誰もこんなの作れないと思うんですよ!

――その結果、カジさんの変わらないよさもありながら深い奥行きのあるものになっていて、説得力のある作品になっていると感じます。以前テイ・トウワさんにお話をうかがったときに、年を重ねていくなかでのモチヴェーションの保ち方というのをすごく考えられていて。

「いい話。本当にそうなんですよね」

――カジさんは何枚も作られてきてなお、眩しいポップスを作られているのが驚異的だなと思って。

「ですよね! こんなの作れないと思うんですよ(笑)。だから、これがある程度評価してもらえないとすごいモチヴェーションが下がっちゃうんです(笑)。ある程度いい感じに売れてほしいなと思う。そのくらい今回はがんばったなって思ってます。

テイさんもそうですけど、同年代とか先輩ですごくいい作品をずっと作り続けている人がたくさんいて。おもしろいアイデアでユニークな音楽を作ってる人は好きですね。(高橋)幸宏さんでも鈴木慶一さんでも細野(晴臣)さんでも、小山田(圭吾)くんでも小沢(健二)くんでもいまも精力的にやっていますよね。自分も何か新しいことに挑戦するのが必要なのかなと思ってはいるけど、小山田くんには変化はしていてもCorneliusという道があるように、自分のなかではカジヒデキでいなくちゃいけないなというのもすごくある。

そのなかで、〈今回の新しくていいじゃん〉っていうユニークさを出すにはどうするのがいいのかっていうのはすごく考えていて。“ノンノン・ソング”でのんちゃんに参加してもらったみたいな……ああいう曲を作り出すとなると楽しいし、いちばんおもしろい形にできあがったなって思います。のんちゃんがやるということで、そのためのアイデアを美しく組み立てていけました」

『GOTH ROMANCE』収録曲“ノンノン・ソング”
 

――そういう新鮮なフックがたくさんあるアルバムでもありますよね。

「フックは多いですよね。アルバム制作前に堀江くんと何度もミーティングしたんですけど、そこが必要な部分ではないかっていう話になりました。いかに聴いてもらえるかが大事だったりするじゃないですか。せっかくアルバム出しても新人アーティストでもないし、それどころかすごくヴェテランなので(笑)、新鮮味がないわけで。そういうアーティストが聴いてもらう取っ掛かりってすごく難しいなと思うんですよ。それこそTVのタイアップとかあればきっかけになると思うんですけど、いつでも入るわけではないし。だからまったく知らない人が聴くきっかけになるためにはフックっていうのは絶対に必要で、そこの部分はしっかり意識しようと」

 

カジヒデキが見つめる、いつか死ぬということ

――“さんでーべいべー”や“5時から7時までのマキ”など、ムッシュかまやつさんやアニエス・ヴァルダがモチーフになっている曲もあります。本作は亡くなった方に捧げる面もあるのかなと思っていて。

『GOTH ROMANCE』収録曲“さんでーべいべー”
 

「そこはたまたまなんですけど、自分もそういう世代になってきたのが大きいなと。20代、30代の頃に影響を受けた人が亡くなっていくのは、いまの年になったからなのかなというのはすごくあって。死を身近に感じる年になったなと。自分自身だっていつそうなっても、というのはありますし」

――そうなんですか。

「やっぱり50をすぎるとそう思うんだなって。40半ばくらいの頃は、自分と死の距離はまだ遠い気がしていました。でも、この年になって、そんなに遠くないんだなって。だからこそ〈やれることをやっておかないといけないな〉って思います。自分の世代くらいの人はそういうふうに思ってるんじゃないかな(笑)。〈死ぬんだからやりたいことやっとけ!〉みたいな。とは言え、急になんでもできたりはしないんだけどね(笑)」

――アルバム自体は若々しくてエネルギッシュですけど、そういう影も見えるのが深みに繋がっているのかなと。父親目線の“青春のブライトサイド”という曲もありますが、先日生まれたお子さんに対する想いもあるのでしょうか?

『GOTH ROMANCE』収録曲“青春のブライトサイド”
 

「自分のプライヴェートなことを歌詞に盛り込もうというのはあまりなかったんですけど、でも結局書いてることって、そのときそのときの感じてることや自分の現状が知らないうちに反映されてるんですよね。単純に青春の話を書いたら、10代の主人公にはお父さんがいたりするわけで、当たり前のように書いたんですけどね。“チョコレートの音楽”も、ある程度年齢がいった夫婦っていう設定があって、そこも自然と出たような気がします。そうやって部分部分ではノンフィクションな面が出ているんだろうけど、基本的にはストーリーを書いている感じですね」

 

ゴスやポジパンは大切なルーツのひとつ

――87年に撮影された写真を宣材として使ったのも、作品を知ってもらうためのフックのひとつでもあるわけですよね。実際話題になりました。

「そうですね(笑)。『GOTH ROMANCE』というタイトルのアイデアが出たのは今年入ってすぐ。ポジティヴ・パンクなバンドをやっていたこととか、ゴスの趣味があったことっていうのは大事な部分だからタイトルにしているんだけど、昔の写真を使おうとは思っていなくて。僕はそこまでの戦略家じゃないので、あれをちゃんと宣伝として使ってくれたスタッフの人たちは偉いなって思います。堀江くんも最初は〈ゴスって一般的じゃないからどうかな〉と思ってたみたいなんですけど、いいと思ったら急におどろおどろしいフライヤーを作ったりしはじめて(笑)。そうやって自分と違う発想で、みんながアイデアを出してくれるのでありがたいです。でも、あの写真は可愛いもんなんですよ」

――もっとすごいのがあるんですか!

