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ポジティヴな部分も残酷な部分も含めての〈光〉

――今回のアルバムを『ALL THE LIGHT』と名付けた理由は?

田中「タイトルをつけるのはいつも最後で、いつも歌詞から引っ張ってくるんです。今回も最後に“すべてのありふれた光”という曲が入ってますし、聴き終えたあとにも〈光〉の印象と言いますか、比較的清々しいものが残るんじゃないかと思って。だから、このシンプルなタイトルも気持ちがいいんじゃないか、ということで付けました」

――アートワークもいいですよね。タイトルやアルバムの内容ともリンクしている感じがします。

田中「これを手がけたのは、前作から担当している半田淳也さんという方で。音を聴いてもらって、基本的にはお任せです。いつもそうです」

――出来上がったデザインを見て、どんな感想を抱きました?

亀井「いろんな模様に見えてくるのがおもしろいなって思いましたね。洞窟から外を眺めているようにも見えるし、微生物のようにも、深海の生き物のようにも見える。いろいろ想像できるジャケットだと思いますね」

田中「(今回は)アーティスト写真もモノクロだし、そういう統一感は出ている気がします。それをアルバムの曲と紐づけて、ストーリー的に捉えることはできると思うので。上手くいってるんじゃないですかね」

――ストーリー的ということで想像を膨らませると、このアートワークも光より闇の分量のほうが大きいじゃないですか。だから、いまの世の中をシリアスに捉えたうえで、そこに希望の灯を照らす……みたいなイメージもあったのかなとも思ったんですが。

田中「光が差し込んでほしい気持ちはありますが、(世の中に)闇が多いというふうには別に捉えてないですね。そこは人それぞれというか、その人次第じゃないかという気もしますし。ただ、アートワークに限って言うと、“すべてのありふれた光”の歌詞なんかも、多少ポジティヴな聞こえ方はするでしょうけど、結果的に外に出たのか、まだ出ていないのかわからないような歌詞の書き方をしてますので。例えば、このアートワークを洞窟の中から外を見た光と解釈するならば、まだ中にいるわけじゃないですか。そういう意味ではすごくいいんじゃないかと思います」

――田中さんがアルバムに寄せていたコメントも素敵ですよね。

聴いた人を幸せにしたいわけでもなければ、
勇気づけたいわけでもない。
重要なのは、音楽を聴いたすべての人が直面するであろう、或いはしているであろう、
現実という名の「光」なのだ。

――ただ正直に言うと、最初の二行はすぐに呑み込めたんですが、続く二行は〈なるほど!〉と〈どういうこと?〉が半々ずつという感じでした。〈現実という名の「光」〉というのは、どういったものを指すのでしょう?

田中「〈光〉という言葉を歌詞に用いるなら、一般的にはポジティヴに使う場合が多いと思うんですよね。〈希望の光〉みたいな。もちろん、それはそれでよしなんですけど、ある一方では影を濃くするとか、汚いものを白日のもとにさらけ出すと言いますか。僕なんかはそういう使い方もしがちだったりするので。だから、ポジティヴな部分も残酷な部分も含めての〈光〉というコメントにしました」

――“すべてのありふれた光”は歌詞を書くのに苦労されたそうで。

田中「メロディーの譜割が物理的に難しい曲なんですよ。あと、書きはじめたのがやさしいテーマでしたから、もう少し突っ込めるところまで突っ込もうと。普段なら寸止めするところを、もうちょっとそうせずに書けたらなというところで苦労しましたね」

――〈きみの味方なら/ここで待ってるよ〉という最後のフレーズがまさしくそうですよね。

田中「こういう書き方は普段なら恥ずかしくてしないですね。違う言い方でそう匂わせる程度に収めるところなんですけど」

――〈聴いた人を幸せにしたいわけでもなければ、勇気づけたいわけでもない〉のかもしれないですけど、このフレーズについては音楽に救われた経験のある人でないと出てこなさそうにも感じました。

田中「まあ、音楽にはつねづね感動してきましたし、何かしら救われてはきたんでしょうけど、〈音楽に救われたからいまの自分があるんです!〉みたいなインタヴューにだけは絶対したくないですね(笑)」

 

社会云々を変えたいとかじゃないけど
もうちょっと、楽しいなと思える人生であればいいんじゃない

――“God only knows”の歌詞には、〈上っ面の表現/走り出す暴言と/ご立派な正論と/非リアル〉〈そう 僕らは当然/基本的人権と/国家が守ってくれるでしょう〉とあります。この言葉はどこから生まれたものなんでしょう?

田中「まあ、世相を見てですけど(苦笑)。僕の癖として、何かに対して毒づいたり攻撃的な歌詞を書こうとしても、〈どのツラ下げてお前はそれを書いているんだ〉って視点が結局入ってくるので。お前もそういう社会の一部だよって自虐が入るというか。だから、何か特定の対象を攻撃するつもりはないですね。それよりは結果的に、自分と向き合った言葉なのかもしれないです」

――いまの日本に対して楽観的ですか? 悲観的ですか?

