ヴィオラは僕の声、ブラームスにマッチする音
ドイツ出身のヴィオラ奏者、ニルス・メンケマイヤーは7歳からヴァイオリンを習った。しかし、本人いわく「とても下手で、特に高い音が苦手だった」。一時は楽器を弾くのをやめてしまおうかと思い、12歳から14歳までレッスンに通わない日々が続いた。
「でも、音楽はとても好きだったのでなんとか演奏にかかわりたいと思い、17歳でヴィオラを始め、ユース・オーケストラに入って弾いていました」
このころから国際コンクールを受けるようになり、数々の受賞歴を誇る。2006年にはユーリ・バシュメット国際ヴィオラ・コンクールとドイツ音楽コンクールで優勝。ここからソリストの生活が始まった。
「バシュメットからは個性を大切に、自信をもって自分の音楽を奏でるようにといわれました」
実は、このコンクール前に銀行から貸与されていたイタリアの古い楽器が期限切れとなり、ミュンヘンのペーター・エルベンの工房で楽器を手に入れた。
「僕は直感人間で、すぐにいまの楽器に決めました。3分弾いただけで“自分の楽器、自分の声”だと思ったからです。いまは有名な製作者になり、価格も高騰。まさにこの楽器は自分の思い描く音が出せます」
録音にも積極的で、次々にレコーディングを行っている。モーツァルトの《ケーゲルシュタット・トリオ》やブラームスのヴィオラ・ソナタ、そしてバンベルク交響楽団とのウォルトン&ブルッフなど目白押しだ。
「モーツァルトはヴァイオリンを弾いているころは、明るく前向きな音楽だと思っていた。ヴィオラでモーツァルトをどう表現しようかと悩んでいたのですが、ザルツブルクの生家に飾ってあるヴィオラを弾かせてもらい、彼のヴィオラでの表現が理解できました。哀愁と暗さと内省的な面がわかったのです」
ブラームスに関しては、まさに自信作だという。
「ヴィオラの響きは、ブラームスの音楽にピタリとマッチします。とりわけ晩年の作品の渋く深く肉厚な響きはヴィオラだからこそ出せる。こうしたCDは共演者がすばらしく、本当に充実した録音ができました。コンチェルトもオーケストラと一体化して演奏することができ、作品の神髄に迫っています」
メンケマイヤーは6月にたった1度のリサイタルのために来日した。バッハ、シューマン、ヒンデミットなどのプログラムだったが、滋味豊かにうたう響きは特有の空気を醸し出し、聴き手の心に深々と語りかけた。
「昔から低弦の響きが好きなのです。ヴィオラの音はまさしく僕を映し出している。ひとつの作品にじっくり対峙したいタイプなので、今後もゆっくり歩んでいきます。いろんな人との共演から多くを学んで…」
LIVE INFO.
ニルス・メンケマイヤー2018来日公演
○2018年6/7(木) 19:00開演
会場:トッパンホール