Photo by Autumn de Wilde
 

2017年の7月、〈FYF Fest〉に参加するためLAを訪れたのですが、アーバン・アウトフィッターズなどのアパレルショップで、街中の小さなレコード・ストアで、そしてフェスでの転換BGMとして本当によく耳にしたのが、スタークローラーの“Ants”でした。

ここ日本でも1月19日にデビュー・アルバム『Starcrawler』のリリース、3月には早くも初来日ツアーを控えるスタークローラーは、2015年にLAで結成された4人組。〈久々に地元からモノホンのロックンロール・スターが現れた!〉ということで、LAでは街をあげてスタークローラーをプッシュしているわけですが、その最大のハイライトとなったのが1月11日のアメーバ・ミュージック(音楽ファンの聖地として知られる老舗レコード・ストア)でのフリー・ライヴでしょう。すでにファン・ショットの映像は削除されてしまいましたが、メンバーの家族や音楽関係者も大勢詰めかけたこの夜のステージは、バンドに対する期待感が爆発した素晴らしいものでした。

 

今年の〈コーチェラ〉のヘッドライナーにロック・バンドが1組もいなかったことが象徴するように、現在は世界的にポップやヒップホップが音楽シーンを席巻していますが、スタークローラーの登場は、必ずやロックンロール再生の起爆剤となるはず! そこで今回は、2018年最初の名盤を産み落としたスタークローラーの魅力を、メンバーの生の声も交えながら紐解いてみたいと思います。

※以下、文中の発言は筆者がライナーノーツ執筆時に行ったインタヴューより抜粋
 

STARCRAWLER Starcrawler Rough Trade/Beat(2018)

 

ヴォーカルは新世代のカリスマ、アロウ・デ・ワイルド!

「古着が好きで、おじいちゃんのお下がりをもらうことも多いんだ」とギタリストのヘンリー・キャッシュが語るように、良い意味で時代錯誤なファッションも目を引くスタークローラーですが、やはり気になるのが圧倒的なスタイルとカリスマ性を誇る紅一点のヴォーカリスト、アロウ・デ・ワイルドの存在感。

その名前にピンときた読者もいるかもしれませんが、彼女の母親はベックやホワイト・ストライプスなど錚々たるアーティストを撮影し、近年はプラダのショート・フィルムも手がける写真家、オータム・デ・ワイルドです。また、父親はアリエル・ピンクやファーザー・ジョン・ミスティのバックも務めるドラマーのアーロン・スパースケ。両親はすでに離婚してしまったようですが、アロウという名前はハリー・ニルソンの楽曲“Me And My Arrow”(71年)から採られたのだとか。アロウは過去にモデルもやっていたそうで(あの長い手足を見れば納得!)、さぞかし刺激的な日々を送ってきたことでしょう。

また、以下の記事を読んでくれた読者ならご存知かもしれませんが、アロウはレモン・ツイッグスの弟マイケル・ダダリオとつい最近まで恋人関係で、かくいう筆者も彼らを通してスタークローラーを知りました。レモン・ツイッグスのアーティスト写真やMVもオータムが撮っていたし、そのフォトジェニックで退廃的な雰囲気からも現代のシド&ナンシーやカート&コートニーになれるベスト・カップルだと思っていたので、破局はあまりにも残念です……。

アロウの母、オータム・デ・ワイルドが監督したレモン・ツイッグス“As Long As We're Together”のMV
 

しかしながら、「近ごろのバンドはどれも退屈」(アロウ)とさえ言い放つスタークローラーが脚光を浴びたのは、まさにレモン・ツイッグスの前座を務めた時のことでした。観客がスマホで録画した動画をYouTubeにアップすると、ボンデージ・スーツのような衣装に身を包んだアロウが血糊(時には本物の血も!)にまみれたロックンロール・ショーを繰り広げる光景に、早耳のリスナーは騒然。その興奮はイギリスにも伝わり、ラフ・トレードの創始者ジェフ・トラヴィスが鼻息を荒くして契約をオファーしたという逸話も残されています。