映画に流れる様々なギター名曲を福田が演奏
小説『マチネの終わりに』は作家・平野啓一郎とギタリスト・福田進一の偶然の出会いから生まれた。
「2003年にたまたまストックホルムに滞在していた時に平野さんと出会いました。その時は挨拶程度の話しかしなかったのですが、2010年頃からTwitterなどを通して交流するようになりました。2011年に僕はJ・S・バッハの『シャコンヌ』や『無伴奏チェロ組曲第3番』などを収録したアルバムを出したのですが、それを平野さんが聴いてくれた。その後、突然に『ギタリストを主人公にした物語を構想しているので、話を聞かせてくれないか』という展開になり、我が家に平野さんがやって来て、深夜遅くまで話し込むという機会があったのです。それが平野さんの中で大きく膨らんでいって、この小説となった。小説の中に『未来は常に過去を変える』という言葉が出て来ますが、今の時点で振り返ってみると、まさにそれが実感として感じられますね」
と福田はこれまでを振り返る。小説が単行本として刊行された後、2016年には小説に登場するギター曲を集めたタイアップCDがリリースされ、注目を集めた。そして今回の映画化に際して、福田は映画に使用されるギター曲の演奏を担当し、それがオリジナル・サンドトラック盤としてリリースされることになった。
「今回の作品ほどに、全編にクラシック・ギターによる音楽を使った映画というのは無かったし、おそらく、これからも無いでしょう。とても貴重な体験をさせて頂きました。映像のリズム、テンポ、雰囲気に合わせて、普段の自分なら弾かないようなテンポ感で演奏した作品もありますし、西谷監督のとてもきめ細やかな演出にマッチした音楽に仕上がっていると思いますので、ぜひ劇場でそれを体験してほしいですね」
このオリジナル・サンドトラックCDには、主人公・蒔野聡史を演じた福山雅治の演奏による、映画のメインテーマともなる《幸福の硬貨》(作曲・菅野祐悟)や、荘村清志の演奏によるレスピーギ《シチリアーナ》も収録されているので、要チェックだ。
また、小説のタイアップCD第2弾も『マチネの終わりに and more』として、この9月にリリースされた。薪野と小峰洋子が最初に出会った時に話題となるブラームスのピアノ曲のギター編曲である《間奏曲 第2番》(編曲・鈴木大介)も収録された。ソプラノの林正子が参加してラヴェルの《ヴォカリーズ》とヴィラ=ロボスの《アリア~ブラジル風バッハ第5番より》を歌っているのも、小説とはひと味違った味わいをもたらしてくれる。小説~映画~CDと、この秋は『マチネの終わりに』の世界を楽しみたい。