祝・髭ちゃん15周年! 2003年、ミニ・アルバム『LOVE LOVE LOVE』でインディーズ・デビュー以降、時期によってその編成を変えながらも、常に日本のロック・シーンで唯一無二の存在感を発揮し続け、Yogee New Wavesや夜の本気ダンスといった後続にも影響を与え続ける髭。ブログ〈髭の“黒ひげMikiki一髪”〉も好評のMikikiでは、2つの濃密なインタヴューで、ロックンロールに囚われた囚人たちの〈今〉と〈歴史〉を徹底的に掘り下げ、彼らの功績を改めて振り返る。
今回の第一弾では、宮川トモユキ(ベース)、斉藤祐樹(ギター)、佐藤“コテイスイ”康一(パーカッション/ドラムス)の3人を迎え、ニュー・アルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を肴に、〈今〉の髭を語り合うインタヴューを実施した。〈15周年〉を意識して、〈15=イチゴ〉からタイトルが冠された『STRAWBERRY ANNIVERSARY』は、〈これぞ髭!〉という要素が凝縮された会心の仕上がり。ビートルズの普遍的なポップ・センスとサイケデリア、ニルヴァーナのラウドなサウンド、UNICORNのユーモアといったルーツの部分はそのままに、それをあくまで現在進行形のバンドとして鳴らした、非常に瑞々しい作品なのである。
髭でメインの作詞・作曲を担当するのはフロントマンの須藤寿(ヴォーカル/ギター)だが、もう一人のソングライターである斉藤と、長年リズムの土台を支えてきた宮川・コテイスイとともに、この記念碑的な一枚を解剖することは、改めてバンドの核をあぶり出す作業になったと言えよう。結果的に、ある種の〈異物〉として2000年代初頭の日本に登場した髭が、実際にはロックの王道を今に受け継ぐ稀有な存在であることを裏付ける、貴重な機会になったように思う。
15年目の新作は、もともと持ってる〈髭らしさ〉にフォーカス
――『STRAWBERRY ANNIVERSARY』は〈15周年のアルバムを作ろう〉というコンセプトで作られたそうですね。
斉藤祐樹「最初に作ったのは“a fact of life”あたりかな?」
宮川トモユキ「『すげーすげー』(2017年)のツアー・ファイナルでやったもんね。最初にレコーディングしたのは“得意な顔”だった」
斉藤「その頃はまだ〈15周年のアルバム〉っていうのは見えてなかったけど、曲を揃えていく中で、改めて〈どういうサウンドがいいんだろう?〉〈どういう曲がいいんだろう?〉って考えて、そこから〈15周年〉っていうのが見えてきた感じ」
――作品性とか音楽性に関しての方向性のようなものはあったのでしょうか?
宮川「『すげーすげー』の前くらいから、〈もうちょっと髭らしい曲にしていきたい〉みたいな話はちょっとずつしてて」
――その前の『ねむらない』(2015年)が、ちょっと宅録感のある、髭のディスコグラフィーの中ではやや異色な作品でしたもんね。
宮川「あれも髭の中にもともとあった音ではあるんですけど、もうちょっとギター・サウンド寄りっていうか、オルタナっぽいっていうか、そっちが髭なんじゃないかって思ってて、そういう話はよくしてたよね」
斉藤「宮川くんは普段そんなにバーッてしゃべるタイプじゃないんだけど、制作になると、宮川くんがシンプルにスパッと言ったことが刺さるときがよくあって。俺は〈そのときおもしろいものでいいか〉みたいなところもあるんだけど、宮川くんに言われて、〈そうだよな〉って思わされることがよくある。
で、『すげーすげー』で〈戻ってきた〉っていうのもまた違うんですけど、バコーンって鳴らす感じとか、抜けの良さとか、〈髭ってこうだよな〉って実際に思えたので、そこからのこの15周年のアルバムっていうのが大きいかなって。〈何か新しいことをやろう〉というよりは、『すげーすげー』でいいなって思えた部分をさらにアップデートして、個人のやりたいことをフィードバックしていくっていう」
――そこから“a fact of life”や“得意な顔”以降の曲が出来ていったと。
斉藤「“エビバデハピ エビバデハピ”とかも最初のほうに出来てて、そういうややストレンジな曲も大好きなんだけど、この感じで揃えたらすげえ15周年アルバムになるなって(笑)。それならそれで成立させられるとは思うけど、それが今の髭が一番やりたいことかっていうと、それはそれで違う気がして、宮川くんが言った〈もともと持ってる髭らしさ〉みたいな部分にフォーカスしていきました」
髭のレシピ
――その〈髭らしさ〉を改めて考えてみたいなって思うんですけど、例えば、髭のレシピがあったとして、〈このアーティストからの影響は外せない〉っていうのを挙げるとしたら、どんな名前が挙がりますか?
