聡明の美を湛えながら多彩な表現でブラームスが各楽章に込めた情感を音に紡ぐ。熟達の気配さえ感じさせるこの当代有数のデュオが、澄み切ったほの明るさから発語していく音楽の陰翳は、実にこまやかににその姿を変えていく。ブラームスの3つのソナタをありのままに味わいたい時に、どうしてもはずせなくなるのがこの一枚だ。ふたりは2月の来日演奏会でソナタを番号順にプログラムし、当盤最後のクララ・シューマンのロマンスからの1曲をアンコールで弾いた。ディスクで聴くと、クララの記念の年によすがをとどめんとする真摯な思いが静かに届く。それが為されるべき場所としてこのブラームスは最高にふさわしい。