唯一無二の頑固親父がくれた、「人間ってさ、世の中ってさ」と考える時間を大切に

 人間、ある程度の年齢になると、幾らか頑固なくらいが良い。若い人たちや、周囲の人たちから、少々扱いにくい奴だと思われたほうが良い。物わかりの良すぎる年寄りなんて、つまらないというか、なんだか味気ないような気がする。その点、ランディ・ニューマンは申し分ない。73歳、デビューからそろそろ50年を迎えるこの人は、簡単には世の中になびかない。歌の中にいろんな人物を登場させ、世の中に潜むひずみ、あるいは、人間が抱える脆さや愚かさなど、誰もが隠したいようなところに敢えて光をあてるのだ。もちろん、そこにペーソスやユーモアを寄り添わせることを忘れない。新曲で構成されたアルバムとしては、『ハープス・アンド・エンジェルズ』以来、約10年ぶりにあたるこの新作でもそれは変わらない。というよりは、この人ならではの、面目躍如たる傑作だ。

RANDY NEWMAN Dark Matter Nonesuch(2017)

 なにしろ、タイトルからして、『ダーク・マター』。例えば、男性であることをアピールするプーチン大統領をからかったり(《プーチン》)、ラテンの風味を盛り込み、セリア・クルースまで持ち出しながら、キューバ問題に絡ませたジョンとボブのケネディ兄弟を登場させる(《ブラザーズ》)。サニー・ボーイ・ウィリアムソンは、《グッドモーニング・スクール・ガール》で知られるブルースマンだが、一般的には同じサニー・ボーイ・ウィリアムソン2世のほうが有名で、名前を盗まれたことを本家のほうの立場から綴る。いっぽうで、混沌とした世の中に真摯なまなざしを注ぎ(《イッツ・ア・ジャングル・アウト・ゼア》)、孤独な男が、自分を選んでくれた女性への感謝を切々と綴ってみせる(《シー・チューズ・ミー》)等々、振幅の大きな歌の数々で、彼は、ぼくらの心をかき乱し、虜にしてしまう。人間とは、世の中とは、ふと考える時間をもたらしてくれる。唯一無二とは、こういう人をそう呼ぶのだと、改めて貴重な存在を実感しながら、ぼくらは舌鼓をうつのだ。