季節は巡り、新学期の喧騒も少し落ち着きはじめたある爽やかな午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。今年も無事に新入生が加わったようですよ。

【今月のレポート盤】

CANDY OPERA 45 Revolutions Per Minute Firestation/BAD FEELING(2018)

 

八丁光夫「どないでっか、先輩? これには驚く以外ないんちゃいますか?」

穴守朔太郎「ああ、こりゃ、ぶったまげるしかねえべよ」

八丁「級長はどや? あ、俺にもコーヒーもらえんかな?」

鶴見智奈子「コーヒーは入れてあげるけど、その〈級長〉って呼び方はやめてよね!」

八丁「ええやん。鶴見ちゃんは優等生タイプやし、級長って感じやわ。イヒヒ」

鶴見「もう! っていうか、八丁君の言っていることがもし本当なら、このキャンディ・オペラってネオアコ・バンドは確かに凄いかも!」

八丁「嘘ちゃうで。いま聴いとる『45 Revolutions Per Minute』は、正真正銘、80年代のリヴァプールで活動していたバンドの未発表音源集や」

穴守「オイラもネオアコにはそこそこ詳しいと思っていたけんど、キャンディ・オペラなんて名前は一度も耳にしたことがねえぞ」

八丁「まあまあ、それも当然ですわ。何せ彼らはオフィシャル音源を一切リリースせず、当時ですらあまり知られていなかったようでっせ」

鶴見「それにしては楽曲のクォリティーが高すぎない? フォークやジャズ、ラテン・ミュージックの要素を取り込んだ音楽性と、青春真っ盛りの熱さを孕んだヴォーカルは、ペイル・ファウンテンズやアズテック・カメラ直系だよね」

穴守「あとよ、煌びやかなプロダクションや時折入る女性ヴォーカルが、モロに初期のプリファブ・スプラウトみたいだんべえ」

八丁「仄かに漂うソウル・テイストは、スタイル・カウンシルやフレンズ・アゲインにも通じまっせ」

鶴見「ネオアコの良い部分だけをギュッと詰めたこの感じ、どう聴いても先達の影響を巧みに消化した最近のグループとしか思えない!」

八丁「級長も疑い深いやっちゃな~。彼らの結成は82年で、初めてのギグには地元の身近な先輩であるペイル・ファウンテンズも顔を出していたそうやで。その頃に制作されたデモテープはいまやコレクターズ・アイテム化しているんだわ」

穴守「ライナーにはポーグスやゴー・ビトウィーンズと共演したり、NMEでも紹介されたって書いてあるんべえ」

鶴見「その解説によると、以降も活動休止期間を挿んだり、メンバー・チェンジを繰り返したりと紆余曲折がありつつ、90年前後にファームのリヴァプール公演の前座を務めたことで表舞台に浮上した……ですって」

穴守「ファームと言えば、マッドチェスター人気の立役者だんべ。キャンディ・オペラにもマンチェ・ビートっぽい曲が少しあるけんど、それは時代の流れなんだんべえなあ」

八丁「同じ頃にEMIやゴー!ディスクから契約のオファーを受けるも、断ったらしいでっせ」

鶴見「何だかもったいないね……」

八丁「せやな。その後もグループ名をウェイリング・ソウルズに変えて細々と演奏していたようやけど、93年に活動の終止符を打ってしまったんや」

鶴見「なるほどね。過去に埋もれていたバンドなのはわかったけど、だとしたらやっぱり凄いことだと思う」

穴守「プリファブやアズテック・カメラにここまで肉薄したサウンドを、ほぼリアルタイムで鳴らしていたにもかかわらず、まるで無名だったんだもんなあ。大袈裟でも何でもなく、定説のネオアコ/ギター・ポップ史を覆すくらいインパクトのある発掘音源集じゃねえべか?」

鶴見「80年代のネオアコ周辺のバンドはもう掘り尽くされたと思っていましたが、まだこんな人たちが〈発見〉されるなんて胸が躍ります!」

八丁「ホンマにそうやわ。というわけで、穴守先輩と級長からは〈素敵な音楽紹介料〉を徴収したいんやけど、友達割引で500円にしときまっせ。えっ? 何でそんな白い目で見るん?」

 タイプの異なる2人の新1年生が加入したことで、ロッ研にも新しい風が吹いてきたようですね。今期も楽しくなりそうです。 【つづく】