降り続いていた雨もすっかり上がり、新緑の合間から柔らかな陽光がこぼれるある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

【今月のレポート盤】

GARBAGE Version 2.0: 20th Anniversary Edition Mushroom/Stun Volume/HOSTESS(2018)

 

三崎ハナ「ねえねえ、こうして3人でアイスティーを飲みながらお喋りするのって、何だか女子会みたいで楽しいね!」

鶴見智奈子「各学年の代表部員が出席した臨時会合のようですよ」

三崎「もっと女子力を上げていこうよ!ま あ、一応ハナも会長だし、たまにはミーティングっぽいことでもしようか? テーマはこれね!」

鶴見「ガービッジの2作目『Version 2.0』の20周年記念盤ですね。良い議題だと思います」

天空海音「全世界で400万枚以上のヒットを記録した、私と同じ98年生まれの作品でござるよ」

三崎「今回のリイシューでは最新リマスタリングに加え、ボーナス・ディスクにシングルB面曲や未発表音源を10曲も収録しているんだよ! 胸が高まるね!」

天空「そういえば、2015年にデビュー作『Garbage』の20周年エディションが登場した際も、豪華な装丁が賞賛されていたでござる」

鶴見「より深く検証するために、とりあえず聴いてみましょうか」

三崎「(しばらく聴いて)やっぱり紅一点シャーリー・マンソンの力強くも陰りのあるヴォーカルが最高だよね~!」

鶴見「3人の米国人男性に対して、彼女だけスコットランド出身というのが興味深いですよね。USオルタナの乾いたテイストのなかに、UKっぽいウェットな陰影を感じさせるのがガービッジの魅力です」

天空「そもそも95年のデビュー時は、ニルヴァーナやソニック・ユースをプロデュースして時の人となっていたブッチ・ヴィグのリーダー・バンド、という印象が強かったようでござるね。なので、いきなり大ブレイクしたのも当然でござる」

鶴見「それがこの2作目では、ヴィグのキャリア云々を抜きに4ピース・バンドとしての個性がしっかり認知された感じですよね。とりわけシャーリーのカリスマ性が存分に発揮されたからこそ、前作を上回る成功を収めたのだと思います」

三崎「彼女のファンを公言する同業者って本当に多いよね! ラナ・デル・レイやケイティ・ペリーをはじめ、スカイラー・グレイにウルフ・アリスのエリー・ロウゼル、レディ・ガガもアヴリル・ラヴィーンもそう!」

鶴見「でも考えてみると、バンドとしてガービッジに強く影響されたような音を鳴らしている人たちって、意外と思い当たりませんね」

天空「まあ、エレクトロニックなビートにノイジーなギターを乗せたスタイルは、今も昔もさほど目新しくないでござるからな」

三崎「革新性をそこまで重視しなかったからこそ、逆にいつ聴いてもあまり古びた感じがしない、とも言えるよね」

天空「いままではビッグ・ビートやエレクトロニカなどを咀嚼したロック・サウンドだと認識していたでござるが、改めて聴くと結構ニューウェイヴっぽいでござるね」

三崎「確かに! 〈ニュー・オーダー化したプリテンダーズ〉って感じ?」

鶴見「今回のリイシュー盤にもシーズやビッグ・スターら先輩バンドのカヴァーが追加されている通り、ガービッジは過去の音楽に対するリスペクトを常に内包してきたグループだと思います」

天空「ニューウェイヴ・リヴァイヴァル的な動きは2000年代に入って盛り上がるわけで、90年代後半は80s風のサウンドがまだ軽視されていたフシもあるので、ある意味、彼らには先見の明があったのでござるな」

鶴見「こうして発表から20年後に聴くと、新たな発見や気付きもあって勉強になりますね」

三崎「うんうん。〈第1回ロッ研ガールズ・ミーティング〉としては上々の成果かな。じゃあ、そろそろパンケーキでも食べに行こうか?」

天空「牛丼ならば付き合うでござる」

鶴見「私は会合の議事録を作成するのでお構いなく」

三崎「……」

 ハナが憧れる女子会には程遠いようですが、何しろロッ研の部員たちですからね。ゆめゆめお忘れなく。 【つづく】