佐藤“コテイスイ”康一「今の質問からはいきなり外れちゃうかもしれないけど、僕個人的に“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”がすっごい好きで。髭ってジャンルがあるとしたら、あの曲に髭のすべてが詰まってる気がして、みんなでそこに行こうとしてる気がする。あの曲を目指してるわけじゃないけど、あの雰囲気というか世界観みたいなところに行ければオッケーっていうか。楽しい感じ、ちょっとオルタナっぽい感じ、踊れる感じ、ハッピーな感じ……ライヴも含めて、そのへんで作られてきた感じがする」
斉藤「コテさん、熱いね。コテさんとバンドやっててよかったなって今思った(笑)。でも、ホントそうだと思うよ。子供でもパッと聴いて鼻歌で歌えるようなどシンプルでキャッチーなメロディーと、独特の須藤の歌詞があって、それをちょっとやかましく鳴らしたり、ときおりすごい外してみたりっていうのが髭なのかなって」
――その背景にあるアーティスト名となると、いかがでしょう?
斉藤「ニルヴァーナとかはもちろん血肉になってると思う。今回のアルバムの曲が揃ってきて、最終的に(吉田)仁さんにミックスのリクエストをするときに、俺が引き合いに出したのが『In Utero』の、2013年にスティーヴ・アルビニ自身がミックスし直したやつ。
須藤と2人で作業してるときにたまたま聴いて、〈これ超音いいじゃん〉って話になって、仁さんに〈『In Utero』もう一回聴いてもらっていいですか?〉って言って(笑)。主にドラムの、ボトムの鳴り方だったり、ギターもささくれ立ってるんだけど、でも決して耳に不快じゃない感じとか、いい感じにフィードバックしてくれました。当時影響を受けたニルヴァーナが、何年かぶりにまた戻ってきた感じがあって、繋がってるんだなって」
――やはり、90年代のアメリカのオルタナっていうのはひとつの大きな背景ですよね。
斉藤「僕はどっちかっていうとペイヴメントとか、ああいう佇まいも含めてクールが匂ってくる感じが好きだったかな。当時(2000年初頭)の下北沢はみんなレディオヘッドみたいだったんですよ。陰鬱な顔して、下向いて。〈馬鹿かお前ら〉って言いながら、俺らも最初はちょっとだけ意識してたけど(笑)」
コテイスイ「俺はもともと別のバンドをやっているときに髭と対バンで知り合って※、そのときにはすでにいろんな音楽を聴いてるつもりだったけど、〈なんだこのバンド、見たことない〉って、びっくりしたんですよ。何に影響を受けてるとかそういうことじゃなくて、〈こんなバンド日本にいるんだ〉って、とにかく衝撃的で。あと出会ったのが三軒茶屋だったのも〈やべえ〉って思った」
※コテイスイはサポートを経て2007年頃に正式加入
宮川「ヘヴンズ(三軒茶屋HEAVEN’S DOOR)は出てるバンドみんなすごかったね」
斉藤「東京のオルタナ・シーンで、当時ヘヴンズに敵うハコは他になかったと思います。とんでもないバンドばっかり出てた。別に下北に対してどうこうっていうのはないけど、当時〈合わないな〉って思った時期があって、辿り着いたのがたまたまヘヴンズだったんですよ。そしたら、すごい店長が出てきて、ノルマがないのも新鮮で、〈ここだ!〉って思って出はじめたら、ハードコアな連中ばっかり(笑)。でも、俺たちまだまだぬるいなって、ミュージシャンとして、ある意味正解を見せられたような感じもありましたね」
――宮川さんは、髭のレシピに外せない名前は誰だと思いますか?
