季節は巡り、新学期の喧騒も少し落ち着きはじめたある爽やかな午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。今年も無事に新入生が加わったようですよ。
【今月のレポート盤】

八丁光夫「どないでっか、先輩? これには驚く以外ないんちゃいますか?」
穴守朔太郎「ああ、こりゃ、ぶったまげるしかねえべよ」
八丁「級長はどや? あ、俺にもコーヒーもらえんかな?」
鶴見智奈子「コーヒーは入れてあげるけど、その〈級長〉って呼び方はやめてよね!」
八丁「ええやん。鶴見ちゃんは優等生タイプやし、級長って感じやわ。イヒヒ」
鶴見「もう! っていうか、八丁君の言っていることがもし本当なら、このキャンディ・オペラってネオアコ・バンドは確かに凄いかも!」
八丁「嘘ちゃうで。いま聴いとる『45 Revolutions Per Minute』は、正真正銘、80年代のリヴァプールで活動していたバンドの未発表音源集や」
穴守「オイラもネオアコにはそこそこ詳しいと思っていたけんど、キャンディ・オペラなんて名前は一度も耳にしたことがねえぞ」
八丁「まあまあ、それも当然ですわ。何せ彼らはオフィシャル音源を一切リリースせず、当時ですらあまり知られていなかったようでっせ」
鶴見「それにしては楽曲のクォリティーが高すぎない? フォークやジャズ、ラテン・ミュージックの要素を取り込んだ音楽性と、青春真っ盛りの熱さを孕んだヴォーカルは、ペイル・ファウンテンズやアズテック・カメラ直系だよね」
穴守「あとよ、煌びやかなプロダクションや時折入る女性ヴォーカルが、モロに初期のプリファブ・スプラウトみたいだんべえ」
八丁「仄かに漂うソウル・テイストは、スタイル・カウンシルやフレンズ・アゲインにも通じまっせ」
鶴見「ネオアコの良い部分だけをギュッと詰めたこの感じ、どう聴いても先達の影響を巧みに消化した最近のグループとしか思えない!」
八丁「級長も疑い深いやっちゃな~。彼らの結成は82年で、初めてのギグには地元の身近な先輩であるペイル・ファウンテンズも顔を出していたそうやで。その頃に制作されたデモテープはいまやコレクターズ・アイテム化しているんだわ」
穴守「ライナーにはポーグスやゴー・ビトウィーンズと共演したり、NMEでも紹介されたって書いてあるんべえ」
鶴見「その解説によると、以降も活動休止期間を挿んだり、メンバー・チェンジを繰り返したりと紆余曲折がありつつ、90年前後にファームのリヴァプール公演の前座を務めたことで表舞台に浮上した……ですって」
穴守「ファームと言えば、マッドチェスター人気の立役者だんべ。キャンディ・オペラにもマンチェ・ビートっぽい曲が少しあるけんど、それは時代の流れなんだんべえなあ」
八丁「同じ頃にEMIやゴー!ディスクから契約のオファーを受けるも、断ったらしいでっせ」
鶴見「何だかもったいないね……」
八丁「せやな。その後もグループ名をウェイリング・ソウルズに変えて細々と演奏していたようやけど、93年に活動の終止符を打ってしまったんや」
鶴見「なるほどね。過去に埋もれていたバンドなのはわかったけど、だとしたらやっぱり凄いことだと思う」
穴守「プリファブやアズテック・カメラにここまで肉薄したサウンドを、ほぼリアルタイムで鳴らしていたにもかかわらず、まるで無名だったんだもんなあ。大袈裟でも何でもなく、定説のネオアコ/ギター・ポップ史を覆すくらいインパクトのある発掘音源集じゃねえべか?」
鶴見「80年代のネオアコ周辺のバンドはもう掘り尽くされたと思っていましたが、まだこんな人たちが〈発見〉されるなんて胸が躍ります!」
八丁「ホンマにそうやわ。というわけで、穴守先輩と級長からは〈素敵な音楽紹介料〉を徴収したいんやけど、友達割引で500円にしときまっせ。えっ? 何でそんな白い目で見るん?」
タイプの異なる2人の新1年生が加入したことで、ロッ研にも新しい風が吹いてきたようですね。今期も楽しくなりそうです。 【つづく】
キャンディ・オペラの『45 Revolutions Per Minute』と並べて聴きたい作品たち

