パワフルでオリジナルな活況を呈するアジア各地の音楽シーンの〈今〉をライター/編集者の大石始をナヴィゲーターに当事者たちへのインタヴューを通してお伝えする本連載〈アジアNOW! ~アジア音楽最前線~〉〈REAL Asian Music Report〉からリニューアル後の第2回をお送りします。

今回は、7月14日(土)に開催されるバンド・1983主催のフェス〈埠頭音楽祭2018〉を巡って、アジアのインディー・シーンにフォーカス。同フェスは、現在東京オリンピックの選手村を建設中の晴海一辺にある晴海埠頭で行われ、ラインナップは埠頭という場所にちなんで国内外の交流のターミナルとなるようなものになっているそうで。そこで、〈アジアNOW!〉では、こういった企画を立ち上げるきっかけともなったという〈アジア各地のインディー・シーンのおもしろさ〉を知る主催者と出演者を直撃してきました。各々が各地で経験した貴重なエピソードをたっぷりお聞きしてアジア・インディー・シーンの現状に迫りながら、国外との交流で音楽シーンの活性化を図る〈埠頭音楽祭〉の意義や、アジアの中の日本というトピックについても考えさせられる取材となりました。 *Mikiki編集部

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新間功人(1983)、三船雅也(ROTH BART BARON)、夏目知幸(シャムキャッツ)
 

小沢健二“いちょう並木のセレナーデ”や松任谷由実の“埠頭を渡る風”など、さまざまな歌の舞台にもなってきた東京都中央区の晴海埠頭。2018年7月、この場所に建つ晴海客船ターミナルホールを会場とする音楽フェス〈埠頭音楽祭〉が初開催される。

主催は独自の日本語ポップスを探求するバンド、1983。出演はアジア・インディー・シーンのキーパーソンのひとりであるシンガー・ソングライター、スキップ・スキップ・バンバンが来日するほか、シャムキャッツやROTH BART BARON(以下、ロット)などいずれもアジア・ツアーを積極的に行ってきた面々が並ぶ。その意味でも、国を超えた交流が盛んになった現在のアジアの状況を反映した顔ぶれともいえるだろう。

今回は、埠頭音楽祭の発起人である1983の新間功人、出演者であるシャムキャッツの夏目知幸、ロットの三船雅也という3人が、東京オリンピックに向けた再開発の真っ最中にある晴海埠頭に集結。埠頭音楽祭の背景にある思いのみならず、彼らがアジア各地で見てきたインディー・シーンの裏話をたっぷりお聞きした。激動するアジア・インディー・シーン、そのエネルギーを感じていただきたい。

 

アジア全体を巻き込んで、何かのきっかけが生まれる場所を作りたい

――まず、埠頭音楽祭を開催することになった経緯を教えていただけますか?

新間功人(1983)「僕は4年前から晴海埠頭に近い中央区の一画に住んでまして、夏は毎週のように遊びに来てたんです。それであるとき〈どうやらここ(晴海客船ターミナル)のホールを借りれるらしいぞ〉という情報を耳にしまして。もともと好きな場所で何かをやりたいという気持ちが自分のなかにあったので、その延長で晴海埠頭でやろうということになりました。あと僕自身、シャムキャッツ、ミツメなど周りのミュージシャンがキュレーションするイヴェントに参加する中で感銘を受けることも多くて、1983でもそういった企画をやりたくなってたんですね。いろんな音楽活動の積み重ねでイヴェントとしてのコンセプトも固まってきました」

――そのコンセプトとはどのようなものだったのでしょうか?

新間「人や物が行き来することで、何かしらのきっかけが生まれるターミナルみたいな場所を作れればいいなと。僕も近年アジアなど海外でライヴをやるようになって、現地の人が海を越えて呼んでくれるありがたさをすごく感じていたので、日本だけじゃなくてアジアのアーティストも交えてやれたら恩返しにもなるし、いい流れができるんじゃないかなと思ってました」

――〈アジア〉がひとつのテーマとしてあったわけですね。夏目さんと三船さんは今回誘われたとき、どう思われました?

