Imaginary Traveler
北欧から世界へ大きく羽ばたいたムーが4年ぶりの新作で日本デビュー! 独特の妖気を纏った歌と境界線の曖昧な音で描く夢の国は、彼女の輝かしいシンデレラ・ストーリーの新たな幕開けを彩る場所となるのか?

Forever Neverland Chess Club/RCA/ソニー(2018)

神秘的な統一感を備えた翳りのある歌世界

 恐ろしく無造作な言い方をすると、メジャー・レイザー×DJスネイク“Lean On”(2015年)を源泉に、そっち系のイマっぽさが条件反射的に感応されるようになっているここ数年。そこでヴォーカルを担当して一躍ワールドワイドに名を売ったのがデンマークのムーだ。チルなムーンバートンを基調に妖美な浮遊感を加えた同曲が爆発的にヒットした結果、マイルドなダンスホールやチル・トラップを転用した音作りの効能は恐ろしい勢いで一般化した。そうやってトレンドに寄与した彼女だけに、MNEKの手掛けたトロピカル・ハウス“Final Song”(2016年)、カシミア猫やソフィーらによる“Nights With You”(2017年)などの単発ヒットで方向性を探りつつも、自身のネクスト・ステップに慎重だったのもわからなくはない。

 そんなわけで実に4年ぶりとなった彼女のセカンド・アルバム『Forever Neverland』だが、初作『No Mythologies To Follow』(2014年)を誂えたヴィンダールは不在。代わって制作の核となったのは、ガラントの超名盤『Ology』(2016年)を筆頭にネイオやジェシー・ウェアらを手掛けてきたカナダのスティントだ。大半の楽曲にタッチした彼は、翳りの深い主役の歌唱を神秘的な薄暗さのある音像で包み、統一感のある音世界へ誘っている。カーティス・マッケンジーやスターゲイト&ハドソン・モホーク、フランク・デュークス、イランジェロら制作陣の幅を感じさせない鳴りを思えば、先述の先行シングルを排した意図は明白だろう(日本盤にはボートラ収録)。そんななかにニューウェイヴ歌謡の“Sun In Our Eyes”を提供したディプロの場慣れした場違い感も流石。魅力的に掠れた声の機能性という意味で一時のリアーナに近づいた感触もあって、延々と聴ける佳作だ。  *出嶌孝次

 

旬で溢れたネヴァーランド

 どこか浮世離れしていて、聖女のようにも妖女のようにも思える不思議なムードのハスキー・ヴォイスがフワフワ系のサウンドとマッチ。多くの人気クリエイターから愛され、現行シーンに確かな個性を光らせるデンマーク出身のムーが、4年ぶり2枚目のアルバム『Forever Neverland』でようやく日本デビューを飾りました。いろいろな速さの曲に自身の声が合うことを証明した前作『No Mythologies To Follow』に対し、ここで大半を占めるのは彼女がもっとも得意とするミディアムテンポのクラブ・トラック。レゲエやソカ、アフロ・ポップにトロピカル・ハウス……と多種多様なエレメンツを散りばめながら、地図上にはない夢のネヴァーランドを創造しています。馴染みのディプロやソフィーはもちろん、初顔合わせのホワット・ソー・ノット(フルームの元相棒!)やイランジェロ製のオケとの相性も期待通り素晴らしく、ほかにもエンプレス・オブやチャーリーXCXといった良きライヴァルたちとのコラボなどハイライトだらけ。なかでも、アッシャー“Love In This Club”の10年後を提示しているような“Blur”が個人的には一番グッときました。サウンドのおもしろさ、メロディーのキャッチーさ、そして歌の存在感――すべての面でパワーアップしていて、これまでの華々しいキャリアも本作の序章にすぎなかったと思えるほど。2018年のいま聴いてほしい旬の一枚です。 *山西絵美