いざ、現代音楽の冒険へ~最前線で活躍する作曲家の最新作を聴く~
サントリーが日本の音楽文化にどれほど尽力してきたか。その貢献ぶりは計り知れない。起源をたどれば、創業一族の名を冠した「鳥井音楽財団(現:サントリー芸術財団)」創設にさかのぼる。まずは1969年から「鳥井音楽賞(現:サントリー音楽賞)」として、日本の洋楽文化の発展に寄与した個人もしくは団体に多額の賞金を授与。サントリーホールが誕生した翌年(87年)には「サマーフェスティバル」を立ち上げ、財団創立20周年となった89年からは現在まで続く現代音楽を中心としたプログラムに。国内外の最新動向を紹介したり新しい作品を委嘱したりと、バブル経済崩壊後もこうした先鋭的な音楽活動を支え続けたことは今後も長く語り継がれていくだろう。
他にも様々な事業を行ってきたのだが、そのなかでも38年の歴史をもつ「作曲家の個展」は重要な存在。サントリーからの委嘱によって武満の実質的なチェロ協奏曲である《オリオンとプレアデス》、一柳慧の代表作のひとつ交響曲《ベルリン連詩》といった名曲が生まれ、書き下ろしではないが黛敏郎のオペラ『金閣寺』の日本初演といった作曲者個人やオーケストラ主催では困難な企画を実現させてきたのだから。2016年からは毎回2人の作曲家を主役に据える形に企画をリニューアル。すでに一度この個展シリーズで取り上げられている作曲家であっても何らかの共通点を持つ者同士を組み合わせることで、新たな視点を提供してくれるのが実に面白い。
今年登場するのは細川俊夫(1955~)と望月京(1969~)。世代こそ違えど、両者ともにヨーロッパで委嘱されたり演奏されたりする機会が多く、例えば細川はゲルギエフ指揮のウィーンフィル、望月はヤンソンス指揮のバイエルン放送響といった、一流の指揮者とオーケストラによって作品が初演されるような作曲家なのである。そんなふたりによる近作と、サントリーホール委嘱による最新作がまとめて披露される。
細川の《抱擁―光と影―》オルガンとオーケストラのための(2016~17)は、日本でもお馴染みの若き天才ヤクブ・フルシャの指揮によるバンベルク交響楽団によって初演された作品。パイプオルガンというとダイナミックなイメージが先行してしまいがちだが、細川の書くオルガンのための音楽は非常に繊細で、そこが非常に魅力的。アジアらしい陰と陽のコントラストに、人の声のようなオルガンと自然や宇宙を表象するオーケストラがテーマとなり、両者が最終的に抱擁するという楽曲だ。一方の望月による《むすび》オーケストラのための(2010)は、東京フィル創立100周年のために書かれた「寿ぎの歌」をテーマにした作品だけあって、良い意味で現代音楽らしくない明るい響きに包まれた一作。雅楽や祭り囃子といった日本人にとって親しみやすい要素を用いながらも、安易な民族主義的な音楽になっていないのが望月作品の魅力だ。
こんなふたりが最新作ではどんな音楽を聴かせてくれるのか。こればかりは当日ホールに行ってみないと分からない――この冒険感も含めて、現代音楽はとっても楽しいのである。
LIVE INFORMATION
サントリーホール 作曲家の個展Ⅱ 2019
細川俊夫&望月 京 ~サントリー芸術財団50周年記念~
○2019年11月28日(木) 18:20~プレコンサート・トーク 18:00開場/19:00開演
【出演】
オルガン:クリスチャン・シュミット
打楽器:イサオ・ナカムラ
指揮:杉山洋一
東京都交響楽団
【曲目】
細川俊夫:『抱擁―光と影―』オルガンとオーケストラのための(2016~17)
望月京:『むすび』オーケストラのための(2010)
細川俊夫:オーケストラのための『渦』(2019)[サントリーホール委嘱作品・世界初演]
望月京:『オルド・アプ・カオ』打楽器とオーケストラのための(2019)[サントリーホール委嘱作品・世界初演]
【会場】サントリーホール 大ホール
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20191128_M_3.html