高野百合絵
「〈気持ち〉から音楽を作れるスペイン物に強く惹かれます」
日本コロムビアの若手アーティスト発見シリーズ〈オーパス・ワン〉の第2弾の1人に選ばれたメゾソプラノ歌手、高野百合絵のデビュー盤『CANTARES』は「カルメン」(ビゼー)からの2曲にオブラドルス、デ・ファリャ、トゥリーナのスペイン歌曲という思い切った選曲。さらに同郷(富山県)の先輩でベルリン国立歌劇場所属のテノール歌手、澤武紀行が「万葉集」に基づいて作曲した1品を加え、自身のルーツも見つめる。20代半ばの瑞々しい声と奔放な表現への志向が、絶妙のバランスで溶け合った好企画だ。
高野百合絵 Opus One CANTARES OpusOne/コロムビア(2020)
――日本の声楽家では異例の早いデビューです。
「昨年(2019年)3月に東京音楽大学大学院を修了、ウィーン市立音楽院に留学するまで10年近く菅有実子先生に師事、本当に色々なことを教えていただきました。前後して憧れの先輩ソプラノ歌手の鈴木玲奈さんが〈オーパス・ワン〉第1弾でデビュー、〈いつか私も〉と思っていた矢先にお話が舞い込み、びっくりです。若手を応援するメジャーレーベルなんて今日、ほとんどありませんからね」
――スペイン音楽を選んだ理由は。
「そもそも声楽家を目指すきっかけが『カルメン』でした。〈オペラなんて、20分もすれば眠くなってしまうだろう〉といった先入観を見事に覆され、徹頭徹尾、情熱的な音楽に打ちのめされたのです。大学院でスペイン歌曲を専攻しようと考え、菅先生に相談したところ〈向いているわよ〉と背中を押してくださり、服部洋一先生の下で研さんを積みました。デビュー盤のピアニスト、吉本悟子さんも大学院のスペイン歌曲指導の先生です。フラメンコの勉強にもそれ以前から取り組んでいたので、本当に好きなのだと思います。定番のオペラアリアとかを出しても、品定めされるだけですし……」
――どこがそんなに、魅力的なのでしょう?
「気持ちをそのまま、音楽にできる自由さです。楽譜は一応存在しますが、必要最小限の約束事だけで、実際には楽譜と関係なしに、歌手から歌手へと口承伝承で歌い継がれてきました。『カルメン』にしても今の私よりさらに若い女性であり、どす黒い感じではなく、テレサ・ベルガンサのように綺麗な声で歌いたいと思いました」
――〈メゾ・ソプラノ〉と特定の音域に縛られるのがもったいないような……。
「うわっ、わかりましたか!(笑)本当は〈歌〉とだけ記し、とことん自由なスペイン歌曲さながら、何でもありの世界に羽ばたいてみたいのです」 *池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
PROFILE: 高野百合絵
清廉と官能が手を取り合い弧を描く
空と大地と人の匂いを豊潤に引き出す表現者
富山県出身。東京音楽大学付属高等学校、大学、及び大学院を首席で修了。2018年日生劇場オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」(広上淳一指揮、菅尾友演出、読売日本交響楽団)ドラベッラ役を在学中にオーディションで射止め、華のある舞台姿と存在感で観客を魅了。また、オーケストラアンサンブル金沢、関西フィルハーモニー管弦楽団、ルーマニア国立ジョルジュ・エネスコ フィルハーモニー交響楽団など国内外のオーケストラと第九や宗教曲等のソリストを務める。『NHK BS8K ルーブル美術館 美の殿堂の500年 オリジナル・サウンドトラック 音楽:千住明』(avex classics)に参加。