シネマティック・オーケストラの音楽はどうして映像に合うのか?

――作品数も多くなく、実は今回の来日がまだ4回目というシネマティックですが、日本での人気は高いと感じます。彼らのどういうところが日本のリスナーに訴えかけるんだと思いますか?

関口「日本人が好きかどうかは断言できないんですけど、やっぱり〈叙情性〉だと思いますね。ただテクニカルだったり目新しいサウンドだったりするだけじゃなくて、その芯にストーリー性や叙情性があるのが魅力なのかな。

彼らの音楽って聴いていて入り込めるじゃないですか? 例えば(曲の長さが)〈11分〉って書いてあったら、その11分間が約束されたような気がするんですよ。〈もうこの中に入ってしまおう〉って」

――関口さんがおっしゃったように、バンド名に象徴される物語性や映像を喚起する力が彼らの音楽にはあって、多くの映画やドラマに楽曲が使用されています。Ovallのみなさんは最近も映画「ハード・コア」の音楽を担当されていましたが、それぞれCMや映像作品の音楽も作っていらっしゃいますよね。劇伴や映像と関係した音楽も作るミュージシャンという立場からシネマティックをどう見ますか?

関口「彼らの音楽って、いろいろな音やリズム・パターンがすごくイーヴンに使われている。パレットの上の絵の具みたいに〈こういうものを作りたい。じゃあ、これを使おう〉っていう。そういう方法は、劇伴やCMの音楽をやらせてもらえるようになって僕も考えはじめたことなんです。

それまで自分はギタリストだって考えていたから、全部をギターで表現するのが当たり前だった。でも、CMや映像の仕事をやっていると、そこに必要な音がギターじゃなければ、別の楽器でやる必要がある。苦手な、あまり知らないものだとしても、〈これが合うんじゃないか〉って思ったら勉強して取り入れたりします。

シネマティックの音楽にはいろいろな要素が混ざっているんだけど、分析的に聴かなければ自然とそのまま聴こえてくる。それがいちばん美しい形で、そうできるようになりたいなと思いますね」

――mabanuaさんはいかがですか? 昨年、アニメ「メガロボクス」の音楽を担当されていましたが。

mabanua「ディズニーのサントラを聴いたんですけど、個性の出し方がうまいなあと思って」

――ドキュメンタリー映画「ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密」(2008年)のサウンドトラックですね。

mabanua「100パーセント自分の色を出せる条件じゃないと(劇伴を)やりたくないアーティストもいると思うんです。でも、シネマティックはファンも映画好きな人も満足して聴ける作品にしている。ストリングスはちょっとディズニーっぽい、ふわーっとしたものだけど、それで彼ららしさがなくなっているわけでもない。あくまでも音楽、音としてどうあるべきかが常に先行している感じがあるんです。

例えば〈新しい機材を導入したから、それを取り入れたい〉とか、そういうアーティストのエゴって絶対にあると思うんですよ。でも、そうすると逆にわざとらしくなる。プロジェクトごとにバランスを取るのって、難しいんですよね。でも、彼らは化けるのがうまいなって思います。自分もそうなりたいんですけど、なかなか……」

2009年作『The Crimson Wing: Mystery Of The Flamingos』収録曲“Arrival Of The Birds”と“Transformation”
 

――ミュージシャンとしての作家性とクライアント・ワークとのバランスは、やっぱり悩みどころなんですか?

mabanua「良くも悪くもビジネスって考えたときに、クライアントの考えと、アーティストとして最低限保ちたいラインがあって、毎回そこが難しいんですよね。それってたぶん、もともとのアーティストとしての説得力が大事だって常に思っていて。極論を言うと、坂本龍一さんだったら何をやってもクライアントは〈最高です!〉って言ってくれるはず」

――(笑)。

mabanua「でも、ペーペーのアーティストだったらクライアントに何を言われようが〈頑張ります!〉と返すしかない。〈坂本龍一〉になっていくまでの過程は、けっこうみんな苦しい。そこで挫折しちゃった友人も周りにいて。でもシネマティックは、これだけいろいろな作品に爪痕を残しているのがすごいと思いますね」

――劇伴を頼まれて作るだけじゃなく、楽曲を映像に使いたいって想わせる力も持っているのがすごいですよね。

mabanua「タイアップを取りやすいというか(笑)。でも、もちろんタイアップを取ろうと考えて作っている感じではない。レコード会社の人が聴いたら不安がりそうな音楽もやっているんじゃないかなと思うんです」

スタッフ「『Ma Fleur』は前作『Every Day』と違ってビートがなくなったのでセールス面が心配されたのですが、結果的にロングテールで売っています」

mabanua「〈作品力〉で結果を残しちゃうのがすごいですよね」

 

音楽家はどう生きるか?

