コアな普通がうれしい
開放的な都市型フェスティヴァル

 ポピュラー音楽の場合、フェスティヴァルのよしあしは、出演者のプログラミングとそれを形にする現場のスタッフの能力のバランス次第で決まる。どちらが不備でもフェスティヴァルは成功しない。

 たとえば、よく知られているフジロックの例を見てみよう。出演者の選択は内外の有名なミュージシャンから新人まで幅広い。アーティスト選びはオンタイムの人気だけが基準ではなく、ボブ・ディランを呼ぶようなこだわりもある。会場の苗場スキー場の広大な敷地には、いくつものステージ、キャンプサイト、ショップが設けられ、ワークショップも行なわれ、選択肢は多い。会場に緑陰がたっぷりあるわけでなく、天候も気まぐれだが、そんな真夏のアウトドア体験を含めて音楽を楽しんでほしいというのが主催者の言い分だ。

 ステージはすべてを観て回るのは不可能なので、参加者は自分の好みに合わせてどう過ごすかを決めることになる。雨で泥まみれはつらいねという人もいれば、それが楽しいという人もいる。スタッフがいくら最高のPAを用意しても、音楽だけをじっくり味わいたい人には不興を買うだろう。もっともそんな人は来ないだろうが。

 ということは先の二つの要素に加えて、聴衆の嗜好もまたフェスティヴァルの成否に関わってくるということだ。そのためには、フェスティヴァルにふさわしい客に情報を届ける努力も必要とされる。とはいえフェスティヴァルは生きもの、人の気分は変わりやすく(柔軟性がある)、蓋を開けてみるまで分からないというのも事実ではある。

 フェスティヴァルが増えてくると、他のフェスティヴァルと競合しない特色を出すことも求められる。LIVE MAGIC!はそれに成功してきたフェスティヴァルの一つだ。タイトルのLIVE MAGIC!の前にPeter Barakan’s とあるように、このフェスティヴァルはブロードキャスター/DJのピーター・バラカンを監修者に迎えて、6年前にはじまった。監修者とあるのは美術館のキュレイターのような位置づけか。制作のCreativeman Productionsは、フジロックと対照的な都市型の大型フェスティヴァルの老舗SUMMER SONICをはじめ、テクノからジャズまで数多くのフェスティヴァルを成功させてきたプロモーターだ。

 会場はいつも恵比寿ガーデンプレイス内のガーデンホールとガーデンルーム。ガーデンプレイスは渋谷や新宿の雑踏とちがって、落ち着いた大人向けのオアシスのような場所だ。ホールがスタンディングで1500人、ルームが500人。ホールのロビーにも小さなステージが設けられる。つまり規模からすると大きめのライヴハウスでゆっくり演奏を楽しむタイプの都市型フェスティヴァルということになる。

 出演者は監修者のピーター・バラカンが「聞きたい人」を選んでいる。スタッフの意見や予算など諸般の事情も考慮しているだろうが、彼の音楽の好みが強く反映されていることはまちがいない。1回目の2014年には、ニューオーリンズのピアニスト、ジョン・クリアリー、ブルーグラスのギタリスト、ジェリー・ダグラス、細野晴臣、高橋幸宏といった顔ぶれが中心だった。以後2015年はアイム・ウィズ・ハー、ダイメ・アロセナ、TIN PAN、OKI DUB、マレウレウなどなど、2016年はソニー・ランドレス、ジョー・バターン、濱口祐自、吾妻光良などなど、2017年はソウライヴ、オマール・ソーサ&セク・ケイタ、小原礼&屋敷豪太などなど、2018年はジョン・クリアリー、デレブ・ジ・アンバサダー、民謡クルセイダーズ、高田漣などなど、が出演している。

 海外のアーティストはヒット・チャートを賑わせているような人ではない。日本のアーティストも彼の旧知のYMO関係者以外、基本的には知る人ぞ知るタイプの人たちだ。それでもフェスティヴァルが成立してきたのは、ピーター・バラカン監修という特色がコアなファンをひきつけてきたからだろう。

 彼はかつてミュージック・ビデオを紹介するテレビ番組のVJをつとめていた。いまもNHKFMの「ウイークエンド・サンシャイン」、インターFMの「バラカン・ビート」といった番組を通じて、R&Bやブルースやジャズやロックからワールド・ミュージックまで、ジャンルの枠にこだわらないで、お気に入りの音楽を幅広く放送している。小さな会場での「出前DJ」や、活字媒体での音楽の紹介にも熱心だ。

