ピーター・バラカンがオーガナイズするフェス〈Peter Barakan’s LIVE MAGIC!〉が、10月22日(土)、23(日)に恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール/ザ・ガーデンルームで今年も開催される。ユニークかつ良質なルーツ系の音楽を楽しめる場として定着しつつある本イヴェントだが、3回目となる今回も、現代を代表するスライド・ギターの名手から伝説のラテン・ソウル・シンガー、ルイジアナ・ビートとブラジリアン・リズムを融合させたデュオなど相変わらず雑多なラインナップが揃っている。
Mikikiでは、ピーター・バラカンに加え、今年の出演者のなかから吾妻光良に濱口祐自、高田漣、Reiに集まってもらい、バラカンみずからが用意した出演者たちの映像を観ながら、各々のライヴの見どころをざっくばらんに語り合ってもらう座談会を実施。その模様を今回から4回に渡って紹介していく。
いずれも個性的かつ実力派のギタリスト、なおかつブルーズやジャズなどルーツ・ミュージックに精通したミュージシャンばかりということもあって、本格的かつマニアックな音楽談義が展開されることに。この取材のタイミングで初顔合わせとなったメンバーもおり、なかでも前からファンだったという吾妻光良とようやく対面することができた濱口祐自は、会場到着時より興奮しきり(同学年だとわかっていっそう大盛り上がり)。そんな空気のなか、座談会がスタートした。
SONNY LANDRETH
エリック・クラプトンが〈マイ・ヒーロー〉と讃えるルイジアナ州ラファイエット育ちのギタリスト。〈ビハインド・ザ・スライド〉奏法という唯一無二なギター・スタイルは同業者からの信頼も厚く、数多くのアーティストのサポートも務めてきた。ケイジャンやザディコといった米南部で生まれた音楽をルーツに持つ彼だが、自身の作品では常にジャンルの壁を越えた音楽作りを追求し、幅広い層のリスナーから支持を受けている。最新アルバムは真正面からブルーズに向き合った『Bound By The Blues』(2015年)。〈LIVE MAGIC!〉両日に出演する。
ピーター・バラカン「〈LIVE MAGAIC!〉は今回で3回目を迎えます。出演者は2日間で16組。盛りだくさんの内容になりますが、今回は4組のギタリストの方に集まっていただき、ギターを中心とした話をしてもらうことになるかな。出演者たちの映像を観ながら、話をしていただきたいと思います。最初はサニー・ランドレスの“Congo Square”から。サニーのことはみんな知ってるよね? これは彼の曲でもっとも知られているものです」
吾妻光良「コンゴ・スクウェアというのはニューオーリンズにある場所の名前ですよね?」
バラカン「そうです。奴隷制度が敷かれていた時代、毎週日曜日の午後に黒人たちが歌ったり、踊ったりすることが許された場所で、ルイ・アームストロング・パークの一角にいまでもあります。そこを歌った曲なんですね。サニー・ランドレスはルイジアナ州育ちで、もともとはクリフトン・シェニアというザイディコの王様のバックでギターを弾いていた人。ソロ活動を始めてから、かれこれ30年以上になるのか」
吾妻「演奏を聴いていると、理知的な人だという印象を受けますね。でもキャリアのスタートがクリフトン・シェニアというのがおもしろい。クリフトン・シェニアはアゲアゲの人だから、その人のバックでやっていたとは意外で。そういう耳で聴くと、激しい感じも納得できる」
バラカン「実際に彼のライヴを観たことがある人は?」
濱口祐自「ナマはないねぇ。今度フェスで観るのが初めてやのう」
Rei「私も初めてだから、めちゃめちゃ楽しみにしていて。映像を観ていてもわかるんですが、ヘッド側を指で押さえながらバーを動かすスライド奏法が独特で。すごく繊細なテクニックを間近で観られるのがすごく楽しみです」
バラカン「音もかなり大きいみたい。実際に指の動きが判別できる距離まで近付いていくのに、耳栓が必要になるかもしれない(笑)」
吾妻「アイク・ターナーの前座で来たとき※に初めて観たんだけど、自動でチューニングが変わるギターを使っていて、さっき話に出たスライド奏法も出てくるし、魔法使いかと思った(笑)。そのときの印象もあって理知的な人だと思っていたら、最近は音もデカイみたいだし」
※〈ジャパン・ブルース&ソウル・カーニバル2003〉。メイン・アクトだったアイク・ターナーは来日できずに出演キャンセルとなったが、サニーを含むそのほかのアーティストは出演
バラカン「エリック・クラプトンが、サニーのことを〈世界でもっとも過小評価されているギタリスト〉だと言っているのは有名な話。マーク・ノップラーとも交流があって、アルバムにゲスト参加していますね※。誰もが知っている人というわけじゃないけど、たくさんのギタリストたちが〈サニー・ランドレス来るんだ! 嬉しいな~〉ってすごく喜んでる。故郷のルイジアナ的な音楽やストレートなブルーズなどさまざまなことをやる人ですが、2日間出演するので、両日共に来てくれるお客さんが飽きないよう、適度にセットリストを変えてもらおうと思っています」
※サニー・ランドレスの2008年作『From The Reach』収録曲“Blue Tarp Blues”にマーク・ノップラーがギター&コーラスで参加
吾妻光良 & The Swinging Boppers/吾妻光良トリオ+2
吾妻光良 & The Swinging Boppersは、日本最古にして最高峰のジャンプ・ブルース・バンド。時事ネタをふんだんに散りばめながらユーモアたっぷりに日常を描き出す吾妻光良の歌世界、ジャイヴやカリプソなど多様なエッセンスを採り込んだ4リズム&8ホーンから成るビッグバンド・サウンドは、熟成度満点。涙と笑いのスパイスを利かせた抱腹絶倒のステージも、コアな音楽ファンからフェス好きのヤングまで幅広く魅了している。2日目には吾妻光良トリオ+2というスモール・コンボで出演する。
