GRAPEVINEの新作『BABEL, BABEL』が実に素晴らしい。スピードスターに移籍して最初のアルバムとなった前作『Burning tree』から約1年というリリース・スパンはまるで新人バンドのようだが、攻めの姿勢をさらに強めた楽曲自体も、キャリアと反比例するかのように非常にフレッシュ。彼らが常に若いバンドやリスナーからの根強い支持を獲得し続けているのは、〈ロック・バンドの解体こそが、現代的なロック・バンドの条件である〉ということを、根本にある無邪気な音楽愛で体現しているからこそなのだろう。というわけで、まずは近年に共演機会のあった日本の若手バンドの話から、この日の対話をスタートさせた。

GRAPEVINE BABEL, BABEL スピードスター(2016)

再現性を考えなくなった

――近年のGRAPEVINEは若いバンドとの共演機会が増えているように思います。一昨年にはシャムキャッツ主催の〈EASY〉に出演されていましたが、イヴェント及びシャムキャッツにはどんな印象を持たれましたか?

田中和将(ヴォーカル、ギター)「ああいうふうにバンドがたくさん出演するイヴェントは、懐かしい感じがしましたね。いまやフェスにはたくさん(バンドが)出ますけど、屋内のライヴハウスで、入れ代わり立ち代わりでいろんなバンドが出る企画を、昔はよくやっていたけど久々だったので。シャムキャッツに関しては……あんまり若くないと思いました(笑)」

西川弘剛(ギター)「僕は逆に、若いなと思いました。がんばってお客さんを煽ってる感じとか、〈そういえば、昔こういうバンドと対バンしてたな〉って。僕らはそういうことをまったくしてこなかったんですけど」

田中「そうそう、その感じもすごく懐かしかった。でも、僕が(シャムキャッツを)若くないと思ったのは、〈そのわりに音がちっちゃいなあ〉って思ったんですよ。一生懸命イヴェントの主催者として煽ろうとしてるわりに、〈音ちっちゃ!〉と思って(笑)、そのへんが大人な気がしましたね」

シャムキャッツの2015年のライヴ映像

 

――主催イヴェントだからステージングもいつもより派手だったんだと思いますけど、いわゆる音圧で押すタイプの若いバンドとは違いますよね。2月に対バンするSuchmosに関してはいかがですか?

田中「Suchmosの連中は、解釈が2周くらい回ってるんだろうなって感じで、めっちゃカッコイイんですよね。似たような音楽を聴いていたとしても、おそらく僕らとは捉え方が全然違うんだろうなと。まあ、同じ時代にああいうバンドがいたら、〈悔しいな〉という気持ちも芽生えたかもしれないけど、もはやそういう感じではないですね」

――彼らはブラック・ミュージックを聴き込んでいて、シャムキャッツともまたタイプは違うけど、やはり音圧で押すタイプではない。流れが変わってきてると思うんですよね。

田中「だと思いますね。印象としては、Suchmosくらいの世代は洋楽だろうが邦楽だろうが、年代も含めて分け隔てなく聴いている感じがします。でも、そのもうちょっと上、30歳前後くらいの人たちは、洋楽を聴かない人も多い印象がありますね。機材にものすごくこだわっていたり、演奏技術はものすごく高いんだけど」

Suchmosの2016年のEP『LOVE&VICE』収録曲“STAY TUNE”

 

――良い・悪いの話ではないにしろ、洋楽で育ってきたGRAPEVINEとしては、洋楽も普通に聴いている若い世代にある種のシンパシーは感じるのではないかと。

田中「それは素直に感じますね」

西川「演奏が上手いし、趣味が大人っぽい人が多い気がするんですけど、そのわりに意外と思ってることは熱いのかなって。そのへんのバランスがおもしろいです。シーンを作ろうとしてるように見えるっていうか」

田中「同業者として、というよりもリスナーとして、洋楽の新譜を聴くかのような気持ちで聴けるのはすごく頼もしいというか、カッコイイことだという気がしますね」

――では、洋楽に関してはここ1年でどんなものをよく聴かれましたか?

田中「昔ほどアンテナは張らなくなっていて、自分の好きな感じのものを選んで聴いている感じなんですけど、去年だとコートニー・バーネットとかビーチ・ハウスハイ・ラマズの新しいアルバムも良かったですね」

コートニー・バーネットの2015年作『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』収録曲“Pedestrian At Best”

 

西川「僕は海外のインターネット・ラジオをよく聴いていて、そこで気になったものが多いんですけど、去年いちばん聴いたのはジェイムズ・ベイですね。本当はああいうタイプはあんまり好きじゃないんですけど、あの人の声が癖になってしまって、ずっと聴いていました」

ジェイムズ・ベイの2014年作『Chaos And The Calm』収録曲“Scars”

 

亀井亨(ドラムス)「僕も最近は前ほど細かくチェックしなくなったんですけど、デヴィッド・ボウイの新しいアルバム(『★』)とか、あとミュートマスコールドプレイなんかは聴きました」

デヴィッド・ボウイの2016年作『★』収録曲“Lazarus”

 

――オフィシャルのインタヴューで、西川さんがアルバムについて〈再現性を考えなくなった〉ということをおっしゃっています。近年は海外でロック・バンドの勢いがそれほどなくて、どちらかというと打ち込みで作られた音楽、もしくはそれと生演奏を折衷した音楽がメインストリームを形成しているので、そういった時代感もアルバムに加味されているのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

西川「繋がっている部分はあるでしょうね。例えば、コールドプレイとかをいま聴いて、あれはもうバンドなのかよくわからないじゃないですか。音だけを聴くと、単なるEDMだったりするし。うちのバンドもそういう要素が、全部ではないけれどもあっていいのかなと思う節はあるんですよね。あとは再現性を考えて、レコーディングの足枷になるのが嫌なんですよ。いつもいい加減な思い付きから作っていたりするんですけど、思いついたことは全部試したいんです」

コールドプレイの2015年作『A Head Full Of Dreams』収録曲“Hymn For The Weekend”

 

田中「単純に、同じようなことばっかりやるのは飽きるので、結果的におもしろくなるに越したことはないなと常に思ってますしね。それなりにいろんなものを聴いて、いろんなものから拝借してますし、当然そうなるかなと」

――でも、楽曲の下地はセッションで作られた強固なバンド・サウンドなんだけど、そこに再現性を度外視した要素が加わるという、そのバランス感覚は独特だと思います。

田中「こうなってきたのは、ウィルコの存在が大きかったんですよね。〈バンドなのに、あのぶっ壊し方〉と言いますか(笑)、ああいうイメージですね。ウィルコみたいなことをやりたいというわけではなく、ああいう楽しみ方がバンドとしてできたらいいなとは思いますね」 

ウィルコの2007年作『Sky Blue Sky』収録曲“Impossible Germany” ライヴ映像