夏目知幸(シャムキャッツ)「シャムキャッツも一昨年から韓国、台湾、中国でツアーをするようになって、現地のバンドと交流するようになったんです。それもあって日本だけじゃなくて、アジア全体を巻き込んで何かできないか、バンドでよく話していたので、新間くんから話が来たときも〈同じことを考えてる人がいるんだ〉と思いました」

三船雅也(ROTH BART BARON)「タモリさんが以前何かでこんなことを言ってたんですよ。〈港はもともと町の玄関口であって、飛行機がなかった時代、海外から来た人が初めて見るその国の風景が港だった〉と。新間くんに今回誘われたときにそれを思い出して、〈あるセンスを持っているアジアのアーティストが港に集まって演奏をする〉という〈埠頭音楽祭〉の構想にトキめくものがありました」

――みなさんのなかで共有する感覚があったと。

新間「そうですね。共感してもらえる人たちを誘っていったという感じはあります」

――ラッキーオールドサン、ENJOY MUSIC CLUBの江本祐介さんに加え、台湾のシンガー・ソングライター、スキップ・スキップ・バンバンがラインナップされているのがこの音楽祭の特徴でもありますね。

※2000年代には台湾のインディー・ポップ・バンド、雀斑(フレックレス)で活動していたシンガー・ソングライター。2010年からの一時期北京に活動拠点を置いていたが、現在はふたたび台湾に戻っている。日本でもたびたびライヴを行うなど、いち早くアジア内を行き来していたアーティスト

スキップ・スキップ・バンバンの2015年作『鏡中鏡 Mirror in Mirror』
 

新間「スキップ・スキップ・バンバンは今年の1月に日本でライヴをやったときに初めて会いました。彼女は以前から単身で北京やアメリカで活動をしていたりと、僕らが今やっていることをずいぶん前から続けてきた人でもありますよね。なので、彼女と何か一緒にできないかなと思って、声をかけました」

 

アジア、すげえな

――今回の鼎談ではみなさんのアジアでの活動についてもお聞きしたいんですが、まず、シャムキャッツがアジアとの接点ができたのはいつから?

夏目「僕らは2年半前に台湾と韓国でやったツアーが最初でした。その前ぐらいからアジアのバンドと日本で一緒にやる機会が増えていて、彼らに感化されて海外でやるようになったんです。向こうからドアをノックしてくれた感じというか」

――たとえば、どういうアーティスト?

夏目「最初に仲良くなったのは韓国のイ・ラン※1。その次に台湾のサンセット・ローラーコースター※2ですね。彼らと話をして思ったのは、アジアを見てなかったのは僕ら日本のバンドだけだったということ。みんなアジア各国の音楽をチェックしてるし、日本の側が自然と高飛車になってたところはあったんだと思うんですよ。どんどん外に出ていかないとダメだなと思いましたね」

※1 韓国インディー・シーンの異端児としてセンセーショナルな活動を続ける一方で、日韓のシーンの橋渡し役ともなってきたシンガー・ソングライター
※2 =落日飛車。日本のシティー・ポップからの影響も公言する台北のバンド。今年4月には新作『Cassa Nova』がリリースされたばかり

イ・ランの2016年作『神様ごっこ』収録曲“世界中の人々が私を憎みはじめた”
 
シャムキャッツとサンセット・ローラーコースターの2018年のスプリット・シングル「Travel Agency / cry for the moon」
 

――新間さんがアジアとの接点ができたのは?

新間「一番最初は2015年にトクマルシューゴさんのバンドで回ったアジア・ツアーです。香港の〈クロッケンフラップ〉とシンガポールのフェスで演奏しました。〈クロッケンフラップ〉はとにかく巨大なフェスで、隣のステージではナイル・ロジャースが演奏してて。自分たちの後がバトルスだったりと、強烈な経験でしたね」

――その時、地元バンドとの交流はあったんですか?