宮川「根幹にはやっぱりUNICORNがあると思ってて。髭っていうか、須藤の中にUNICORNがずっと根付いてるんですよね。そこからいろんな音楽を知っていって、今に至ってるんだと思う。“エビバデハピ エビバデハピ”とかも、俺的にはちょっとUNICORNっぽいんだよね。〈あ、わかるわかる〉みたいな」
斉藤「へー、新鮮!」
――宮川さんは、須藤さんとは中学校からの同級生ですもんね。
宮川「そうですね。最初に一緒にバンドを組んで、UNICORNのコピーから始まってるんで、そんな感じはします」
〈微妙に遅い〉テンポ
――〈髭らしさ〉を語る上では、グルーヴも大きなポイントだと思います。決して速過ぎない、髭らしいBPMっていうのがあると思うんですけど、そのあたりはいかがでしょうか?
宮川「今回は意識的にテンポを上げた曲もあるんですよ。ライヴでも音源と同じ感じでやりたいなって思ったのと、最近の周りのバンドみんな結構速いなって思って、もう少し上げてもいいんじゃないかなと。“KISS KISS My Lips”とかは速いし、『すげーすげー』だと“ユーは13?14?”とかも速い。でも、“エビバデハピ エビバデハピ”とか“アップデートの嵐だよ!”、“ヘイトスピーチ”とかは髭らしいテンポだなって」
――130くらいの感じですかね。
斉藤「俺たちテンポ的にもいなたい方向に行くよね。曲調としてはアッパーなんですけど、テンポで持ってかない感じ。でもそれって演奏する上では結構難しいなって、今さらながら思う(笑)」
宮川「周りはみんな結構がっつり速いから、このテンポ感って結構珍しいと思う。〈微妙に遅い〉っていうか」
コテイスイ「〈歯を食いしばる〉みたいなね」
宮川「でもホント、それが髭だなって思うんですけどね」
斉藤「ストーンズで言うと、“Jumpin' Jack Flash”のオリジナル音源みたいな、8ビートなんだけど、〈おっせえなあ〉っていう、あのギリギリの遅さあるじゃない? あれにロックの不良性を感じたりして、ストゥージーズのダラダラやってる曲とかも、たまりすぎてて、独特に遅いっていうか」
コテイスイ「イメージは速いんだよね。でも、聴くと遅い。ストラングラーズとかもそう」
斉藤「俺、個人的にスポーティーな感じをロックだとは思えないところがあって」
コテイスイ「俺もそうなんだよね。そこはみんな共通してるんじゃない? で、やっぱり〈Thank you, Beatles※〉ってことなんだよ!」
※2005年の髭のメジャー・デビュー作のタイトル
斉藤「上手いこと言ったのかな(笑)? もちろん、決して〈古いものがいい〉って言いたいわけじゃなくて、新しいものでもそういうノリを持ってる人はいると思うし、ホワイト・ストライプスとか……そんなに新しくないけど(笑)、ああいう独特にたまってる感じの方が、ロック的なダイナミズムを感じるっていうか。とことん速いことで勝負するハードコアもあれはあれでロックだと思うけど、俺たちはどっちかっていうと、ストーンズの持ってるいなたさみたいなところにずっと惹かれてるのかなって」
――そこが核にあった上で、新作では意図的にテンポを上げた部分もあると。
コテイスイ「でも、曲を作ってるときは〈BPM速めでやろうよ〉って言うんだけど、結局ちょっとずつ下がって、いつもの感じになるのが不思議だなって思う」
斉藤「“KISS KISS My Lips”とかは、バンドでジャムった時点でわりとアッパーだったじゃない? そういうときは〈もうちょっと上げてみよう〉とかなるけど、“ヘイトスピーチ”とか、もともとが〈ちょっと重い8ビートに、いい曲〉みたいな発想からスタートする曲が多いんじゃないかな」
宮川「そうだね。今回も結局速いのは“KISS KISS My Lips”と、“Play Limbo”がいつもよりちょっと速いくらいか」
斉藤「“Play Limbo”はAとB(メロ)で全然テンポが違って、そういう狙いで作ったから、だったらAがもっと速い方がおもしろいかなって」
