ヴィオラを取り巻く環境は近年大きく変わってきている。オーケストラや室内楽を中心に、鎹や縁の下の力持ちを担ってきた彼らが、ソロやヴィオラだけのアンサンブルとして華々しく主役を務める機会が増えているのだ。その若きトップランナーとして評価を確立しているのが、フランスのアントワン・タメスティと“彼”。この度、ソニーから国内デビュー盤を発表するドイツのニルス・メンケマイヤーだ。
NILS MONKEMEYER バッハ:無伴奏ヴィオラ組曲第1番~第3番 Sony Classical(2014)
1979年生まれの彼は、ミュンヘン国立音楽大学でハリオルフ・シュリヒティにヴィオラを学び、在学中から演奏活動を開始。プリムローズ・ヴィオラ・コンクールやドイツ音楽コンクールなどで次々に優勝を飾ったその才能は、現代最高のヴィオラ奏者の一人であるユーリ・バシュメットや、アルバン・ベルク四重奏団の第2ヴァイオリン奏者ゲルハルト・シュルツも高く評価している。
録音面では、室内楽も含めると現在までにソニーで8枚のアルバムを制作しているメンケマイヤー。それらは古楽、現代音楽、自身による編曲と実に多彩だが、いずれもドイツのクラシック部門ヒットチャートで高順位を記録しているというから凄い。中でも、12年にミュンヘンでセッション録音された当盤は、彼のそうした多才ぶりを最もわかりやすい形で味わえる1枚と言えるだろう。
DISC1には、近年ヴィオラで演奏されることも多いJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲の第1~3番を収録。
「J.S.バッハはヴァイオリンとヴィオラの奏者でしたから、彼はこの組曲もヴィオラで試奏したと思うんです」とはメンケマイヤーの弁だが、確かにヴィオラとの相性は抜群。演奏も、彼独特の深みのある音色と、温かく親しみやすい語り口が絶品だ。しかも、弦をガットに張り替えたり、部分的にバロック弓を採用したりすることで、いわゆる前時代的な大味の演奏になっていないのが素晴らしい。
そしてDISC2に並ぶのが、J.S.バッハの作品にインスパイアされた4つの現代音楽。「あらゆる作曲家にとって、J.S.バッハの作品は避けて通れないもの。現代作曲家にもその点についてじっくり取り組んでもらいたかった」というコンセプトの下、メンケマイヤーはJ.S.バッハと現代をヴィオラでみごとに繋いでみせる。
15年2月には読売日本交響楽団との共演で再来日し、シルヴァン・カンブルランの指揮でバルトークのヴィオラ協奏曲を演奏する予定のメンケマイヤー。今後、我が国での彼の知名度の上昇は、ヴィオラ界全体の発展を写す鏡のような指標にもなっていくことだろう。
LIVE INFORMATION
読売日本交響楽団 第545回定期演奏会
○2015/2/13(金)19:00開演
会場:サントリーホール
読売日本交響楽団第174回東京芸術劇場マチネーシリーズ
○2015/2/15(日)14:00開演
会場:東京芸術劇場
シルヴァン・カンブルラン(指揮)ニルス・メンケマイヤー(va)