(C)こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会

異例尽くしのアニメーション映画の大傑作が遂にソフト化!

 公開当初は全国63館の上映であったが、口コミで評判が評判を呼び上映館が結果として異例の累計360館以上となる大ヒットを記録。更にアニメーションでは異例の第90回キネマ旬報ベスト・テン、日本映画ベスト・テン第1位で2016年日本映画のベストワンに輝いた。異例といえば、この映画の成り立ちも異例である。こうの史代の同名コミックを惚れ抜いた片渕須直監督が約6年もの歳月を掛けて制作。資金調達のため利用したクラウドファンディングでは日本全国のサポーターから3900万円以上が集まった。

片渕須直 『この世界の片隅に』 バンダイビジュアル(2017)

 本作は、広島の江波から呉に嫁いだヒロインすずの物語だ。あの1945年8月6日(繰り返すが、舞台は広島なのである)が刻一刻と近づいていく中で、戦時下の食糧難の只中にいるヒロインたちの日常生活の小さなエピソードがユーモラスに描かれていく。その描写の丹念さは尋常ではない。膨大な当時の資料集めや当時を知る人たちへの取材を通じて、例えばわずか3秒の街並みのシーンも、実在した建物、色、背景の人物まで(!)アニメーションで再現されている。片渕の徹底的なリアリティ追求は時代考証だけではなく、多大な労力を費やされた細かなアニメーション表現のリアリティ(人物の動きは今まで私たちが見たことのないものだ)にも言えるだろう。更にすずに圧倒的な実在感を吹き込んだ声優のんの演技も相まり、それら全てが例えば戦争といった〈大きな物語〉の世界の片隅に生きるすずの日常を立ち上がらせることに成功している。

 この現代の世界の片隅にいる私たちが、この作品に何を見るのか。それは是非ご自身でご確認いただきたいが、一つ言えるのは時代は違えど映画と私たちの〈この世界〉は同じであるという当たり前のことである。しかし、その当たり前をこれほど実感できる映画もない。その感動は、凡百の催涙誘導映画とは似て非なる体験であることをお約束したい。