田中「うーん……。1〜10まであったら4くらいにつけるかな。なんとも言えない感じ。4だったら自分で変えられそうな気がする。別に、社会云々を変えたいとかじゃないですけど。もうちょっとこう、楽しいなと思える人生であればいいんじゃないですかね」

――“ミチバシリ”では〈時代は変わる/世代も違う/周りを見ればアーバンな荒地/敵さえ見当たらない〉と歌われていますよね。これは音楽シーンの現状について歌っているんですか?

田中「まあ、そういう皮肉のつもりでちょっとは書いていますけど……そこを(具体的に)言ってしまうのもどうかなと思いますけどね(苦笑)」

――〈敵さえ見当たらない〉の一言には、GRAPEVINEがシーンに対して抱く孤立感みたいなものも反映されているのかなと。

田中「孤立というほどの孤独感は感じてませんけど、考え方やスタンスとかは独自なのかなって気はしていますね。それはデビュー当時から感じていたことで。あんまりシーンとも関係ない気がしますし」

――GRAPEVINEの歩みを振り返ってみても、サウンドの変遷はあったにせよ、トレンドに媚びる瞬間は一度もなかった気がします。

田中「そういう特殊な立ち位置というかスタンスを、おそらく自分らで好んでやってきたのかもしれないし、それが肌に合っていたのかもしれないです」

――“Alright”には、〈いま大人になって/或いは親になってさ/何もかもが全部遠く感じてる〉〈誰も見てはくれないし/誰からも褒められない〉という一節がありますけど。

田中「いや、それは自分たちのことを歌っているというより、言うなら中年の悲哀ですよ。あの曲の歌詞は、世の中の主婦って大変なんだろうなって考えながら書いたものです」

――そういったモチーフの扱い方や、“Era”での〈あの頃の情熱と/変わらないとは言えないが/それはそれできっと悪くはないだろう〉という一節も含めて、『ALL THE LIGHT』は年齢を重ねることに対してポジティヴに向き合っている作品という印象も受けました。

田中「そうですね。年を取ることって悪くない気がしていますし、根本的には楽しんでいる方だと思います。音楽的にも年相応であるのが自然な気がしますし。あんまり変に若ぶってもみっともないだけなので(笑)」

――昔とは音楽との接し方も変わりましたか?

田中「この間、とある番組のために選曲をする機会があったので長年聴いてなかった曲をいろいろ聴き返してましたけど、改めて感動しましたね。こんなによかったんだって。でも、感動の仕方も変わりましたよ。いまはいろいろ知ってしまったから。何も知らなかった頃の衝撃っていうのはすごかったけど、あれは二度と味わうことはできないでしょうから」

――それでも音楽を続ける醍醐味ってなんでしょう?

田中「ものを作ること、演奏することって単純に楽しいですよ。もちろん、引くに引けなくなっているところもあります。やめようと思えば理由なんていくらでもあるだろうし、これからも波はきっとあると思うし。それでも、ここまで続けてきたんだからがんばって続けようという意識のほうが強いですね」

――人間と同じように、バンドという概念も年齢を重ねるものかもしれませんが、活動を続けるモチベーションはどこにありますか?

田中「何かを作ってツアーをすることかな。すごく基本的なことですけど、これがやっぱりモチベーションになっているんだと思いますね。キャリアが長くなると、同じ曲をずっとやらざるをえなくなるほうが多いと思うんですけど、そうなると絶対に飽きてやめたくなると思うんですよね。だからなるべく、少しでも前とは違うものを作ろうという気持ちでやっています」

 


Live Information

SOMETHING SPECIAL
2019年2月21日(木)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
出演:GRAPEVINE/中村佳穂
2019年2月22日(金)大阪・心斎橋BIGCAT
出演:GRAPEVINE/中村佳穂
2019年3月1日(金)東京・マイナビBLITZ赤坂
出演:GRAPEVINE/中村佳穂

GRAPEVINE tour2019
2019年4月12日(金)東京・恵比須 LIQUIDROOM
2019年4月14日(日)新潟・NIIGATA LOTS
2019年4月20日(土)兵庫・Harbor Studio
2019年4月21日(日)静岡・LiveHouse 浜松 窓枠
2019年4月27日(土)北海道・札幌PENNY LANE24
2019年5月11日(土)熊本B.9 V1
2019年5月12日(日)鹿児島・CAPARVO HALL
2019年5月18日(土)岡山・YEBISU YA PRO
2019年5月19日(日)愛媛・WstudioRED
2019年5月25日(土)石川・金沢EIGHT HALL
2019年5月26日(日)長野・NAGANO CLUB JUNK BOX
2019年6月1日(土)岩手・Club Change WAVE
2019年6月2日(日)宮城・Rensa
2019年6月8日(土)福岡・DRUM LOGOS
2019年6月9日(日)広島CLUB QUATTRO
2019年6月14日(金)愛知・THE BOTTOM LINE
2019年6月15日(土)大阪・なんばHatch
2019年6月22日(土)栃木・HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
2019年6月23日(日)福島・郡山CLUB#9
2019年6月28日(金)東京・Zepp DiverCity TOKYO

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