4歳の頃からお互いを知るロサ・ウォルトンとジェニー・ホリングワースによってUKはノリッチで結成され、2016年のファースト・アルバム『I, Gemini』が早耳リスナーの間で噂になったレッツ・イート・グランマ。このたび彼女たちが2枚目のアルバム『I’m All Ears』を完成させた。
LET’S EAT GRANDMA 『I’m All Ears』 Transgressive/HOSTESS(2018)
デビュー時は17歳という若さにまず注目が集まったものだが、前作が本国を中心にジワジワとロング・ヒットを記録した最大の理由は、言うまでもなくアシッド・フォークを軸にゴス~ダークウェイヴ、サイケ・ロック、ドリーム・ポップなどが混然一体となった作品そのものの魅力にある。どの曲にも共通していたのは闇を求める独特の感性で、穏やかならぬユニット名も相まって、気付けば初期のジョアンナ・ニューサムやココロージー、もしくはバット・フォー・ラッシーズに連なる前衛ポップ系の気鋭アーティストと目されるまでに。もっとも、『I, Gemini』にはオリジナル曲を書きはじめて間もない13~14歳の頃に作ったナンバーも収録されていたため、無邪気な子どもの悪ふざけのような雰囲気があちらこちらで確認でき、良くも悪くも粗削りな点が目立った。
あれから2年、この『I’m All Ears』には19歳になり、大きく成長した彼女たちの姿が鮮明に刻まれている。今回2人はデヴィッド・レンチ(全曲のミックスも担当)をメイン・プロデューサーに迎え、PCミュージック周辺で活躍するクリエイターのソフィーやホラーズのファリス・バドワンも2曲を制作。サウンドの中心にシンセを据え、音楽面でのさらなる冒険を繰り広げ、目を見張るくらいの変化を遂げているのだ。
プログレみたいなオープニング・トラックを経て、シングル・カットされた2曲目“Hot Pink”はソフィーお得意のインダストリアルなノイズで始まる今様のアンビエントなR&B。続く3曲目“It’s Not Just Me”ではスペイシーな音飾とユニゾン・ヴォーカルで壮大なスケールを描き、そのままレンチが手掛けた4曲目“Falling Into Me”へとバトンを繋ぐ。アルバムの序盤からハイライトの連続である。
そして終盤には9分超えのバロック・フォーク“Cool & Collected”や、リチャード・ケリー監督のカルト映画と同名のタイトルにニヤリさせられる11分強のダークな80年代風エレポップ“Donnie Darko”が登場。ここに至るまでに、リスナーはすっかりレッツ・イート・グランマの残酷なファンタジー世界へと引き込まれているはずなので、こうした長尺曲も意外とスルスル聴けてしまうだろう。というか、僕自身、まんまと彼女たちの術中にはまった気がして、その構成力の妙には悔しささえ覚えたほど。
また、ヴォーカル・スキルの向上も特筆すべきで、ハーモニーが安定したのに加え、前作ではまだあどけなかった2人の歌声に華やかさや艶やかさも備わり、かねてから比較されてきたビョークにますます近付いている印象だ。そんなどこを切ってもレヴェルアップした『I’m All Ears』は、まるでホラーズの2作目『Primary Colours』(2009年)とXXのデビュー作『XX』(2009年)とロードの2作目『Melodrama』(2017年)の間のどこかに存在する一枚。持ち前の前衛性はそのままに、磨き抜かれたメロディーや凝ったプロダクションによってポップソングとしての魅力が倍増し、仄暗くもどこか外に開かれた空気が全編を覆っている。今夏には〈フジロック〉での初来日も決定。グリム童話から飛び出したような2人の音楽が、苗場のロケーションにもバッチリ映えることは間違いない。
PROFILE: レッツ・イート・グランマ
同じ幼稚園に通っていたロサ・ウォルトンとジェニー・ホリングワースから成る現在19歳のインディー・ポップ・デュオ。2013年にUKはノリッチで結成し、地元を中心にライヴ活動を展開。SNSにアップしたオリジナル曲が口コミで評判を呼び、キラン・レオナルドの目に留まったことで人気に火が点く。2016年にファースト・アルバム『I, Gemini』をリリースし、〈BBC Radio 1〉に出演したほか、NMEやPitchforkにも大きく取り上げられる。〈フジロック〉など大型フェスへの出演が決定してさらなる話題を集めるなか、6月29日に本国UKでセカンド・アルバム『I'm All Ears』(Transgressive/HOSTESS)を発表。7月18日にその日本盤がリリースされる。