コテイスイ「でも、そんなに速くはないよね」
宮川「今までよりはちょっと速いけど、やっぱりちょっと弾きづらいテンポなんですよ(笑)」
――アッパーなんだけど、ちょっと変化球な“Play Limbo”でアルバムが始まって、〈これぞ髭!〉な感じの“アップデートの嵐だよ!”に繋がるのもいいですよね。この曲はそれこそ、“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”のアップデート版のような印象もあるし。
斉藤「この歌詞が来たときは、〈らしいなあ〉って思った。“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”もそうだし、“テキーラ!テキーラ!”とか“それではみなさん良い旅を!”とか、〈!〉のシリーズあるよね。今作では“スライムクエスト”とかも歌詞ほとんど意味わかんないですけど、でもらしいなって(笑)」
アップデート まただよ ベイベー
ダウングレード 任せたよ シルブプレ
アプリでロックしちゃう ジミさん
マイク ハウちゃって ピーピーガー!
ノイズは真っ赤っかで オーバーサイズ
フリーズ Oh..シャットダウン 南無三
イカれるサウンド
寝ぼけた その目を覚ませ (“アップデートの嵐だよ!”歌詞一部抜粋)
――グルーヴのことをもう少し話すと、ドラムスの(佐藤)謙介くん※のサポート加入がバンドにもたらしたものはどんな部分だと言えますか?
※元・踊ってばかりの国、現在はパスピエや井乃頭蓄音団、paioniaなどもサポート
宮川「あいつは結構こっちに寄ってくれるというか、最初の頃は〈もっとこういうノリで〉って結構言いましたね。この前飲んだときに、〈当時は死ねって思ってました〉って言われましたけど(笑)」
斉藤「ひさしぶりに酔った勢いで腹割って話したんですけど、ボロクソ言ってましたね。〈あんたら言いたいことばっかり言って〉って(笑)。でも、あいつはホントすごいなって思います。まだ学生のときに髭を初めて聴いて、ライヴも何回か観にきてくれてたらしいんですけど、そこから急に〈ちょっとやってくれ〉って言われて、今となってはリズムを支えてるわけですからね」
宮川「言ったら、ちゃんとやってくれるのがすごいなって。フィリポ※のノリ、康一くん(コテイスイ)のノリをちゃんと汲んでやってくれてるところもあると思うし。“ダーティーな世界(Put your head)”(『Thank you, Beatles』)のノリとかって、結構難しいじゃん?」
※元メンバーの川崎"フィリポ"裕利(ドラムス/パーカッション)。2014年2月28日の東京・下北沢SHELTER公演で脱退
コテイスイ「うん、難しいね」
宮川「謙介くらいの若さだと、あんまりやらないリズムなんじゃないかなって」
斉藤「わかりやすく言えば、急に〈大谷翔平みたいに投げられる?〉って言うようなもんですよ。〈ジョン・ボーナムとか、デイヴ・グロールみたいにやってほしい〉って言われても、できたらやってるわって話で(笑)。でも、そんな無茶なことを言ってるんだけど、返そうとしてくれるし、実際少しずつ返してくれてるから、それは今の髭にとってかなり大きいなって思います」
須藤寿のメロディーは〈ロマンチック〉が根底にある
――〈髭らしさ〉に関して、須藤さんのメロディー・メイカーとしての魅力という部分も改めて話せればと思います。
斉藤「今回で言うと、“きみの世界に花束を”が出来たときは、〈そうだよな〉って思いました。これはいい曲だなって」
コテイスイ「やっぱ、こういうのを歌わせたらね。俺、“魔法の部屋”(2011年『それではみなさん良い旅を!』)とかもすごい好き」
斉藤「基本的に〈ロマンチック〉っていうのが根底にあるよね。これは今となっては笑い話だけど、“せってん”(2006年『PEANUTS FOREVER』)とか“君のあふれる音”(『I Love Rock n' Roll』)とかって、曲がよすぎて演奏するのをやめてた時期もあったんですよ。
