soundofspeed/Music 4 Your Legs)、ソランジュの2019年作『When I Get Home』(Columbia)フランク・オーシャンの2016年作『Blonde』(Boys Don't Cry)