〈もしあなたが、ロックンロールはもう死にかけで、本来の遊び心やパフォーマンスや原始的なエネルギーを失っていると思うのなら、それはまだスタークローラーに出会っていないということでしかない〉——ジェフ・トラヴィス(ラフ・トレード)。
レーベル側のPRの通り、このバンドが救世主たり得るのかどうかはともかく、紅一点のヴォーカリスト=アロウ・デ・ワイルドの姿から伝わるものはあるかもしれない。懐かしくもパティ・スミスや往年のイギー・ポップあたりを連想させる中性的な容貌で、スキニーを穿くために生まれてきた狼のような彼女は、写真家/ミュージシャンのオータム・デ・ワイルド(元ブロンズ)を母に、アーロン・スパースケ(アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティ他)を父に持つ。ちなみにオータムの父親ジェリーも著名な写真家(モントレーでギターを燃やすジミ・ヘンドリックスの写真が有名)。そんな血を引くアロウも昔はアートを志していたが、音楽を選んだ際に気の合うドラマーのオースティン・スミスが現れ、ヘンリー・キャッシュとティム・フランコが集まったことで、2015年にスタークローラーが誕生した。
ストゥージズやヤー・ヤー・ヤーズ、オジー・オズボーン、ランナウェイズ、クランプス、ウルフ・アリスといった名が引き合いに出される彼らだが、4人の鳴らすサウンドは、叫ぶようなギター・リフと激しいビートが、プリミティヴなアロウのパフォーマンスと相互に煽動し合うことで巻き起こる火花のようだ。曲作りのプロセスについてオースティンはこう説明する。
「大抵ヘンリーがギター・リフを持ち込んで、みんなでリハーサルをする。アロウとヘンリーが歌詞を考える。それから、僕とティムとヘンリーでメロディーとリズム・セクションを考える。それから全員でアレンジしたり、歌ったり、アイデアを出したりする。本当にみんなが一緒になって共同作業している感じだよ」(オースティン)。
そんなバンドをいち早く見い出していたのが、かのライアン・アダムスだ。きっかけは彼とオータムがInstagramで繋がっていたことだという。
「ライアンはInstagram経由で僕らのライヴ映像を観て、ライヴに来たいってアロウの母親に連絡してきた。彼はライヴに来て、すごく楽しんでくれた。その時に彼のスタジオに招待された。1週間後くらいにスタジオに行って数曲レコーディングした。その後も、彼がLAにいる時にもう何曲かレコーディングして、それがアルバムになった。早い展開だったよ」(オースティン)。
そうして完成したのが今回リリースされたファースト・アルバム『Starcrawler』だ。30分にも満たないサイズもある種の〈品格〉を感じさせるが、構成については「ただ曲が出来ていて、それらは短くてキャッチーだった。だからこういうアルバムになったんだ」(ヘンリー)と一言。ライヴ演奏をそのまま反映したレコーディングは、ライアンの手引きのもと、彼のスタジオでアナログテープに録るという形で行われたそうだ。
「曲を持っていった時に、彼は引き算の考え方を教えてくれて、曲がうるさすぎたり、大袈裟すぎないように、無駄を省いていった。ライアンとのレコーディングで学んだのは〈シンプルであることの大切さ〉だね」(オースティン)。
そんな教えが活きたのかどうか、粗削りなのにタイトに響く演奏と、ぶっきらぼうなアロウの歌唱の絡みも圧倒的だ。敬愛するオジーの“Crazy Train”に倣うでもない“Train”で駆け出し、ソリッドな地元讃歌“I Love LA”、泥臭くヘヴィーな前半からスリリングに加速する“Chicken Woman”、馬鹿馬鹿しい挑発のような“Pussy Tower”など、ザラザラ擦り切れた音像に乗せて吐き出されるのは思わせぶりな言葉だ。ただ、彼らいわく曲名や歌詞は言葉通りに解釈してほしいとのこと。
「僕たちの曲は実話が多い。フィクションも混ぜていかないとな」(オースティン)。
「確かにそうね。でもリスナーがどう解釈しようと、それは個人の自由よ。私はまったく気にしない」(アロウ)。
その言葉自体をどう受け止めるのかも受け手の勝手ではある。しかしながら、ロックンロールという概念からの過剰な期待に瀕したとしても、敏捷な4人は身をかわして爪を立てるだろう。『Starcrawler』がありとあらゆる無作法な賛辞に相応する一枚なのかはわからないが、少なくとも彼らの叩き出すサウンドを浴びて何かを無性に感じたなら、それこそが証明だ。
スタークローラー
アロウ・デ・ワイルド(ヴォーカル)、ヘンリー・キャッシュ(ギター)、ティム・フランコ(ベース)、オースティン・スミス(ドラムス)から成るLAのロック・バンド。アロウとオースティンが2015年の夏に出会って楽曲作りを始め、2016年に現在のメンバーが揃って活動を開始する。2月に初のライヴ・パフォーマンスを行い、9月にシングル“Ants”を配信リリース。2017年にラフ・トレードと契約し、5月に“Ants”を7インチでリカット。8月にはLA Weekly紙の表紙に登場する。並行してデイヴ・グロールが主催する〈Cal Jam 17〉や、〈Desert Daze 2017〉などのフェス出演でも話題を呼び、このたびファースト・アルバム『Starcrawler』(Rough Trade/BEAT)をリリースしたばかり。