――『To Believe』は12年ぶりのオリジナル・アルバムです。バンドの中心人物、ジェイソン・スウィンスコーは、時間がかかったことは問題ではなく「大事なのは共鳴する音楽を作ること」とインタヴューで語っています。つまり、一年に一つアルバムを作ることより、来るべき時が来たときに納得のいく作品を作ることが大事なんだと。そこもOvallの姿勢に通じると思っています。というのも、活動期間の長さに対して作品の数はそこまで多くないので……。

一同「(苦笑)」

――こだわり抜いて、最高の作品を作ろうと考えているのではと思うのですが。

mabanua「単純に他の理由もあって、もうちょっと急いで作らなくちゃいけないんですけど(笑)」

Suzuki「でも、〈一年に一枚出しましょう〉っていう考えではないし、自分たちには合っていないと思います。例えば、冬は制作期間、春と夏にフェスに出て、アルバムを出し、そのワンマン・ツアーも並行してやり、また冬になったら新作を作るっていうのは、日本・海外問わず、いまのミュージシャンがやっていることですよね。それはある意味で充実した、理想的なライフスタイルやサイクルなのかもしれないけど、それによってだんだん……」

mabanua「疲弊していく」

Suzuki「そう。でも、スケジュールをもっとおおらかに見ることで、他の作品に取り組んだり、休暇を取ったり、寄り道をしたりできる。音楽をずっと続けていくということを考えると、〈一年に一回○○をしなきゃいけない〉というのを排除することでより良い作品が出来るし、集中もできるんです。

人によってフォーカスしなきゃいけない時期って、きっとそれぞれ違うと思うんですよね。誰もが一年に一回じゃない。シネマティックはやっぱり、良い作品を出すっていうのが大切で最上位のことだって理解しているからこそ、そういうふうに言うんだと思います」

mabanua「最近、自分の音楽を〈人生の尺〉のなかでどうやって作っていくのかを考えていて。たぶん、大多数のアーティストってそういう考え方をできていないと思うんです。契約を切られないようにするとか、売り上げを上げるとか、SNSで〈いいね〉をもらうとか、そういうところにフォーカスしてしまっている。それはそれで良いことではあるんですけど、俺らは最大瞬間風速的な音楽の作り方ができないタイプなので」

Suzuki「最大瞬間風速が出せない(笑)」

mabanua「出せる人がうらやましいんだけどね。シネマティックはひとつひとつのプロジェクトのスケールが大きいんだけど、予算の有無にかかわらず、すごくおおらかに音楽をやっている気がします。

例えば〈80歳で10枚目のアルバムをリリースして、その何年か後に死ぬ〉でもいいと思うんですよね。でも、〈頂点目指そうぜ!〉みたいな考えのアーティストだと、たぶん80歳になったときのことなんて考えないと思うんですよね。20代のうちにまず何万枚売ってとか……」

Suzuki「まずはここ(イヴェント)に出てとか……」

mabanua「フォロワーを何人抱えてとか。でも、そういう20代を終えたとき、その後どうするかを30代になってから考えるのでは、たぶん遅い。……話が大きく、〈シネマティック〉になってきちゃいましたけど(笑)。

自分は10代の頃から音楽で食べていきたいって思っていたけど、〈大学に入ってから考えればいい〉〈社会人をやってみて、音楽をやりたければやればいい〉って言う人も周りにはいたんです。でも実際、そのときになってから考えはじめるのでは遅いんですね。

音楽を作っている人たちは、自分が音楽を始めてから死ぬまでの全体の目標とか、どういう使命を持ってこの世に生まれて生きているのかとか、そういうことをもっと余裕を持って考えられるようにならないといけないと思う」

Suzuki「うんうん。確かにね。Ovallで2010年にファースト・アルバムを出したとき、スタッフ全員で頑張って、作品がCDショップやウェブにバーンと並んで、〈これはやった!〉って思ったんですよ。バンドをやってきて良かったなって。でも、その週、その月に出ているCDって山ほどあるんですよね。〈これで世界に出ていくんだ〉って思っていたら、同じように考えている人たちが他にたくさんいる。