新間「トクマルバンドの場合、フェスが多くてスケジュールも結構タイトなので、そういう交流はなかなかできないんですよね。去年、シャムキャッツと一緒に韓国でライヴをやったんですけど、そのとき共演したシリカゲル※1やパラソル※2のメンバーとは仲良くなりました。彼らとは聴いてきた音楽の種類だったり吸収の仕方がびっくりするぐらい近くて。同じようなインプット/アウトプットをしてる人たちが海外にいることに驚きましたね」

※1 VJも擁する韓国のシューゲイザー~サイケロック・バンド
※2 欧米や自国のサイケデリック・ロックをルーツとする3人組バンド。2017年に初来日

シリカゲル“9”
 
パラソル“競馬場の行き帰り”
 

――三船さんは?

三船「僕らはタイでした。デスクトップ・エラーというインディー・バンドが来日したときに僕らがサポートでライヴをやることになって。そこから交流ができて、タイの〈ビッグ・マウンテン・ミュージック・フェスティヴァル〉で演奏させてもらいました」

※2000年代から活動を続ける、タイを代表するインディー・ロック・バンド。2013年にOffshore主催のもと初来日

デスクトップ・エラー“น้ำค้าง”
 

――タイを訪れたのはそのときが初めてだったんですか?

三船「初めてですね。景気の良さを目の当たりにして驚きました。毎日のようにどこかで建物が建て替えられていて、僕らがかつてイメージしていたタイとはまったく違う世界になってる。フェスにしてもデコレーションにめちゃくちゃ凝ってて、ヨーロッパかと思うぐらいオシャレ。日本だったら建築基準法に引っかかりそうなすごいステージなんですよ(笑)」

――現地の若者たちと交流する機会もあったんですか?

三船「はい。みんな外国の文化に関心があって、日本の音楽をよく知ってましたね。あと、スマートフォンの使い方がすごい。僕らも今でこそだいぶ慣れてきましたけど、タイに初めて行った3年前は、SNSの使い方も向こうの若者たちのほうが全然進んでた。そのあと僕らは中国、台湾、モンゴルにも行くんですけど、ソーシャルの使い方はやっぱり向こうのほうが上手いです。〈日本はアジアの先駆者だ〉という驕りが自分たちのなかにあったことを思い知らされましたね。アジア、すげえなって」

ROTH BART BARONの2015年作『ATOM』タイトルトラック

 

理想のライヴハウスの光景がそこにあった

――みなさん各地でライヴをやってこられたなかで、印象深かった場所はどこですか?

夏目「僕らは去年中国内で6か所をツアーしたんです。広州、廈門、福州、北京、上海、杭州という6都市を7日間で回ったんですけど、中国は移動距離も長いから結構ハードでした」

新間「移動は何で回ったの?」

夏目「上海から北京のあいだは飛行機移動で、それ以外は新幹線。駅が空港ぐらいにデカいんですよ。プラットホームが30ぐらいあって、ものすごい人で溢れてる」

――そのときは地元のバンドと回ったんですか?

夏目「去年は福州のロンプというバンドと回りました。僕らぐらいのバンドだと、日本でも地方にいくと50人入ればいっぱいぐらいのハコでやることもあるんですけど、中国だと200~300人ぐらいのハコが上海や北京といった僕の知っているような都市にもあちこちにあって、しかもすぐに人が集まるんですよ。ロンプの地元ではカフェバーみたいな場所でやりましたね。お客さんもパンパンで雰囲気もすごくよかった。あと、中国にSpotifyは進出してないはずなんですけど、ちらほら使ってる若者がいるんですよ(笑)」

ロンプ(THE 尺口MP)の2017年作『愛』収録曲“嘉蓮”
 

三船「裏技があるんだよね(笑)」

夏目「セッティングが終わって外でタバコを吸ってたら、女の子が〈あなたシャムキャッツのスタッフなの?〉って言われて。〈俺、ヴォーカルなんだよね〉って答えたら、〈あ、そうなんだ、ごめん。Spotifyでしか聴いたことがないから顔を知らなくて〉って。それでライヴ後にその子がダーッと走ってきて、〈ちょっとあんた、最高じゃないの!〉と捲し立てられて(笑)」

