ワイルドなパフォーマンスで話題を集めたガレージ・パンクスたちがパンデミックを乗り越えてカムバック! その横顔は意外にもメランコリアを湛えていて……
2018年にデビュー盤『Starcrawler』を発表、パンクを引き継ぐアティテュードと鮮烈なバンド・サウンド、フロントを飾るアロウ・デ・ワイルドの圧倒的な存在感で、日本でも単独公演や〈フジロック〉出演などで熱狂を呼んだスタークローラー。パンデミックを乗り越えた彼らは、ギターのビル・キャッシュとドラムスのセス・カロライナを加えた5人編成となり、メジャーへと移籍。通算3作目の『She Said』を完成させ、さらなる進化を遂げた。
「このパンデミックは、自分たちの活動を改めて振り返られるいい時間だった。それまでの僕たちは、ツアー漬けの日々だったし、家に帰ることなんてほとんどなくて疲労困憊していた。でも、どこにも行けない、さらにメンバーとも自由に会うことができなくなったことで、その疲弊した時間が自分たちにとってかけがえのないものだったことに気づいたんだ。そしてふたたび全員で音楽を奏でられる喜び、エネルギーを今回のアルバムに閉じ込めたんだよ」(ヘンリー・キャッシュ、ギター)。
しかし、タイトル・トラック“She Said”は、喜びよりもメランコリックなムードが漂うナンバー。これまでのパンクな鋭さとは異なる雰囲気を感じさせる仕上がりだ。
「この楽曲はバンドが再会して最初に完成した楽曲なんだ。久しぶりに会った瞬間の感情をそのまま音にしてみたら、2、3時間で完成して。これが出来たことが、今回のアルバムの道標になった。今回の制作は、時間に制約されなかったので、自分たちが思いついたアイデアを忠実に表現することに集中できたんだよね」(アロウ)。
「本当は、スピード感のある楽曲をメインに収録しようと思ったんだけど、最初に完成した“She Said”が、いまの自分たちを的確に表現しているような気がした。それを吐き出してから、徐々に曲作りが加速し、制作の終盤には“Roadkill”のような感情を昂らせるものが出来たんだ」(ヘンリー)。
そのスピード感のある楽曲もこれまでにはない雰囲気が。さらに“Thursday”など、スタジアム・ロックのようなスケール感のある楽曲も収録されている。
「僕とベースのティム(・フランコ)が、昔のポップスというかゴーゴーなんかをよく聴いていて、それを反映した感じ(笑)。自分たちが制作の際に聴いていた音楽が、いい意味でバンドに化学変化をもたらしていると思う」(ヘンリー)。
また、変化するサウンドに呼応するようにアロウのヴォーカルも表情豊かに。“Stranded”で響かせる妖艶さが印象的だったと伝えると「う~ん」と照れ笑いを浮かべた。
「正直、ヴォーカルに関しては、どういうふうに歌おうとか考えていなかった。ただ楽曲に導かれるがままに、声を出していただけ(苦笑)」(アロウ)。
また、アルバムのラストを飾る“Better Place”ではアロウとヘンリーが息の合ったハーモニーを披露している。
「7年も一緒にいると、お互い似てくる部分もあるし、そうならない部分もある。それが不思議に調和して、いいハーモニーを奏でることができたと思う」(ヘンリー)。
「他のミュージシャンと歌う機会もあるけれど、私はヘンリーと一緒に歌うのがいちばん心地いいな。無駄に緊張することなく、自分を自然に表現できるから」(アロウ)。
アルバム全体に耳を通すと、メンバー全員が居心地のいい〈ベター・プレイス〉を見つけた様子が窺える。
「これまでのアルバムも、その当時の自分たちが表現できるベストなものには仕上げていたんけど、改めて聴き直すと進化の余地がたくさんあると思った。それを新メンバーやプロデューサーのタイラー・ベイツと共に、楽しみながら追求できたことは大きい」(ヘンリー)。
このインタヴュー収録の数日後、10月上旬にはアルバムを携えてのツアーがスタート。挑発的なパフォーマンスが話題を呼ぶ彼らだけに、今回どんなステージを披露するのかも楽しみなところ。
「とても充実したツアーになる予感しかしないよ。みんなと最高の空間を共有したいな」(アロウ)。
「ツイン・ギター編成になったことで、これまで以上にしっかりとした音を鳴らせるようになった。さまざまな人に響くロックンロール・ショウを届けられると思う」(ヘンリー)。
日本でのステージが待ち遠しいと笑みを浮かべたヘンリー。
「これまで演奏した場所でいちばん印象に残っているのは日本なんだ。今回もツアーのハイライトになることは確実さ」 (ヘンリー)。
スタークローラーの作品。
左から、2018年作『Starcrawler』、2019年作『Devour You』(共にRough Trade)