平野啓一郎のベストセラー小説をクラシックギターの調べとともに鑑賞する
「音楽は、静寂の美に対し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある。」
芥川也寸志『音楽の基礎』より
小説『マチネの終わりに』の中で、平野啓一郎が引用した 芥川也寸志の一文を、主人公のクラシックギタリスト薪野聡史は反芻する。“静寂”とは 「なんと心地良いものだろうか」と。音楽と静寂。両者が存在してこその美。 2015年3月1日から2016年1月10日まで毎日新聞に連載された平野啓一郎の小説『マチネの終わりに』はギタリストの男性とジャーナリストの女性が主人公の物語だ。実在の人物がモデルらしいが、リアリティは、音楽についての記述の細やかさに感じる。平野はあとがきにこう記している。「ギタリストの福田進一氏には、構想の段階から相談に乗っていただき、大変お世話になった。同じくギタリストの鈴木大介氏、大萩康司氏からも、助言をいただいた」。2016年にはCD 『マチネの終わりに』をリリース。今回のCD 『マチネの終わりに and more』は、その続編である。
選曲は原作に記されている音楽を中心に平野が監修。福田は難題にも応えた。小説の第1章のコンサートシーンで演奏されるブラームスの《ピアノ曲 間奏曲 第2番》は、ギター楽譜用にイ短調からニ短調に移調。(編曲は福田門下生の鈴木大介担当)。バッハ《リュート組曲 第4番BWV1006a》はクラシックギター用に福田が編曲演奏。タンスマン、バークリーの作品。ブラジルの大作曲家 ヴィラ=ロボスの 《12のエチュード》《5つの前奏曲》は印象的だ。武満徹の《すべては薄明のなかで》には救済感。(1989年初演時に武満は福田さんの演奏を聴いたそうだ)。ラストは、バッハの《無伴奏チェロ組曲 第3番BWV1009》より《II.アルマンド》。平野はこの曲からインスピレーションを得て『マチネの終わりに』を書いた。音楽と文学の邂逅から生まれた新たなる響き。読んで聴いてインスパイアされるもよし。鑑賞後の静寂に浸るもまたよし。
CINEMA INFORMATION
映画『マチネの終わりに』
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎「マチネの終わりに」
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
クラシックギター監修:福田進一
出演:福山雅治 石田ゆり子
配給:東宝(2019年 日本)
◎11/1日(金) 全国ロードショー
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