鶴首して待ったイブラギモヴァのショスタコーヴィチは、故国の歴史を切り抜けた傑作についに正面から対峙した力作。不滅の〈故事〉というべき初演者オイストラフの事績を相対化する現在的演奏の有力盤として強力な一枚だ。2曲ともに一貫する分かちがたい彼女の流儀を共有することができる。オケにも強く深い内的表現が求められるが、ユロフスキ率いるロシア国立響の一体感も素晴らしい。ショスタコーヴィチ音楽の要諦が内蔵された偉大なる第1番、特に第3楽章パッサカリアでの濃密な沈潜と緊迫の際限への表現に全霊を投じる演奏家の追究の姿は圧倒的であり、カデンツァで聴く彼女の発語の一切を逃さず傾聴したい。