2021年よりバンド体制になったcolormal(カラーマル)のヴォーカル/ギター担当イエナガと、自身のソロ・ユニットmeiyoの他に、侍文化SAM4416POLLYANNA、HGYM、プールと銃口といったバンド・ユニットにも在籍し、数々のアーティストのサポートや楽曲提供も行うワタナベタカシの二人による連載〈今月のイエナベ!〉。東西を代表するインディー・アーティストの雄でもあり、友人同士でもある二人が、その月(今回は2021年4月)に聴いて良かった音楽を3曲ずつ、〈イエでナベでも食べながら報告しあう〉ように紹介する連載です(たまに編集の酒井が茶々を入れます)。それではお二人、張り切ってどうぞ~!

★colormalイエナガとmeiyoワタナベタカシの〈今月のイエナベ!〉記事一覧

 


①中山小町 “春容”

イエナガ(colormal)「去年から活動している宅録SSWの最新リリースより。音像だけに留まらず、コラージュを駆使したアートワークからも昨今の宅録ミュージシャンのトレンドが詰め込まれていますが、それでも食傷気味にならない作り込み。セクションごとで丁寧にフレーズを差し替えられたリズム、メインリフの裏には咳き込みのような声ネタ、サビに入るやいなや唐突に鳴るヴィブラスラップの遊び心。King Gnuや君島大空のフォロワーである印象は受けますが、しっかりと咀嚼した上で自身のオリジナリティに変換しています。よく聴いて、良く作る。このスピード感から、また新しい音楽が生まれると予感させられてしまう1曲ですね」

ワタナベ(meiyo)「ひゃー、売れそう!! みんな好きでしょう、これ! メロディーがちゃんと良い宅録SSWがどんどん増えてて負けてられないなと思う次第……。Twitterで〈呪いのようなポップミュージックたちをご堪能下さい〉って書いてた。好きそうなのでちゃんと全部聴いてみる!」

 

②限り限りの限り"心の大・仏・開・放"

ワタナベ「公開されて1年ぐらい経ってるんですが、完全に最強じゃないですか? この曲。少なく見積もって100回ぐらいは自分が再生してる気がします。

元Bell Boy、Nippon-Paper-Parkingの櫻壮一郎さんが始めたバンドで、ドラムは八十八ヶ所巡礼でも活躍中のkenzoさん。ベースは元キングヌラリヒョンの川原口さん。ベルボーイ、ニペパ、八八、キンヌラ全部好きだった自分からしたらこのバンドの誕生は大事件でした。とにかく櫻さんの曲はずっと凄い。ライブ中絶対に鬼殺し飲んでるし、ヘンテコなんだけど、これまでの人生で一度も聴いたことがないような常識外れのポップ(矛盾?)を聴かせてくれます。

限り限りの限りはコロナの影響もあってか、このMVの告知ツイート以降動きが見られなくて悲しい。反応があったらまた動いてくれるかもしれないので、もし良いと思ったらTwitterとかでご本人に伝えましょう」

イエナガ「八十八ヶ所巡礼の独特のグルーヴ感は正直な所でベースとギターによるものだと感じていましたが、この曲を聴いてkenzoさんのドラムに隠された独特のタイム感が大きく寄与していると分かりました。ライブハウスから生まれたマジックみたいなものが凝縮された界隈だと思いますが、それぞれのバンドでやっている個性が死なないのはすごい」

酒井「この曲のサビが衝撃的すぎて〈Mikikiの歌謡日〉でもすぐに取り上げさせていただきました。meiyoも一緒に載ってるね。タカシ君の影響でBell BoyのCDは取り寄せてゲットしたよ」

 

③Tohji, Loota & Brodinsk “Yodaka”

イエナガ「熱心なラップリスナーでない私ですら、リリースの度に度肝を抜かれているTohjiの最新アルバムから。トラックの中で音程を持って鳴らされるのがベースの〈E〉一音のみ。つまりずっと1つのコードの上でソロを弾き続けるように歌っている訳ですが、緊張感がありすぎる。〈ぼける悲しみに歪む苛立ち〉という一節からは昨今の社会に対する息遣いを感じます。凄まじいセンスとしか言えません。SNSを通じて作者の生活が透けて見えるような時代で、得体の知れない蠢きを感じたい皆さんにおすすめです」

ワタナベ「すごい! 何をどうしたいと思えばこういう曲になるのか全然想像が付かない感じなのに、この曲を聴いたときに皆が感じる感覚は、みんな共通しているような気がする。“TEENAGE VIBE”(kZm feat. Tohji)とか〈ニートtokyo〉とかでしか知らなかったけど、これから気にしてみよう。」

