COLUMN

映画「マチネの終わりに」 福山雅治 × 石田ゆり子――2つの心の交流にクラシックギターが添う

クラシックギタリスト界の新星・ティボー・ガルシアも特別出演
©2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

静謐なクラシックギターの調べを聴きながら、人生の心の旅に出る2時間

 平野啓一郎の『マチネの終わりに』には俯瞰からのまなざしがある。過去と未来についての考察は、心理学的な唯物論のようでもあり、物語は重層的に進行してゆく。主人公の男女は、クラシックギター演奏家・蒔野聡史とパリ在住の通信社記者・小峰洋子。出会ってから6年間でわずか3回しか会えなかった二人が、深く心を交わしていく物語には、実在のモデルがいたと本の序文に記されていた。毎日新聞に連載小説として発表されていた時には触れなかった事実だ。実在のギタリストとジャーナリストを想像しながら原作を読み、連動CDを聴き試写鑑賞した。

 映画では、主役の二人は福山雅治と石田ゆり子が演じている。福山は、世界的なクラシックギタリスト福田進一の特別指導を受け、映画の鍵になる《幸福の硬貨》(作曲・菅野祐悟)を弾きこなし、サントラ盤にも収録されるという。石田ゆり子は、国際ジャーナリスト役のために語学を集中的に学んだ。パリのテロ事件の現場ではフランス語で矢継ぎ早に質問し、日系アメリカ人の婚約者とは英語で話す。役作りの努力とひたむきさ、緊張感がスクリーンから伝わってくる。平野文学で言うところの「分人」的な言葉のコミュニケーションにも人間的なリアリティを感じた。登場人物たちがさりげなく交わす九州訛りの会話。特別出演のギタリスト ティボー・ガルシアの実演シーンと短い台詞はリアルだ。

 全編に流れるクラシック・ギターの美しい音色に耳を傾けながら、心の旅に出る。東京、パリ、ニューヨーク…国境を超えたロケーションの中で、世界を舞台に生きる二人の息遣い、それぞれの道で表現者として生きる孤独感や焦燥感や葛藤。周囲の人々の運命も影響を与え合いながら流れてゆく。

 人生の答えはすぐには出ない。序盤で語られたギタリストの言葉を咀嚼する。

 「ベートーヴェンの日記に『夕べにすべてを見とどけること』という謎めいた一文があるんです」。

 音楽は、未来に向かって一直線に前進するだけではない。過去に向かっても広がっていく。フーガ形式の面白さもそこにあるのだと。「人は、変えられるのは未来だけと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それぐらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

 「過去と未来」についての台詞は、終盤でもつぶやかれる。「花の姿を知らないまま眺めた蕾は、知ってからは、振り返った記憶の中で、もう同じ蕾じゃない」。小説で語られる台詞が映像の中でせつなく響く。愛とは、友情とは、家族とは、人生とは。平野は西谷監督との対談で語る。「映画を観ていて、僕自身、あのふたりにもう一回再会してもらいたいという気持ちになりました。こうだったら良かったのにな…あのとき、なんでこうしなかったんだろう…こうしたかったのに…過去にそういう思いを抱えてる人たちに強く共感された物語でした。」

 「マチネの終わりに」、その続きはソワレで奏されるのだろうか。

 


CINEMA INFORMATION

映画「マチネの終わりに」
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎「マチネの終わりに」
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
クラシックギター監修:福田進一
出演:福山雅治 石田ゆり子
伊勢谷友介 桜井ユキ 木南晴夏 風吹ジュン
板谷由夏 古谷一行
配給:東宝(2019年 日本)
◎11/1(金)全国ロードショー
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