今年のLFJでも演奏した隠れた傑作を最高の環境で録音!
ラ・フォル・ジュルネ(以下LFJ)への出演や、鬼才シプリアン・カツァリスとの共演でもおなじみの実力派ピアニスト・広瀬悦子が、ソロでは約6年ぶりとなるソロ盤を発表した。収録曲は、ロシアならではの旋律美と超絶技巧を特長とするリャプノフの《12の超絶技巧練習曲》。彼女が前作で取り上げたバラキレフの愛弟子にあたる彼が、敬愛するリストの《超絶技巧練習曲》を引き継ぐ意図で書き残した傑作だ(リストがフラット系の調性を扱ったのに対し、リャプノフはシャープ系を採用)。
「数年前に私のファンのドイツ人の方からこの作品を教わって。最初はあまりの難しさにお手上げ状態でしたが、1年ほど経ってから、少しずつ共感していきました。ちょうどその頃、2018年のLFJのテーマが、〈新世界へ亡命・移住した作曲家〉に決まり、晩年の旧ソ連建国時にフランスへ亡命した彼の隠れた最高傑作は録音にもぴったりだと思ったんです。LFJのアーティスティック・ディレクターで、今回のレーベル(MIRARE)を手がけるルネ・マルタンも快く応援してくれて、楽器(スタインウェイ)、ホール(パリの聖マルセル福音教会)、エンジニア(著名なピアニストでもあるニコラオス・サマルタノス)のすべてを、私が望む最高の形で叶えてくれました」
この色彩溢れる練習曲を演奏会で度々取り上げ、作曲者の自作自演も聴くなど、入念に録音の準備を重ねた広瀬。「リストの技巧と詩情をも超える新たな音楽の旅」と讃える本作の聴きどころを次のように語る。
「静寂の中で眠る子どもの様子を描いた第1番《子守歌》は、穏やかな曲想と美しい装飾音が魅力で、演奏会でも人気の高い1曲。第8番《叙事詩》は、ロシア民謡が題材ですが、森の奥深くから兵士たちが近づいてくるような音楽は、私が愛読するカズオ・イシグロの『忘れられた巨人』の世界観に重なりますね。流麗でリズミカルな第10番《レズギンカ》は、まるでリムスキー=コルサコフの《シェエラザード》のよう。そして、《ハンガリー狂詩曲》を彷彿とさせる最後の第12番《フランツ・リストを偲んで》では、リャプノフがリストとロシア音楽に寄せた真摯な敬意を存分にお楽しみください」
今年9月に、名古屋と松山で本作を抜粋で演奏予定の彼女。15歳から拠点にするパリでは、特定の芸術家にスポットライトをあてた展覧会が盛んで、最近はマティス、シャガール、ブラックなどの鮮烈で創造性豊かな作品群に強く惹かれたという。そうした影響もあってか、次回作の候補のひとつにムソルグスキーを挙げており、新たな意欲作の誕生に期待が高まる。
LIVE INFORMATION
広瀬悦子 ピアノリサイタル
○9/8(土)17:30開場/18:00開演
会場:宗次ホール(名古屋)
リスト:「巡礼の年 第1年スイス」より 郷愁/泉のほとりで/嵐 「詩的で宗教的な調べ」より 孤独の中の神の祝福
ショパン:ロマンス/練習曲Op.25−1「エオリアン・ハープ」
リャプノフ:超絶技巧練習曲Op.11より 第8番叙事詩による歌/第9番エオリアン・ハープ/第10番レズギンカ/第12番リストを悼む哀歌