 人はジャンルで音楽を聞くわけではなく好き嫌いで聞く。普通に音楽が好きな人なら、それまで聞いたことや関心を持ったことがなかった音楽でも、ふとしたきっかけで魅力に気がつけば、それを受け入れる。ピーターはある意味、そんな聞き手の一人であり、彼がラジオの番組で紹介しているのは、そうした多様な音楽に開かれた出会いの軌跡と言っていい。

 ジャンルや想定される聞き手に向けて細分化された音楽番組が多い現在、彼の番組のような姿勢で音楽を紹介する番組は珍しい。普通の音楽ファンにとって自然なはずの番組が少ないのは、マーケティングを重視して編成するほうが放送局としては楽だからだ。しかし洋楽が英米中心のポピュラー音楽に著しく偏っていることが「普通」とされる状況を誰も不思議に思わないのだろうか。

 広い範囲の音楽を、ある程度以上の質を保ちながら紹介し続けるには、実は知識も情熱も時間も経費もかかる。ピーターは持ち前の好奇心を発揮して、あまり知られていない音楽でも、そこに最大公約数的な魅力をみつけて紹介している。政治や社会問題と音楽が無関係でないことをさりげなく語れるところにも、音楽おたくになりすぎないコアな普通らしさを感じる。語りが権威的な視点ではなく、音楽ファン目線なのも番組が共感を呼んでいる理由だろう。LIVE MAGIC!はいわばそんな彼の音楽の趣味を生で楽しめるように企画されたフェスティヴァルだ。

 今年の告知のコメントで「5年間続けてある程度フェスとしての認識も高まり、国内外のミュージシャンから出演したいという連絡をいただくようになりました。紹介したいアーティストが多いのが嬉しい悩みです」と彼は語っている。出演者はタミクレスト、3MA、フロール・デ・トロアーチェ、小坂忠Magic Band 2019、シーナ&ロケッツ、Amamiaynuをはじめ、例年より数が多いのはそのせいだろうか。

 海外組はワールド・ミュージックの出演者が注目される。タミクレストはサハラ砂漠周辺から登場したグループで、21世紀に入って世界的に話題のデザート・ブルースの分野の人気グループ。3MAはアフリカのアコースティック楽器の名手3人が国境を越えてくり広げるインタープレイとアンサンブルが聞きもの。フロール・デ・トロアーチェはニューヨークでメキシコ音楽の楽団マリアッチを組んだ女性グループという変わり種だが、カントリーやフォークとも地続きのポップな華やかさが魅力。日本側は、上記のロック/ポップの大御所2組が初参加。朝崎郁恵とOKIらによる奄美とアイヌのコラボレーションが東京では初のお披露目だ。

 疲れたときは、普通のライヴハウスより質のいい自然派系の飲食を楽しめるのもこのフェスティヴァルの好きなところ。それでロビーで長居しすぎてあわてることも多いのだが。

 


LIVE INFORMATION

LIVE MAGIC!
○10/19(土)20(日)開場12:00/開演13:00(予定)
【19日の出演者】小坂忠 Magic Band 2019 / シーナ & ロケッツ / Tamikrest / Steinar Raknes / Dos Orientales / Myahk Song Book -Tinbow Ensemble- / 濱口祐自 / Rei×千賀太郎(MONSTER TAI-RIKU)  / Afropolitan the band / 西村ケント
【20日の出演者】Flor de Toloache/ 3MA / Amamiaynu(朝崎郁恵 + OKI + KAPIW & APAPPO + Rekpo) / J.LaMotta すずめ / 斎藤圭土 + Axel Zwingenberger / 東京中低域 / サカキマンゴー / 濱口祐自 / The Kota Oe Band/Juana Molina -Quiet Versions-/Coelho & Ridnell
【会場】恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール / ザ・ガーデンルーム

LIVE MAGIC! EXTRA in OKINAWA
○10/22(火)開場18:30/開演19:00
【出演】J.Lamotta すずめ[J.Lamotta Suzume(vo) /Doron Segal(key)/Martin Buhl(B) /Ra'fat Muhammad(Ds)/Nir Tom Sabag(per)] Myahk Song Book [與那城美和(Vo) /松永誠剛(B)] /ピーター・バラカン
【会場】琉球新報ホール
https://www.livemagic.jp/