“首謀者に告ぐ”とか“白い薔薇が白い薔薇であるように”(共に『Thank you, Beatles』)とかちょっとダークな曲をやってるのに、これは曲がよすぎるって、お蔵入りしてたんです。いい曲だから、〈今やったらいい感じになるね〉って、結局何年後かにハマってきたんだけど。まあ、メロディーのディテールに関しては、須藤はずっとこだわってやってますよ」
コテイスイ「メジャーで泣かせようとしたりね」
斉藤「おおっぴらに〈これは泣ける曲です〉みたいなのはあんまりないよね。そういうことに関してはいつもすごく時間をかけてるんで、もともとそっちの人なんでしょうね。もちろんアレンジメントも楽しくやってるけど、メロディーとか歌詞に関しては、〈あとちょっと〉ってところをずっとやってる。でもそれをやるかやらないかが、“きみの世界に花束を”みたいな曲になるかならないかの差なんじゃないかな。“青空”(2010年作『サンシャイン』)とかもそうだと思う」
――根っからのソングライターであり、作り込む部分は徹底的に作り込んでいると。
斉藤「これはみんなに共通してると思うんだけど、〈ただ作る〉っていうのは絶対できないんですよ。ちょっとでも〈おもしろくねえな〉って思ったら、やめちゃうんです。そういう意味では、音楽家としてプロフェッショナルなのかどうかはわかんないときもあるんですけど、それでもこうやって作り続けられてるんで、まだ大丈夫なのかなって(笑)」
――今回のアルバムで、斉藤さんが書いた曲は何曲ありますか?
斉藤「“アップデートの嵐だよ!”と“スライムクエスト”は俺が書いて、“Play Limbo”と“STRAWBERRY ANNIVERSARY”は共作。最後にかけて、アッパーというか、アルバムに欲しい雰囲気の曲を作った感じ。でも、最初はあんまり考えてなかったんですよ。〈15周年で、どういうのがいいんだろう?〉って、考えすぎると作れなくて、〈俺が好きなロック・アルバムって、こういう曲が欲しいよな〉って考えたら、気持ち的に簡単になって。それを出したら、〈いいじゃん、これやろうよ〉ってなって、バババっとできた感じ」
――結果的には、まさに〈髭らしさ〉を担ってる曲たちですよね。
斉藤「ちょうど作ってるときに、イギー・ポップの映画にヤラれたんですよ。〈止まってる場合じゃねえ、あいつ70歳だぞ。俺まだまだロックやれるじゃん〉って(笑)。彼の音楽にも改めて感銘を受けたというか、ラウドに鳴らして、シンプルな言葉を吐くってかっこいいなと改めて思って、イギー・ポップは今回個人的にかなり大きな影響源ですね。今の音楽聴けよって話かもしれないけど(笑)、今の音楽に足りないものを彼は新作(2016年作『Post Pop Depression』)でも出してたし、アンダーワールドと組んだやつも最高にかっこよかった。〈仲良くできそうなやつとはいつでも一緒にやるぜ〉ってスタンスもいいし、結果的に、彼が歌えばイギー・ポップになっちゃう。15周年っていうのもあってか、そういうのがビンビン来て」
――ロック・バンドの力が弱い時代だってことも言われがちですけど、それでもまだまだやれることがあると。
斉藤「結局、関係ないんですよね。誰も届かないところにいればいいだけっていうか、信じて疑わないやつって絶対強いから。俺もそういうつもりでステージに立ちはじめたわけで、それをそのままキープしたほうが絶対いいんじゃないかなって。まあでも、正直僕はダメなときはホントダメなんですけど(笑)」
宮川「そんなことないですよ。斉藤くんはあんまり腐んないんですよね。いつもポジティヴな人で、そこに髭は救われてると思いますよ。俺は完全にネガなんで」
コテイスイ「俺もネガだね、どっちかって言うと」
