いくつになっても音楽へのピュアさを失わない永遠のブルー・ボーイがここにいる。どこまでも軽やかに、眩い笑顔で叫ぶのは――ドリームズ・ネヴァー・エンド!!
「2019年の前作『GOTH ROMANCE』は、プロデューサーの堀江くん(博久)と妥協なく作れたので、すごくクォリティーの高いアルバムが出来た。なので、すぐに次の作品を出したかったんですけど、5年もかかってしまって(笑)。コロナがあったことも大きかったんですけど」。
そう語るカジヒデキの前には、ついに完成した通算19作目となるニュー・アルバム『BEING PURE AT HEART~ありのままでいいんじゃない』が置かれている。この5年間に発表してきたシングルやEPの収録曲を含む12曲を揃えた本作は、いつにも増してギター・ポップやネオアコにフォーカスした一枚になった。
「前作を出した直後はレックス・オレンジ・カウンティやジンジャー・ルートにハマっていたので、ソウルっぽい楽曲を作りたいと思っていたんです。そのムードは新作にも入っていますけど、2022年に2つの映画――80年代グラスゴーのインディー・シーンに迫った『ティーンエイジ・スーパースターズ』、80年代から90年代半ばに運営されていたUKのインディー・レーベル、サラのドキュメンタリー『マイ・シークレット・ワールド』を観たことで、インディー・ポップ熱に火が点いて。映画で取り上げられていた彼らの持つ音楽に対してのピュアさ、いまも変わっていない情熱にすごく共感したんです」。
興奮冷めやらぬなか、カジが作ったのがアルバムの冒頭曲“Being Pure At Heaet”。「2分くらいで駆け抜ける潔い曲を作りたかった」という同曲は、ギターのアルペジオ、kiss the gamblerとして知られるKanafunのコーラスが爽やか。それにしても、タイトルには2000年代後半に登場したUSのギター・ポップ・バンド、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを想起してしまうが……。
「ペインズが出てきた当時は本当に衝撃を受けました。〈心がピュアであることの痛み〉ってすごくかっこいい言葉だなと思って。ただ、自分の歌はなるべくハッピーなものにしたいので、僕は〈ペインズ〉を付けずに。青臭いことを若い人が言うと説得力があるけれど、僕はもうある程度、年齢がいっているので(笑)」。
Kanafunとみらんが参加したクリスマス・パーティー仕様のガレージ・ロック“We Are The Borders”、みらんが色香の漂う歌声で魅せる“手をつないで歩こう”、Crispy Camera ClubのMisatoを迎えたファンカラティーナな“Summer Sunday Smile”、NegiccoのNao☆がダイアローグを添える“きみのいない部屋”など、新作は女性シンガーの声が耳を引くのも特徴。ヒックスヴィルの真城めぐみが流石の存在感を示すブロウ・モンキーズ風の洒脱なソウル・ナンバー“Don’t Wanna Wake Up!!”は、カジのラップ的なフロウも新鮮だ。
「80年代のネオアコやインディーのシーンはマッチョな雰囲気じゃなくて、女性が男性以上にカルチャーを支えていたのが素敵でしたよね。サウンド面ではレゲエやボッサ、アフリカとかいろいろな音楽を軽やかに取り込んでいたのも魅力だったし、そういう自由さを僕も出したいんです」。
アルバムの最後を飾るのはシンセ・ポップの“Dreams Never End”。コロナ禍での心情を歌ったというこの曲は、いつになく深いメランコリアを滲ませる。
「曲名は、ニュー・オーダーの初作の1曲目からとりました。彼らもイアン・カーティスの死を受け、失意のままジョイ・ディヴィジョンを終わらせたと思うんだけど、それでも新しいバンドを始めて、〈夢は終わらないぞ〉という気持ちをあの歌に込めたんじゃないかな。それが、コロナ禍で暗い気持ちだった自分にすごく響いた。この状況を乗り越えていかなきゃ、未来に向かわなきゃという想いを僕も歌いたいと思ったんです」。
左から、みらんの2023年作『WATASHIBOSHI』(NOTT/NiEW)、 kiss the gamblerの2023年作『何が綺麗だったの?』(雷音レコード)、Crispy Camera Clubの2022年のミニ・アルバム『季節風』(KOGA)
カジヒデキの過去作と近年の参加作。
左から、2023年のEP『WE ARE THE BORDERS E.P.』、2019年作『GOTH ROMANCE』(共にBLUE BOYS CLUB/AWDR/LR2)、Nao☆の2023年のシングル“何回もドアを叩くんだ!”(Fall Wait)、野宮真貴の2022年作『New Beautiful』(スピードスター)