その受賞遍歴は、まさに圧倒的だ。関西のライヴハウスがプロデュースした十代才能発掘プロジェクト〈十代白書2016〉グランプリ。〈でれんの!? サマソニ!? 2016〉を通過し、〈SUMMER SONIC 2016〉のISLAND STAGEへ出演。THE ORAL CIGARETTESやフレデリックを発掘したオーディション〈MASH FIGHT! vol.5〉グランプリ。TOKYO FM〈SCHOOL OF LOCK!〉と、NTTドコモ、レコチョク、タワーレコードが支援するEggsプロジェクトが主催する〈未確認フェスティバル2016〉グランプリ。関西から現れた若きモンスター・バンド、その名はYAJICO GIRL。そのプロフィール、そして初の全国流通盤『沈百景』について、ソングライターである四方颯人が、インタヴューに答えてくれた。

YAJICO GIRL 沈百景 Eggs(2017)

 「高校の軽音楽部で組みました。3年間同じメンバーでバンド活動するシステムで、邦ロックが好きだということで集まった5人です。大学受験が終わったタイミングでバンド名を変えようという話になったのですが、メンバーそれぞれ好きな子の頭文字をとって〈YAJICO〉という言葉ができて、〈GIRL〉はナンバーガールから。昔から聴いていて自分のルーツとなっているのはASIAN KUNG-FU GENERATIONです。音楽への向き合い方や考え方なども後藤さんの影響を受けていると思います。他にもフジファブリック、チャットモンチー、くるり、サカナクションは特に影響を受けてますね。いま現在はブラック・ミュージックに憧れています」。

 ツイン・ギターを擁する5人組が奏でる音は、迷いなきダイナミックなギター・ロック。初期アジカンを思わせる猛烈な疾走感を持つ“光る予感”、シャッフル・ビートのミディアム・チューン“PARK LIGHT”、フィル・スペクター風オールディーズ・ポップの香りがする“ロマンとロマンス”、そして壮大なロック・バラード“黒い海”。新人離れした豊かなヴァリエーション、確かな演奏力、そして巧さと力強さを兼ね備えた圧巻のヴォーカル力。『沈百景』は、青春期の真っ直中を生きるバンドの〈今〉を切り取ったドキュメンタリーだ。

 「音楽を作っていくことって、自意識の中に〈潜っていく〉または〈沈んでいく〉というイメージが僕の中にあって。本気で音楽と向き合うことで見える景色がたくさんあると思うし、そこを目指したいという意味で『沈百景』というタイトルにしました。過去に愛しさを感じながらも突き進むために別れを告げる――その流れを丁寧に表現したことで、曲調がバラバラでも言葉で統一感を出せたのが良かったなぁと思っています」。

 アルバムの中心になっているリード曲“サラバ”は、軽やかに弾むビートに、アコースティック・ギターの隠し味が効いたネオアコ系チューン。四方にとって、特別な思いを乗せた大切な一曲だという。

 「昨年、オーディションを通過して、環境が少しずつ変化していってるんですけど、いままで友達としていっしょに音楽をやってた4人とは仕事仲間になるっていうことだなと思って、僕はそれについて数か月悩んでいたんです。でも青春が終わってしまっても、記憶を辿ることで大事な思いを忘れずにいれば、もっと前に進めるだろうと思ってサビの歌詞を書きました。これは初めて自分のために書いた曲なんですけど、改めて聴いてみると誰でも共感できる普遍性があって良いと思いました」。

 メンバーはまだ在学中。これから〈少しずつ自分の納得できるものを作っていけたらなぁと思ってます〉という言葉からは、マイペースな大物の予感がする。その名はYAJICO GIRL。チェックするなら今だ。

 「このインタヴューを読んで興味を覚えた人はぜひ『沈百景』を手に取ってみてください。そして少しでも気に入ったなら、もっと良いものを作るつもりなので注目していてほしいです!」。

 


YAJICO GIRL
2012年、同じ高校の軽音部員だった5人によって結成される。メンバーは、四方颯人(ヴォーカル)、吉見和起(ギター)、榎本陸(ギター)、武志綜真(ベース)、古谷駿(ドラムス)。大学進学後から地元・大阪を中心とする関西圏で精力的にライヴ活動を展開していく。2016年には、関西のライヴハウスがプロデュースした十代才能発掘プロジェクト〈十代白書2016〉をはじめ、〈MASH FIGHT!〉〈未確認フェスティバル〉などさまざまなコンテストでグランプリを獲得し、大きな注目を集めた。同年9月に、関西のCDショップ数店舗とライヴ会場限定でファースト・アルバム『ひとり街』をリリース。このたび初の全国流通盤となるミニ・アルバム『沈百景』(Eggs)を9月6日にリリースした。