 

④sneaker&socks ”スワイプして”

ワタナベ「放課後自販機のよこ集合みたいなゆるい感じでやってるグループのようです(←ほぼまるまるTwitterからの引用)。今年始まったっぽくて、僕も詳しいことはよくわからないので、気になったらTwitterとか調べてみてください。そのほうが、色々面白いと思うので。

サウンドはゆるくて、ちょっと懐かしくて、画になる音というか。この曲も最近TikTokでもちょいちょい聴くようになってます。歌詞の目の付け所、ナウです。
みんなスワイプしてますもんね、星の数ほど!」

イエナガ「TikTokから流行る楽曲って、近年のベッドルームポップからいい意味で更にハードルを下げたものが多いと感じていて、楽器の細かなアプローチよりもリズムとメロディの気持ちよさを追求している人が多いですよね。そんなオケから引っ張られて歌詞も独特の視点になるんだな。普段、自身の活動でオケ先に作る人間としてはそんなことを考えてしまいました」

 

GRAPEVINE “She comes(in colors)”

イエナガ「ここを任せていただいてからは新しい音楽を紹介していきたいと思っていたのですが、自分のルーツになってる音楽もたまに紹介しようかなと思いまして。敬愛するGRAPEVINEの2009年リリース『Twangs』のラストを飾る一曲。ラッパのようなファズギターを乗せて軽やかなピアノが悠々と進んでいく曲ですが、一節にもあるようにTHE ROLLING STONESの“Ruby Tuesday”がモチーフになっているようで。髪の色を変えるように、1日たりとも同じままでいない女性像に対するロマンがありありと歌われています。

アレンジの妙、田中和将氏のボーカリストとしての天性……先述の歌詞の刹那感といい、個人的にGRAPEVINEを愛してやまない理由がぎゅっと詰まった1曲です」

ワタナベ「GRAPEVINE! 自分なんかは割と世代だけどあまり詳しくなくて、でも数曲聴いただけで絶対好きなのは分かったので、これから聴いていこうと思ってたとこでした。歌詞めちゃくちゃいいなあ。難しい言い回しも一つもなくて、文章量も10行ないぐらいなのに、必要なことを全部歌いきってる。

そういえば先日、〈プールと銃口企画〉でcolormalとワタナベタカシで共演しまして。イエナガ、その節はありがとう!(このタイミング?)

久々にライブを観て〈もしかしてイエナガはこういう音楽に影響を受けてきたのでは? イエナガの好きなアーティストは?〉的な話を振ったら〈そういう話はイエナベの連載でしようね〉とあっさり振られました(笑)」

 

⑥タニザワトモフミ "やめちまえ!タニザワトモフミ”

ワタナベ「僕、サブスクを結構いろいろ転々と使っていて、最近Apple Musicに3度目ぐらいの復帰を果たしました。Apple Musicって一度やめてしばらく経つと作ったプレイリストとか色々全部消えちゃうんですけど、その年最もよく聴いた曲リスト〈リプレイ:2019年〉だけしっかりと生き残ってまして、そこから選曲しました。

とはいっても、全然2019年の曲でもないんですけど。音はこんなにもワクワクしちゃうポップなのに、歌詞は音楽家の苦しみがこれでもかと凝縮されて詰まってて、多分これを書いた頃のタニザワさんはかなり限界だったんじゃないかなぁと、そんなことを勝手に想像して、勝手に自分にあてはめて、勝手に泣いたりしてます」

イエナガ「ワタナベ君、先日のライブでは少し素っ気なくてごめんね! リハーサルがバタついていて、後はコロナウイルスのせいもあり打ち上げもできなかったので……。改めてワタナベタカシのライブを見て感じたのは、タニザワトモフミ/ハンサムケンヤ/清竜人と言った2010年代初頭のソロ・アーティスト豊作時代の再来を感じさせるということ。単なるマルチプレイヤーではなく、編曲にその人の匂いがしっかりと出てきている。ワタナベ君とはこのコーナーを通じてルーツも開陳していきたいと思っています」

酒井「ちなみに、先日のそのライブは二組ともめちゃくちゃ良くて、帰り道は“ポラリスとあるく”(colormal)“シトラス”(meiyo)を口ずさんで帰りました。開演前にかかっていたアナログフィッシュとかナンバーガールも良かったし……。また共演してください!(ただのファン)

そしてここで二人に業務連絡&ご提案なんですが、次回は5月末で解散してしまう赤い公園特集をやりませんか? 通常回とは別にでも構わないし。ご検討ください!」

 

というわけでそんな次回は5月末~6月頭に公開予定! お楽しみに!