言わずと知れたネオアコの先駆者だいな。ポストカード・レーベルからのシングル群と、83年リリースのこのデビュー・アルバムで彼らが提示した鮮烈なギター・ポップ・サウンドは、活動をスタートしたばかりのキャンディ・オペラにとって大きな指標になったのは間違いねえべ。 *穴守

50周年を記念してデラックス版も登場したばかりの、US西海岸のフォーキー・サイケ名盤。ペイル・ファウンテンズが本作に心酔していたのは有名やけど、キャンディ・オペラの連中も大好きだったらしいわ。確かに一部で聴けるギターのアルペジオや軽快なトランペットは、〈元祖ネオアコ〉と呼びたいものやで。 *八丁
エレキをアコギに持ち替えたことで、いままでになくオーガニックなサウンドが新鮮な最新作。表題の由来はフリッパーズ・ギターの曲タイトル? それとも先ほど八丁君が会話中に名前を出していたグラスゴーのグループ? キャンディ・オペラと並べて聴きたい等身大のアコースティック・ポップ盤です。 *鶴見

非ロック的な志向をはじめ、わりかし共通点の多いネオアコと80年代のUKブルーアイド・ソウル。キャンディ・オペラの曲には後者の代表格であるスタイル・カウンシルからの影響も少なからず感じまっせ。それに実直さや熱さといったアティチュードも似てますやん。まるで俺みたいやな。 *八丁

プリファブ・スプラウトの遺伝子を感じさせるバンドと言えば、ヴァイオレンスやリアル・エステイト、さらにペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートの元メンバーによるこのユニットが思い浮かぶんべえ。でも80年代にはほとんどいねえから、やっぱキャンディ・オペラは特異だいな。 *穴守
部室に置かれたキャンパス・ノートを覗き見しちゃいましょう!

キャンディ・オペラは今日の帰りに必ず入手しようと思っているんさあ。けんど、その前に最近ゲットしたオススメのCDを報告しておくんべえ。まずは何と言っても2枚組仕様で登場したザ・フーの未発表ライヴ・アルバム『Live At The Fillmore East 1968』(Universal/ユニバーサル)! ライヴ・バンドとしての世評を一気に高めた伝説の公演の実録盤で、33分にも及ぶ“My Generation”ほか、ハード・ロック前夜を思わせるラウド&ダイナミックな演奏には鳥肌が立ちっぱなしだいな。当時の音響責任者=ボブ・プリデンのミキシングによって迫力のあるサウンドが完全再現された、全ロック・ファン垂涎のお宝音源だんべ!

お次はザ・フーと同様に黒くワイルドなブリテッシュ・ビートをブチかましていたプリティ・シングスの『The Pretty Things』(Fontana/Madfish/MSI)。65年発表のこのデビュー作が、ボートラを追加して久々にリイシューされたんさあ。流石はリバティーンズやカサビアンにも影響を与えたガレージ・パンク古典、チンピラ臭の漂う徹頭徹尾ナスティーな楽曲群にはチビる以外ねえべよ!

……と、英国モノが続いたけんど、米国だって負けてねえぞ。不屈のロッキン・バンド、NRBQが69年に放った初作『NRBQ』(Columbia/ADA)だべ! エディ・コクランからサン・ラまでカヴァーしちまう雑多なセンスと、とことんゴキゲンにロールするNRBQ精神がすでに全開なんさ。いままでCD化されなかったのが不思議なくらいの名作だんべ!

そして最後はTVドラマ「パートリッジ・ファミリー」でも知られるデヴィッド・キャシディが、人気絶頂の72年に投下した処女作『Cherish』(Bell/Arista/ソニー)。アソシエイション“Cherish”のカヴァーをはじめ、70sアメリカン・ポップスならではの眩しい音がたっぷり詰まった好作なんさあ。よりロック色を強めた同年リリースの2作目『Rock Me Baby』も同時にお目見えしたんで、これは併せて聴くのが筋ってもんだんべ。 *穴守朔太郎