そんななかで何が大事かって考えたんです。自分たちが納得できるもの、時間が経ってもいいなと思えるものを残すには、結局そのときそのときに正直なものを作らなきゃいけないってすごく感じるんですね。

シネマティックの作品がロングセラーなのは普遍的なものだからなんじゃないかなって思います。音楽の普遍的な良さ、良い部分を彼らはキャッチしていて、だからこそいろいろなジャンルの音楽を取り入れて、昇華して、アウトプットしている。シネマティックの良さ、見習わなきゃいけないって思うところは、音楽を作る身としてはそういうところにあると思う。彼らは良しとしたものしか出さないんですよ。それはやっぱり良作になって、普遍的なものになる」

mabanua「残るんだよね」

Suzuki「だから、長期リリースしなかったっていう理由もすごく納得できるんです。新作を聴いて〈あっ、そういうことだったんだ〉っていうふうにみんな思うんじゃないかな」

関口「そもそも、12年間作品を出していなくても名前が全然消えていないのがすごいよね」

――これがもしラッパーだったら……?

mabanua「もはやレジェンドですよね(笑)。(プロデューサーのドミニク・スミスが)インタヴューで、いまは『名声や商業目的の音楽が増えたように感じる。歌詞を通して説教みたいなことはしたくなかったけど』って言っているんですけど、絶対に説教したかったんですよ(笑)」

――(笑)。

mabanua「いろいろと思うところがあって、結果的に歌詞にもそういう思いが埋め込まれている。いまの音楽シーンや自分たちの下の世代に向けて言いたいことがあったんだろうなってすごく感じますよね。若い子たちに〈10分以上ある曲をイントロから飛ばさずに我慢して聴けるか?〉って言っているかのような(笑)。〈お前ら、これを聴けるのか?〉って」

――一曲が長いと、Spotifyで再生回数を稼げないですしね。

関口「でも、長い曲ってすごくいいなって改めて思いましたね」

 

Ovall、待望の新作は……?

――最後にOvallの今後の予定を教えてもらえますか?

Suzuki「ライヴは、〈SYNCHRONICITY〉のプレ・イヴェントに出ます。mabanuaは〈SYNCHRONICITY〉のほうにも出ますね」

mabanua「ライヴをぼちぼちやりつつ、アルバムも作りつつ、冬にツアーもやりたいねと」

Suzuki「アルバムは夏過ぎ頃かな」

関口「シネマティックのように、良いものが出来なかったら出さない(笑)」

Ovallの2019年のシングル“Stargazer”
 

mabanua「でも俺はいま、ガンガン作っていますよ。明日も一曲上げますから」

Suzuki&関口「お~!」

――新作とツアー、楽しみにしています!

 


Live Information 

■シネマティック・オーケストラ

4月18日(木)大阪・西梅田 サンケイホールブリーゼ
開場/開演:18:00/18:30
サポート・アクト:原摩利彦
前売り:8,000円(税込/全席指定)
※未就学児童入場不可
お問い合わせ:
SMASH WEST 06-6536-5569 http://smash-jpn.com http://smash-mobile.com
イープラス:http://eplus.jp/thecinematicorchestra/
チケットぴあ(P:139-935):http://t.pia.jp/
ローソンチケット(L:54265):http://l-tike.com/

4月19日(金)東京・太子堂 昭和女子大学人見記念講堂
開場/開演:18:00/18:30
サポート・アクト:原摩利彦
前売り:S席 8,000円/A席 7,500円(税込/全席指定)
※未就学児童入場不可
お問い合わせ:
BEATINK 03-5768-1277 http://www.beatink.com/
HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999 http://www.red-hot.ne.jp/
イープラス:http://eplus.jp/cinematicorchestra/
チケットぴあ:http://w.pia.jp/t/cinematicorchestra/
ローソンチケット:https://l-tike.com/tco0419
iFLYER:https://iflyer.tv/THECINEMATICORCHESTRA
LINE TICKET:https://ticket.line.me/events/1508
楽天チケット:http://r-t.jp/cinematicorchestra

 

■Ovall
SYNCHRONICITY '19 Pre-Party!!

4月5日(金)東京・渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
開場/開演:18:30/19:00
前売り:3,800円(ドリンク代別)
出演:Ovall/bonobos/UDD(Up Dharma Down)
一般発売:https://eplus.jp/synchronicity19-pre/
お問い合わせ:info@kikyu.net