映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」一度終わったエヴァの物語を語り直した意味とは(ネタバレ注意)

庵野秀明 , 鶴巻和哉 , 中山勝一 , 前田真宏 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 カラー (2021)
2021.03.09

まず、このレビューは物語の重要な部分を大いにネタバレしていることを断っておきます。未鑑賞の方は、このページをそっと閉じてください。


 

2007年に公開された「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」から実に14年、そして2012年の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」から9年、〈ヱヴァンゲリヲン新劇場版〉シリーズがついに完結した。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。コロナ禍の影響もあり、完成後にも数度の公開延期を経て、最後の〈シャシン〉が映画館にかけられたのだ。〈もうこれで終わりなんだ〉というさびしさと同時に、〈やっと終わってくれたんだ〉という安堵も感じている。

「シン・エヴァ」を観た感想を一言でいうと、他者と自分自身との差異を認めて生きていくための、とても優しくて真摯で実直な物語だと思った。奇をてらったところはなく、誠実な意志がまっすぐに貫き通されている。そこに、エヴァを取り巻いていた〈謎〉はもうない。映画が多くを説明してくれている。

中心となるテーマは、成熟と和解、抱擁だと感じた。それは、保守的で土着的な〈暮らし〉や〈生活〉を描いた第3村のAパートに、特に表れている。あきらかに戦後か、あるいは震災後の風景が投影された第3村、そこでの営みや人々の交流を丹念に描いていくAパートでは、片渕須直の「この世界の片隅に」がオーバーラップするのと同時に、〈画面協力〉としてクレジットされている宮崎駿の「となりのトトロ」や「風立ちぬ」すらも思い浮かんでくる。

これが、本当にあのエヴァなのだろうか? Aパートはただひたすら、驚きに満ちあふれている。

アヤナミレイ(仮称)(林原めぐみ)を中心としたAパートは、本作の総監督である庵野秀明が、あるいはエヴァが〈背景〉やモブとしてしか描いてこなかった人々にフォーカスを絞ったもの。だからこそ、エヴァという物語のまったく新しい表情を映し出している。しかし、もしかしたらTVシリーズの「新世紀エヴァンゲリオン」(95~96年)の背景にもこんな暮らしがあったのではないか、使徒に襲撃される非常時下の第3新東京市で生きざるをえない人々もこんなふうに助け合っていたのではないか、とも思わせられる。そんな想像をさせてくれるAパートは、まさに〈シン・〉と冠するにふさわしい映画における、感動的なシークェンスだと思った。

もうひとつ、先に挙げたテーマがはっきり描かれていると感じたのは終劇に向かっていくDパートで、ここでは、どこか仏や神のような超越的な存在にも見える碇シンジ(緒方恵美)が、他のキャラクターたちの人生の物語を包み込んでいく。

特に「シン・エヴァ」の物語に深みをもたらしているのは、シンジと父・碇ゲンドウ(立木文彦)とが対峙する場面。その直前に、葛城ミサト(三石琴乃)はシンジに「息子が父親にできることは、肩を叩くことか殺すことしかない」と言い渡す。「シン・エヴァ」の物語は後者を否定して、古典的な父殺しのプロットを回避する。Aパートでの体験と経験を経たDパートのシンジは、〈:Q〉で失った14年を取り戻したのだろうか、とても成熟した大人で、老いた親を慈しんで労るのだ。シンジは、〈ダメな父親〉であるゲンドウの至らなさや人間的な不完全さをまるごと認めて、ゲンドウの人生の物語を優しく見送っていく。そんなシンジの姿がラスト・カットにそのまま繋がっていることは、言うまでもない。

シンジの苦悩が中心にあったTVシリーズと「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」(97年)は、〈心の壁〉を視覚化したA.T.フィールドが象徴するように、他者を恐れて拒絶することを描いていた。ただ旧シリーズの結論は、そのうえで〈他者と自分自身との差異を認めて生きていく〉というものだったと思う。それは、「シン・エヴァ」も同じかもしれない。しかし、ここまで書いてきたように、その内実はまったく異なっている。隣人を拒絶して首を絞めるのではなく、自分と他人とが異なっていることを否認に結びつけるのではなく、和解して優しく抱擁すること。「シン・エヴァ」はA.T.フィールドについて、Dパートでもう一歩踏み込んだ描写をしている。

〈どうして一度終わったエヴァの物語をもう一度語り直さなければいけないのだろう?〉と、新劇場版のシリーズを観ながら何度もそう感じた。その疑問は、どこまでも温かい「シン・エヴァ」を観て一気に氷塊した。不寛容の問題が蔓延するいま、エヴァの物語を現在の(庵野の)視点から語り直した意味は大きい。

シンジが「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」と言うときに、それは観客それぞれの心の中にあるエヴァにも向けられている。だから「シン・エヴァ」は、〈エヴァの物語はこれで終わり。次はもうありません。それでも、エヴァに頼らずに生きていってね〉と語りかけているように感じられるのだ(同じようなセリフを観客に、まるで叩きつけるように突きつけていた旧劇場版とはここも大きくちがう)。でも、これほど力強くて優しい物語があれば、エヴァがなくったって、明日もまた生きていけるだろう。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のタイトルには〈𝄇〉と、コロンに楽譜の終止線が合わさったものとも、リピート・マークとも取れる記号がつけられている。そこには、もしここからTVシリーズや旧劇場版の物語に立ち戻ったとしても、最後に「シン・エヴァ」の物語へと行きつくのであるならそれでいい、という思いが表れているように思えてならない。

円環の物語は繰り返す。けれども「シン・エヴァ」には、母性も父性も隣人愛もひとまとめにして、〈全てのエヴァンゲリオン〉を包み込む寛大さがある。

 


INFORMATION
シン・エヴァンゲリオン劇場版

企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉/中山勝一/前田真宏
声の出演:緒方恵美/林原めぐみ/宮村優子/坂本真綾/三石琴乃/山口由里子/石田彰/立木文彦 他

音楽:鷺巣詩郎
テーマ・ソング:“One Last Kiss” 宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作:スタジオカラー
配給:東宝/東映/カラー
宣伝:カラー/東映
製作:カラー
©カラー

 

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