田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週末、オアシスの伝説的な公演を取り上げたドキュメンタリー映画『オアシス:ネブワース1996』が全世界で公開されましたね! 僕のSNSのタイムライン上では、いちばん大きな話題です。そのわりに、世間はそこまで盛り上がってない気がするんですけど。おかしいですね」

天野龍太郎「そういうのをフィルターバブルって言うんですよ……。いい加減オアシスの話題は飽きたので、それ以外の音楽にも興味を持ってください! 個人的にアガったニュースは、フージーズの再結成と彼らが96年にリリースした金字塔『The Score』の25周年記念ツアーの発表です。9月22日のNY公演を皮切りに、パリやロンドン、ナイジェリアなどでも開催されるのだとか。すでに〈Global Citizen〉のYouTubeチャンネルに“Killing Me Softly”など5曲のライブ映像がアップされていて、感動しました」

田中「ぜひ来日公演も実現してほしいですね。わくわくしたニュースの一方で、この一週間は訃報が多かったです。キャバレー・ヴォルテールのリチャード・H・カーク(Richard H. Kirk)、デルタ5のジュルズ・セール(Julz Sale)、サックス奏者のピー・ウィー・エリス(Pee Wee Ellis)が立て続けに逝去しました

天野「特にリチャード・H・カークはインダストリアルやEBMの源流になった音楽家として、ここ日本でも多くのアーティストやライター、リスナーが追悼していましたね。キャバレー・ヴォルテールはもちろん、ソロ・アーティストとして最期まで攻めた作品を作りつづけた、信念の音楽家でした。冥福をお祈りします。では、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Ben LaMar Gay feat. Ohmme “Sometimes I Forget How Summer Looks On You”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はベン・ラマー・ゲイの新曲“Sometimes I Forget How Summer Looks On You”! この曲にはびっくりしましたね」

田中「ジャズを基調にしながら、R&Bやポストロックやプログレッシブロックなど、さままざな音楽要素を感じさせる、実にダイナミックな曲ですよね。ちなみに、ゲイは米シカゴ出身で、ブラジルへの移住経験があるシンガー/コンポーザー/マルチインストゥルメンタリスト。シカゴの新進ジャズレーベル、インターナショナル・アンセム(International Anthem)からリリースしたファーストアルバム『Downtown Castles Can Never Block The Sun』(2018年)が高く評価されました」

天野「今回の曲は、インターナショナル・アンセムとノンサッチのダブルネームで11月19日(金)にリリースされる新作『Open Arms To Open Us』からのリードシングルです。フィーチャリングされているオームは、同じくシカゴ出身の実験的なインディーロックデュオで、チャンス・ザ・ラッパーとの共演でも知られていますね。メンバーのシマ・カニングハム(Sima Cunningham)とメイシー・スチュアート(Macie Stewart)がヴォ―カリストとして参加しています」

田中「フリーキーでアグレッシブなドラムを叩いているのは、これまでもゲイの作品に参加してきたトマソ・モレッティ(Tommaso Moretti)。音圧がすさまじいシンセベースとヒプノティックな木琴は、ゲイが弾いているものだと思います。サイケデリックでありながら、終盤ではドゥーワップ調のサンプルが差し込まれるなど、とにかくバンドアンサンブルとアレンジが刺激的。アルバムにはルワンダ出身のドロテ・ムニャネザ、シカゴの注目すべき室内楽コンポーザーであるアヤナ・ウッズら、ユニークな面々が参加しています。『Open Arms To Open Us』、超期待のアルバムです!」

 

Let’s Eat Grandma “Hall Of Mirrors”

天野「2曲目に紹介するのは、レッツ・イート・グランマの“Hall Of Mirrors”です。ブレイクするきっかけになったセカンドアルバム『I’m All Ears』(2018年)以来の新曲ということで、注目されていますね」

田中「改めて紹介すると、レッツ・イート・グランマは英ノリッジ出身のデュオで、エクスペリメンタルなエレクトロニックサウンドとポップなメロディーが特徴です。メンバーはローザ・ウォルトン(Rosa Walton)とジェニー・ホーリングワース(Jenny Hollingworth)。トランスグレッシヴ(Transgressive)から『I’m All Ears』をリリースした2018年に初来日して、〈フジロック〉に出演したことも話題になりました。それ以降、タイ・シャニのパフォーマンス・アートに提供した『Soundtrack to Dark Continent: SEMIRAMIS』(2019年)やウォルトンが担当した2曲のリミックスがリリースされていたのですが、新曲としては3年ぶりになります」

天野「この“Hall Of Mirrors”は、エッジーでアヴァンギャルドだった部分がいい意味でソフトになっていますよね。前作をリリースしたとき、2人はまだ19歳だったので、いまは22歳。丸くなった、ということなのでしょうか。でも、もともと持っていた強みであるポップさが増して、キラキラしたエレクトロポップになっているのが一皮むけた感じがしてよかったです」

田中「ウォルトンはこの曲について、『夜の遊園地を舞台に、私が強い思いを抱いている女性と一緒にいるときのめまい、強烈さ、興奮を表現したかった。鏡の間(hall of mirrors)は、私が命を吹き込んでいる自分自身の一部を発見し、探求することのメタファー』と語っています。ミュージックビデオは、まさにそれを表していますね。レッツ・イート・グランマからニューアルバムが届けられる日は、そう遠くはなさそうです!」

 

Dijon “Many Times”

天野「3曲目はLAを拠点にするシンガーソングライター、ディジョンの“Many Times”。彼は、2017年頃からベッドルームポップの注目アーティストとして、特に若い世代のリスナーから支持を集めてきました。ソウルフルで滋味深い歌声とメランコリックなサウンドが持ち味なのですが、これまでの彼の作風とちがうこの新曲はすごく新鮮です」

田中「アップテンポで激しいサウンドになっていますよね。ドラムの音数が多いことに加えて、パーカッションが効果的に使われていて、ハネたビートが印象的です。ギターやベースのフレーズを含めて、これまででもっともインディー・ロックっぽい曲と言えそう。詳細はまだ発表されていませんが、“Many Times”は彼の待望のファーストアルバムに収録されるそうです。この音楽性の変化は、なかなか興味深い展開!」