息を吐くとそれが歌になる。ゆらぎが思いを表している。R&Bやヒップホップやボサノバなどが柔らかに取り込まれたシティポップ的な意匠の洗練されたサウンドだが、そこに乗るボーカルは爽やかで晴れやかというより憂いや気怠さに近いものがあり、その合わさりがXinUのオリジナリティと抗しがたい魅力になっている。
昨年4月の初EP『XinU EP #01』と、今年5月10日にデジタルリリースした『XinU EP #02』。そこに収められた全ての曲を合わせて1曲プラスしたファーストフルアルバム『XinU』は、この2年の活動のひとまずの集大成であると同時に、彼女の成長の記録でもある。
新たにmabanuaやサウスロンドンのプロデューサー/トラックメイカーであるedbl(エドブラック)を迎えたその作品に、XinUはどんな思いで取り組み、どんな思いで歌詞を書いたのか。今回もデビュー時から彼女を支えるサウンド面においてのキーパーソン、M-Swiftこと松下昇平同席の上で話してもらった。
聴く人も巻き込んで輪を広げたい
――初のEP『XinU EP #01』が出たのが昨年4月。その翌月には代官山SPACE ODDでリリースライブが行われました。あれからもう1年経つんですね。
XinU「1年前のあのライブは、いま思い返しても泣きそうなぐらい、それまでのいろんな思いが溢れ出した時間でした。6月4日には代官山UNITで1年振りにフルバンドセットのライブをするんですが、絶対にあれを超えるものにしたいと思っています」
――アコースティックライブを教会でやったり、今年4月にはBLUE NOTE PLACEでやったりと、フルバンドじゃない小編成でのライブもこの1年の間に度々やられてましたよね。
XinU「その時々でいろんなコンセプトをもたせてやっているんですが、毎回ハードルの高さを感じつつも、ひとつひとつ超えることで得られるものがたくさんありますね」
――インスタライブ、YouTubeライブなど、オンライン上でのライブもかなり頻繁にやられています。それにTwitterからTikTokまで、XinUさんはSNSをすごく意識的かつ効果的に活用して、〈動いている状態〉を印象付けている。
XinU「そうすることで新しい人と出会えて音楽を聴いてもらうことができているという実感があります。
あと、今年になってFiNANCiEで始めた新しいコミュニティプロジェクトがあって、そこでは継続的に私の音楽を聴いてくれる人と繋がることができたり、ダンサーや写真家やヒューマンビートボクサーといった別のジャンルの人とも繋がってコラボレーションする機会が得られている。モノ作りのプロセスを共有しながら、少しずつ輪も広がっていくのがすごく面白いです」
――単に曲を作って発表してライブをやっての繰り返しではなく、ミュージックコレクティブXinUの名の通り、いろんな人と繋がることによって活動の幅を広げていく。
XinU「そもそもスタートの段階から自分ひとりじゃなく何人かが集まって音楽を作るというプロジェクト的な形態ですし、聴く人も巻き込んで輪を広げていきたいという思いはあったんです。
XinUとしての活動をスタートさせたのがコロナ真っ只中のときだったので、ライブもできないし、どこかに集まることもできない。じゃあどこでどうやって聴く人と繋がれるかと考えたらインターネットしかなかったし、もともとSNSは個人的にずっとやっていたので、楽しんでそういうことをやれたんだと思います」
松下昇平(M-Swift)「SNSを使って人と繋がっていくことは彼女の持っている資質だと思っていて。得意だし、すごく向いているみたいなんですよ」
私の言葉を聴いてくれる人に届く詞を書こう
――『XinU EP #01』から1年が経ちますが、ソングライティングの面で意識の変化はありましたか?
XinU「ファーストEPのときは、自分で詞を書くことを本格的にやったのも初めてだったので、手探りで作っている感じがありました。そうしてどうにか0(ゼロ)から1(イチ)に進むことができたのが『XinU EP #01』だったんです。
そこから2作目のEPを作るにあたり、歌詞もちゃんと上達していなければいけないわけだから、この1年は初めてのEPを作るときよりも厳しく苦しい創作期間でしたね。
ただ、私の言葉、私の歌を聴いてくれている人が確かにいるんだとわかったことは大きくて。以前は闇雲に書いていたけど、私の言葉を聴いてくれる人に届く詞を書こうという意識が芽生えました」
――そうなるとオフの時間の使い方も変わってくるでしょ?
XinU「それはありますね。本を読んでいるときに、これは歌詞のネタになるんじゃないかと思ってメモしたり。最近は難しい哲学書をたくさん積み上げてます(笑)。
あと、誰かとじっくり対話することで自分に向き合えたりもするから、電話をよくするようになりました。友達と電話で恋愛のことを話して、アドバイスしているつもりが自分に言っているって思ってハッとしたり。それが詞になったりしています」