「僕は19才のときにNeurotic Dollというバンドに加入して、1年弱で辞めたんですが、あれはバンドを脱退するときのライヴの写真なんです。〈もうゴスはいいや〉って思ってた時期で、ものすごく辞める気満々で、ヘアスタイルもボブみたいになっていて(笑)。当時は大阪のテクノポップ・シーンとかネオアコとか、ノイズとかいろんなものが好きだったので……ボブはきっとリタ・ミツコの影響かな。大阪のテクノポップの人たちも、ああいう髪型をしてる人がいたので、そこから来てるんだと思います。本当はメイクももっとやってたんです。あの写真は薄化粧なほうで(笑)。ファッションも、辞めるときだったのでTシャツとクリストファー・ネメスのパンツでロンドンっぽくていいやみたいな(笑)」

――ナチュラル寄りというかソフトなほうの写真なんですね。

「実はそう(笑)」

――過去の写真を使ったのも作品を届けるためだし、今回はそれだけの充実作ということですよね。

「はい。それこそ新しいデビュー作という気分でやっていたのもあるし、いまの状況を考えても、知ってもらいたいというのが大きいです。自分でも〈こんなにしっかりした作品はいままでなかったな〉っていうくらいの気持ちがある。だから焦らずに売りたいなとも思うし、もしかしたらちゃんと見せる手段が欠けていたのかなと思うので、そういうことをしっかりできるようにしたいですね。この先、2年とか3年とかのタームでこれからのリリースや流れを考え、大きくしていけたらと思っています」

『GOTH ROMANCE』収録曲“水飛沫とファンファーレ”

 

音楽とか映画とかアートとか、そういうものへの興味がずっと変わらずにあるんです

――最後になりますが、ペースを落とさずに活動を続けられる源泉はどこからきているのでしょうか。

「どうだろう? 作ることは生業としてやってきたので、当たり前なんですよね。音楽を作って、ライヴで表現して、こういうプロモーションをやったりすることも好きなんです。それを辞めないためには作るしかない。かといって作品がちゃんとしてないと、次出せることの保証があるわけでもない。そんななかで、常に作りたいものが湧く環境にいるのかなと思うし、周りの友達とかも悩んだりしながらいい作品を作っていて、そういうものにすごく刺激を受けたりする。そうやってずっとやらせてもらえる環境があるのは感謝すべきことですよね。音楽とか映画とかアートとか、そういうものへの興味がずっと変わらずにあるんです。

20歳くらいの頃といまと比べても全然変わってない。もちろん20代の頃みたいにレコードをがむしゃらに探したりはしないですけど、いまでもレコード屋さんのサイトを見たりして欲しいものは買ったりするし、常に新しい映画を見たいと思う。それを繰り返していて、飽きないで生きていられるのも幸せなことだと思います。30代くらいの頃はどこかで興味がなくなるのかなと思ったりしたんですけどね。曲作りも飽きたりするのかなって」

――しかし、そうなることもなく。

「ときどき悩むことはありますけどね。苦しんでものを作るのはイヤだなと思うんです。僕はある程度の余裕がないと作品は作れない。もちろん苦しみのなかで作る作家の人もいるとは思うし、それが新しいものを生み出したりすると思うけど、自分が作っている音楽はたぶんそういうものじゃないなって思う。母からもよく言われるんですけど、気持ちに余裕がない生活をしていると、それが出ちゃう。だから自分がそういう状況を保たないといけないなとは思う。何をしているとそれが保てるかっていうのは、無意識にしても、頭のどこかで考えながら毎日を暮らしているんだなと思います」

 


LIVE INFORMATION
HIDEKI KAJI GOTH ROMANCE TOUR
バンドメンバー:堀江博久(キーボード)/有馬和樹(ギター)/牛尾健太(ギター)/風間洋隆(ベース)/前越啓輔(ドラムス)

2019年7月18日(木)愛知・名古屋Live & Lounge Vio
2019年7月19日(金)大阪・梅田Shangri-La
2019年7月29日(月) 東京・渋谷WWW
※ライヴ会場限定の両A面7インチ「フランス映画にしようよ/ノンノン・ソング」とSECRET GOTHIC PARTY T-SHIRTSを名古屋公演から販売スタート!
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