注目の若手指揮者の才能を生み出したもの

 昭和最後の年に生まれた坂入健司郎。アマチュア・オーケストラを指揮してブルックナーの交響曲を堂々たるサウンド、確固とした構築感をもって響かせ、話題を呼んだ。今回、初めてプロ奏者からなるオーケスラを指揮した演奏会のライヴ録音が発売。巧みなバランスでモーツァルトの世界を豊穣に描いている。若手とは思えぬ、その手慣れた手腕。それは、どうやって培われたものなのか。

坂入健司郎,川崎室内管弦楽団 Mozart: Sinfonia Concertante K.364, Symphony No.41 "Jupiter" Altus(2018)

 最初は、幼稚園のときに読んだ歴史マンガだった。そこでチャイコフスキーといった名前を覚える。ほどなく、ディアゴスティーニから「隔週刊クラシックコレクション」が創刊され、それを両親にねだって購入したのが、クラシック音楽との出会いだったという。「このCDで演奏しているのは、ミラン・ホルヴァートやアントン・ナヌートなど渋い指揮者ばかり。後年、ナヌートの生演奏を聴いたときは興奮しました」

 小学生の頃には、指揮者によって演奏に違いがあることに気づく。ピアノを習い始めたのは、将来は指揮者になりたいと思ったからだ。ブルックナーの魅力に気づいたのは、中学受験がきっかけ。「勉強中は集中を妨げないよう、長い時間の曲を流すようにしてたんです。そこでブルックナーの交響曲をBGMにしていたんですが、だんだんその音楽にハマってしまって」

 初めて指揮をしたのは、中学2年のときの部活動で、プロコフィエフの古典交響曲の第3楽章。高校では、小林研一郎のセミナーに通うなど、指揮者への道を着実に歩み始めた。音大に進むことも考えたが、「より広い視野で文化全般に触れたほうがいい」という高校の恩師の言葉もあって、慶應大学へと進学する。

 ワグネル・ソサィエティー・オーケストラでチェロを弾き、井上道義に学ぶために金沢にも通い、新たに学生オーケストラを創設して、本格的な指揮活動に入った。この学生オーケストラは、後に東京ユヴェントス・フィルハーモニーに発展、現在も坂入の重要なパートナーだ。

 様々な指揮者のリハーサルにも頻繁に足を運んだ。「指揮者は言葉で指示しますが、言葉以外で音が変わる瞬間もそこにはあるんですよね。それを捉えたい」

 これからはラモーなどの古楽にも取り組みたいと語る。そして、ブルックナーやシベリウスの交響曲。バルトークやドビュッシーなどのほかに、ヴィヴィエやグリゼーといった現代曲にも関心を寄せる。

 坂入には音楽の全体を見渡す視点がある。それは、小学生のとき浴びるように耳にしたブルックナーの構造が身体に浸透したのかもしれぬし、そのオタク的情熱を支えるピュアさにも由来するような気がする。

 


LIVE INFORMATION

2018年O.F.C.公演  合唱舞踊劇「カルミナ・ブラーナ」
○6月16日(土)16:00開演 会場:東京文化会館大ホール
坂入健司郎(指揮)東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
www.choraldancetheatre-ofc.com/

東京ユヴェントス・フィルハーモニー第17回定期演奏会
○4月28日(土) 18:00開演 会場:パルテノン多摩 大ホール

東京ユヴェントス・フィルハーモニー創立10周年記念演奏会
○9月16日(日)18:30開演 会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
tokyojuventus.com/