他のエッセンスを入れることにためらいはなかった
――復活まで時間がかかったにせよ、『Y』は最高の仕上がりだと思いましたよ。それこそ、今回のアルバムに参加したメンバーは理想的な顔ぶれじゃないですか?
「そうですね。かれこれ10回くらいメンバー・チェンジしてきましたけど、いまは素晴らしいメンバーばかりでまったく不満がないです。あくまで演奏面の話で、人間性は欠落したメンバーが多いんですけど」
――類は友を呼ぶ?
「ちょっと待ってくださいよ(笑)。僕の本当の友達は別にいるんで。彼らはスタジオでしか会わない仕事仲間」
――どこまで本気かわからないけど(笑)、明らかにスキルアップしてるわけだし。
「そうですね、もっと早くやりたかったくらい。これまでは年上としかやってこなかったので、いまの年下しかいないメンバーとはスタジオでの進め方にかなり影響ありましたね。年下のほうがやりやすかったです」
――Mikiki的には、やっぱりニカホヨシオさん(キーボード)の参加が大きなトピックかなと。
「ナツノムジナの企画で、〈サポートを絶対に加えてライヴをする〉のがコンセプトだったイヴェント※があって。何かしらのエッセンスを与えるっていう。キーボードをやってるのは知ってたので、ニカホくんに声をかけたら出てくれて。そしたら意外と良かった。そこからですね」
※2017年3月2日、Waseda Music Recordsとナツノムジナが渋谷チェルシーホテルで共同開催したフリー・イヴェント『Atrium』のこと
――いまは彼がレコーディングの面倒を見てくれてるそうじゃないですか。
「そうですね。僕はコードや楽譜がわからないので。ドレミファとか、メジャーとかマイナーとかよくわからない(苦笑)。そういうところをクリアにしてくれてるのがニカホくんで、それ以外の悪いところも全部ニカホくんです。彼はホントに問題児なんですよ。口がめちゃくちゃ悪くて、他のメンバーも参ってると思います。彼と仲良くなれるかが一緒にやるための条件ですね」
――何はともあれ、今回のアルバムは最初の2曲にいきなり興奮しましたね。冒頭の“air”では、Dos Monosの荘子itさんのラップが炸裂しています。
「僕はラッパーに詳しくないんですよ。だからステレオタイプなイメージでオラオラしてたり怖いのかなと思ってたけど、荘子itさんはもっとナードな感じの男で。すごく物腰柔らかな人だと思ったら、ラップを聴いてギャップを感じましたね。歌詞はもう、インテリジェンスのお花が咲いてるような感じで」
――〈キミのパパとサシ飲みがしたい〉というラインがいいですね。South Penguinの世界観にぴったり。
「荘子itさんの頭の中を覗き見したような感じですよね。リリックのことはよくわからないんですけど、Dos Monosの音楽がカッコ良かったので、そこで一緒にやれたらと思って」
――『Y』ではこれまでと違うことをやろうという気持ちが強かった?
「そうですね。それこそ今作では、いろんな表現への理解、リスペクトが大事だと思ったので。アルバムの構想段階から、他のエッセンスを入れることにためらいが全然なかったし、むしろ積極的に取り入れていきたいと思ってました」
――2曲目“head”で山田光(hikaru yamada)さんが吹くサックスも、ジェイムズ・チャンスみたいで凄まじいですね。曲はトーキング・ヘッズの“The Great Curve”にそっくり。
「まったく新しくないですからね(笑)。僕もこの曲は入れていいのか迷ったんですよ、ちょっと毛色も違うし。スピードの速い曲はフザけて作ってることが多くて。この曲をリードにしようって話もあったけど却下しました。あまり思い入れのない曲ですね」
――そうなの(笑)? じゃあ思い入れのある曲は?
「“aztec”かな。いちばん最初に作った曲だから」
――チャレンジングな新機軸もあれば、“ame”“alaska”と過去曲のリメイクもある。そういう意味では集大成みたいな趣もありますね。
「そうですね。過去の作品もブラッシュアップしつつ、ファースト・アルバムと呼べるものになったかなと」
――7曲目の“spk”というタイトルを見て、3年前からまったく軸がブレてないなと思いました(笑)。
「そういう意味では音楽の趣味が変わってない。いまだにコナン・モカシンの話ばっかしてますからね(笑)」
――今年、来日公演で本人と会えたんでしょ?
「はい。5曲目の“idol”は、コナンに会ったことで生まれた曲なんですよ」
――え、そうなの?
「僕のアイドルはコナン。それこそAKBみたいなアイドルもいるけど、もともとアイドルって自分にとってのスターって意味じゃないですか。僕、昨日と翌日で全然違うことを言ったりするし、気持ちがコロコロ変わるんですけど、コナンはずっと変わらず尊敬しています」