自由な発想で繰り広げられる3人のおしゃべり
〈Brothers〉といっても、兄弟でも男子でもない。The Wisely Brothersは、真舘晴子(ギター/ヴォーカル)、和久利泉(ベース/コーラス)、渡辺朱音(ドラムス/コーラス)による3ピース・バンド。彼女たちは高校の軽音楽部で仲良くなって、バンドを組むことになった。それが2010年の話。真舘は当時のことを、こんなふうに振り返る。
「泉は小学生の頃からバンドをやってたんですけど、私と朱音はバンドを組むのは初めてだったんです。それで最初の頃は泉が知っていたチャットモンチーのカヴァーをして、高2の時に初めてオリジナルを作りました」(真舘)。
そして、初めてライヴハウスのステージに立ったのが2012年。3人は下北沢を拠点にライヴ活動を続け、2014年には初作『ファミリー・ミニアルバム』を発表した。最初の頃は「何をやりたいのかわからないままやっていた」(和久利)けれど、最近では「音楽への向き合い方が、だんだんはっきりしてきた」(真舘)という彼女たち。そんななかで記念すべきメジャー・デビュー・アルバム『YAK』が完成した。プロデュースを手掛けたのは、昨年リリースした『HEMMING EP』に続いてGREAT3の片寄明人だ。
「私たちが曲作りをするところから一緒にスタジオに入ってもらいました。片寄さんは3人が出した音のカケラを拾ってくれて、それをどういう方向に広げていったらいいのか相談に乗ってくれたんです。そして、道を逸れないように見守ってくれる、灯台みたいな方でした(笑)」(和久利)。
頼もしい灯台の灯りに照らされながら、ゴールをめざした3人。彼女たちの曲作りの出発点になる〈音のカケラ〉とはどんなものなのだろう。
「3人でスタジオに入って、誰からともなく音を鳴らしはじめるんです。そこに晴子が自由に歌を乗せていく。楽器を入れ替えて演奏してみたり、コードがバラバラだったり、突然曲が終わったりするものもあって」(渡辺)。
「後で聴いて〈これってどうなんだろう〉って思うものもあるんですけど、片寄さんは〈それがWiselyらしいとこだから〉って、私たちの良さを客観的な目で見つけてくれる。そういうところにもすごく助けられました」(真舘)。
自由な発想から生まれる曲の原石。それをメンバーと片寄が一緒になって磨き上げていった。さらに今回はたくさんの曲を作る必要があるため、新しい試みを採り入れたりもしたらしい。
「3人が気に入っている曲を一緒にワンコーラス聴くんです。そして、10秒後くらいにその曲を自分たちっぽくやってみる。絶対同じようにはできないんですけど、聴いた曲の要素を自分たちなりに吸収できた気がして。例えばレモン・ツイッグスの曲を聴いて出来たのが“キキララ”。全然違う感じになってますけどね」(真舘)。
そうやって、3人は音楽と戯れるようにして曲を作り上げ、アナログ・レコーディングで録音した。一発録りでやり直しができないだけに緊張したそうだが、「そのうち自分たちだけのタイミングが生まれて」(渡辺)ライヴ感溢れるバンド・サウンドを生み出している。そして、アルバムに散りばめられたユニークなアイデアや瑞々しいポップセンスも魅力的だ。朗読から始まって曲の後半では歪んだギターが炸裂する“The Letter”や、「これまでこんな明るい曲を書いたことがなかった」(真舘)という“庭をでて”のオールディーズ風のハーモニーと昂揚感。スイスのガールズ・パンク・バンド、リリプットからインスパイアされて「(リフやビートを)繰り返すカッコ良さに目覚めた」(和久利)という“Season”など、どの曲もキャラクターが際立っている。
「“The Letter”はスタジオで手紙の下書きをしていて、それをその場で読みはじめたんです。その時、泉がベースを弾いていて、なんとなくそのリズムに合わせるようになって、そこに朱音がドラムを入れて……その時、〈あ、こんなふうに曲を作って良いんだ!〉って閃いたんです」(真舘)。
「今回のアルバムは、それぞれの曲に何かひとつポイントになる部分があります。例えばリズムボックスを使ってみるとか。そうすることで、曲単位ではシンプルにまとまっていながら、アルバム全体を見るとたくさんアレンジをしているように聴こえるんですよね」(和久利)。
ちなみに3人のお気に入りのバンドはペトロールズで、その理由は「シンプルな曲なのにメンバー3人の個性が詰まっていて、それが同じ方向を向いているところ」(和久利)だとか。その言葉はThe Wisely Brothersについても言えること。洋梨、レモン、リンゴ、3つの果物がカラフルに並んだジャケットのように、『YAK』は3人の個性が鮮やかに発揮されたアルバム。音楽を通じて素顔の彼女たちに出会えるはずだ。
「今回は、私たちが日常で感じているいろんな気持ちをストレートに曲にすることができたと思います。3人でおしゃべりしているようなアルバムなので、〈わかるなあ〉とか〈ちょっと違うな〉とか、いろんなことを感じて楽しんでもらえたら嬉しいです!」(真舘)。
The Wisely Brothersの作品。