新間「いい話だねえ(笑)」

――みんなシャムキャッツのことを知っていてライヴに来てるわけですね。

夏目「お客さんの2/3ぐらいはどこかで僕らのことを知ってくれていたみたいですね。あと、向こうの人から聞いたのは、〈2000円ぐらい払ってライヴハウスに遊びに行くか〉という層が一定数いるらしいんですね。そういう人たちはバーカウンターの前で酒を飲みながらずっと喋ってるんですよ。これこそ俺の理想としているライヴハウスの光景だなと思いましたね」

――なるほど。特別な音楽好きじゃない人のあいだでもライヴハウスが遊ぶ場所になってるわけですね。そうなると、多少マニアックな音楽をやってるバンドでも一定数の集客は確保されますよね。

夏目「そうですね。僕らのツアーももちろん全部が全部大成功というわけじゃないけど、次に繋がる感じがしました。努力のしがいがあると思いましたね」

シャムキャッツの2016年の楽曲“このままがいいね”
 

――ライヴハウスは新しいところが多いんですか?

夏目「東京にあるような昔ながらのライヴハウスもあるし、新しいライヴハウスもありますね。とあるライブハウス・グループの人からは〈数年中に中国国内で30のライヴハウスを作る〉とも聞きました。しかも400人キャパのハコを」

三船「中国って景気が良すぎてそういう話しか聞かないんですよ(笑)。若者はアイデアとやる気があれば何でもできる。カフェとかもすごい勢いで出来てるし、とにかくスピード感がすごいんです」

夏目「そうそう、スピード感が日本とは違いますよね。昨年の俺らの中国ツアーも、イヴェンターやレーベルが主催したんじゃないんですよ。とある深セン在住の女の子が僕らをどうしても呼びたかったみたいで、彼女が会社を辞めて初めて企画したツアーだったんです」

三船「すごい!」

夏目「でも、イヴェントのコーディネイトなんかやったことないわけだから、かなりの珍道中(笑)。その子は地元でお店を始めるつもりだとも言っていて、そのツアーのときから〈自主制作のCDやレコード、ZINEを置く店が中国にはないから、私が最初にやるの!〉と意気込んでて。そんなに簡単にできるのかな?と思っていたら、先月ぐらいに本当にオープンしてて(笑)」

――有言実行(笑)!

夏目「どうやって金と商品を集めたのか全然わからないんですけど、オープンした途端にInstagramにガンガン投稿をアップしてるし、本当にスピード感がすごいんです。その子、僕らのツアーのあとにテニスコーツの中国ツアーも企画してて、今レーベルもやってるんですよ」

――ロットは中国のどちらでライヴをやったんですか?

三船「一昨年、上海と北京で演奏しました。町の勢いとスケール感にやはり圧倒されましたね。あと、人のエネルギー。日本で思っているよりもみんな中国政府のことを信用してないし、世界で何が起きているかみんな知ってる。あと、驚いたのはバーコードをピッ(QRコード決済)とやればありとあらゆるものの買い物もできちゃうんですよ」

夏目「そうそう。財布を持って歩く必要がなくて」

三船「ライヴのときの物販もコーディネーターが勝手にバーコードを用意してて、TシャツもCDも全部ピッ」

夏目「屋台とかでもダンボールにバーコードが貼ってあって、オジさんがピッとやりますからね(笑)。本当に映画『ブレードランナー』の世界なんですよ」

三船「中国はまさにスクラップ&ビルドの国。僕にとって中国は、何かが起きてる感じがあってとてもおもしろく感じました」

――中国は若いインディー・バンドの数も増えてるんですか?

三船「増えてるみたいです。ただ、シーンが形成されているのかどうかはわからない。なかなか掴みにくいというか」

夏目「各都市に確実にバンドはいますね。ロンプとやったツアーでは地元のバンドがオープニング・アクトをやってくれたんですけど、アヴァン・ポップなバンドもいれば、いわゆるシティー・ポップみたいなバンドもいて。あと、北京は積み重ねられたものがある。15年続いてるシューゲイザーやノイズのレーベルがあって、支持も厚いと聞きました」

三船「〈音楽メディアが成立しにくくて、立ち上がってもなかなか軌道に乗らない〉という話を聞いたんですけど、そうした状況も遅かれ早かれ変わっていくと思います」