斉藤「でも、俺は俺で2人に救われてることすげえあるんですよ。髭ってややこしく見えるかもしれないですけど、バランスが絶妙っちゃ絶妙なんですよね。バンドの中でやりあってるときは、また違う空気ができるけど、サシで話してると特にそう思う。コテさんとは、去年大阪でのライヴの帰りに、チケットもないのに〈(ストーン・)ローゼズ来るんだし、行かない手はないよね〉って、その足で2人で武道館行ったり(笑)」
コテイスイ「音楽はいいよね。俺、結局好きな音楽変わらなくて、それがいいのか悪いのかはわからないけど」
斉藤「リスナーとしての愛情はコテさんが一番すごいと思う」
――以前取材をさせてもらったときに、〈昔ライドを観に海外まで行った〉っていう話を聞いたのを覚えてます。
コテイスイ「今でも常に〈NME〉とかで向こうのスケジュールをチェックしてます。〈3日後にニック・ケイヴやるんだ〉とか〈デペッシュ・モード、ドイツでやってる〉とか(笑)。で、もし行くとしたら、こういうスケジュールを組むなとか、そんなことばっかり考えてるんですよ。現実的には無理なんだけど」
――でも、それを妄想するのが楽しいんですよね。
宮川「俺も結局〈バンド楽しい〉ってなっちゃうんですよね。常に〈もう嫌だな〉って思ってるんですけど(笑)、でもバンドがなくなったらもっと嫌だなって思うし、結局やっちゃうんですよ。ベース弾くのも好きだし、ライヴも好きだし、もう離れられないなって……って言って、抜けちゃったりして(笑)」
斉藤「宮川くんって、こうやって昔から結構振り回すんですよ(笑)」
今の髭は100点超えの予感がしてる
――そうやって冗談を言える時点で、脱退はないと思います(笑)。では最後に、10月から始まるリリース・ツアーに向けて、一言ずついただけますか?
宮川「『STRAWBERRY ANNIVERSARY』は非常にライヴ映えするアルバムだと思うし、最近髭のライヴはどんどんいい感じになってるんで、とにかく音源を聴いて、足を運んでほしいです。それで〈ああ、やっぱり楽しいな〉って思ってほしいですね」
コテイスイ「楽しく、正直にやりたいです。〈今の自分はこう〉って、ステージもステージじゃないときも、そんなに変わらない自分を出せるようにできればいいんじゃないかなって。前はライヴだから〈よし、気合い入れよう!〉みたいに考えたりもしてたけど、そういうのは逆にあんまりよくないんじゃないかなって、最近特に思います」
斉藤「これはいつも変わらず思ってるんですけど、とにかくその空間の中で俺が一番楽しんでたいんですよね。他のメンバーを差し置いてでも(笑)」
コテイスイ「(ライヴ中に)すごい顔してるときあるもんね」
宮川「すごい顔してる人の後ろで、すごい普通の顔してる人(コテイスイ)がいる(笑)。この縦の並びはおもしろいですよ」
斉藤「あとは、来てくれたお客さんにちょっと先まで見せられるくらいの、〈この先もおもしろくなりそうだな〉って思ってもらえる地点まで飛べたらいいなって。よくないのが、80点のライヴがずっと続くようなときで、それだったらずっと20点のほうがまだいいと思うんですよ。〈すげえな、こいつら〉って(笑)。でも、今の髭はおそらく100点超えの予感がしてるんで、楽しみにしていてほしいです」
Live Information
〈STRAWBERRY ANNIVERSARY TOUR〉
10月20日(土)神奈川・横浜BAYSIS
10月27日(土)兵庫・神戸VARIT.
10月28日(日)京都・磔磔
11月3日(土・祝)宮城・仙台LIVE HOUSE enn 2nd
11月10日(土)北海道・札幌DUCE
11月15日(木)福岡CB
11月17日(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
11月18日(日)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
11月23日(金・祝)東京・恵比寿LIQUIDROOM