濱口「カッコええのう! ビッグバンドをバックにこうやってギター弾けたら至福やろのう」
吾妻「これはねぇ、エピフォンの49,800円のギター」
濱口「吾妻さんとお会いするのは今日が初めてで、どえらい嬉しいんや。ずっと彼のコラム※のファンやったから。だいぶ読んだあるで、俺。当日はこの映像に映ってるメンバー全員で来るんですか?」
※Player誌にて吾妻が77年から担当している長寿コラム〈ぶる~すギター高座〉
吾妻「はい、13人で」
濱口「かなり強力やろのう」
吾妻「他に楽しみがないんです……」
濱口「いやいやいや。あと酒と(笑)」
バラカン「このバンドは始めてから何年になるの?」
吾妻「79年からです。メンバーが2人ぐらいしか変わってなくて。学生のときからの付き合いですからね」
Rei「私、93年生まれです!」
濱口「マジかい!」
Rei「一度、東京キネマ倶楽部でライヴを観させてもらって、感動しました。ブライアン・セッツァーのような、後ろにホーンズがいるバンドを彷彿とさせるけど、バック・バンドを引き連れている感じが私の好きなシスター・ロゼッタ・サープに似ていて、すごくカッコイイなと」
吾妻「シスター・ロゼッタ・サープ! なんて感心なお嬢さんだろう」
バラカン「吾妻さんは今回、Swinging Boppersと吾妻光良トリオ+2という編成でも出演してくれます」
吾妻「The Swinging Boppersは13人のスケジュールを合わせるのが大変なんですが、このたびめでたく還暦を迎えまして、この先いったい何回ライヴをやれるかわからないし、(メンバーが集合できる)土日をなるべく充実させようと思ってやっております。トリオ+2でやる曲は全然違います」
バラカン「もうちょっとブルージーな曲?」
吾妻「スモール・コンボっぽい曲。ジャイヴやカリプソとかをよくやっています。このところの一押しは、アッティラ・ザ・フンの“Roosevelt In Trinidad”。それを日本語で“アベさん、トリニダッドへ行く”として演ってます。歌うとカタルシスが得られますよ」
バラカン「ハハハ(笑)。ぜひ歌詞に注目ですね。皆さん、この原曲は知ってますか?」
濱口「ライ・クーダーもカヴァーしとったのう」
バラカン「そうそうそう」
吾妻「ルーズベルト大統領がトリニダードを訪れた際のエピソードが歌われている原曲は、〈バンザイ、ルーズベルトがやってきた。こんな素晴らしい出来事はない!〉という内容なんですが、〈アベさん〉の場合はお出迎えが一人しか来なかった、とかそんなことを歌っています」
バラカン「それは楽しみだ(笑)」
JOE BATAAN
60年代中盤、モントゥーノのリズムに、リズム・アンド・ブルースやロックをミックスさせたブーガルーが一世を風靡。そのムーヴメントの先頭を突っ走っていたアーティストが、アフロ・フィリピーノであるジョー・バターンだ。サルサの老舗レーベル、ファニアから『Subway Joe』や『Riot』といったヒット・アルバムを連発。それらの作品は90年代にクラブ・シーンで人気を博し、リイシューされて幅広い層の人気を獲得した。一時は音楽活動を中断していたが、2000年代に入ってから復帰。近年は頻繁に来日を果たしており、今回が3度目となる。
吾妻「フィリピンの人でしたっけ?」
バラカン「そうです。フィリピンとアフリカン・アメリカンのハーフで、若いときはかなりの不良だったらしい」
濱口「不良ってのがええのう(笑)」
バラカン「少年院に入ったりしていたんだけど、出てきてから音楽の世界に入って更生することができたみたい。60年代の終わりにラテンとソウルが合わさったようなブーガルーが流行ったじゃない? この人がラテン・ソウルの流れを作った張本人なんです」
吾妻「NYで? フィリピンにいたわけじゃないんだ」
バラカン「生まれも育ちもNYなんです。ファニアが完全にサルサのレーベルになる前、こういうブーガルーのレコードをたくさん出していましたね。そうそう、彼は70年代にサルソウル・レーベルを作った一人でもある」
吾妻「(映像を観ながら大爆笑)。これが本当に不良だったのだろうか! どうしてなんだろう、いい人に見えてくるなぁ」
バラカン「まぁ昔の話ですから(笑)。もういまは70代半ばなので」
吾妻「名前の〈Bataan〉という綴りは他じゃ見たことがないですね」
バラカン「うん、アジア風ですね。結構長いこと音楽の世界から身を引いていたみたいなんだけど、2000年代に入って復帰したんですね。ライヴはこういう70年代のラテン・ソウルの感じでやりますから」
濱口「盛り上がるやろのう、これは」
Peter Barakan's LIVE MAGIC! 2016
10月22日(土)開場12:00/21:30終演予定
10月23日(日)開場12:00/20:00終演予定
東京・恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール/ザ・ガーデンルーム
1日券 12,000円/2日通し券 21,000円
(中学生・高校生)学割1日券 7,000円/学割2日通し券 11,000円
※すべて税込・オールスタンディング、小学生以下無料(要保護者同伴)
★詳しくはこちら
【撮影協力】
Cafe Havana Tokyo
NY発、アジア初上陸のキューバン/メキシカン・カフェダイナー
東京都渋谷区猿楽町2-11 氷川ビル 1F
03-3464-1887
11:00~22:00(年中無休)
★オフィシャルサイトはこちら